上 下
567 / 718
第十四章 驚天動地

第十八話 降り掛かった災害

しおりを挟む
 空からの眺めは悲惨なものだった。緑に彩られた美しい森はもうもうと黒煙が立ち、赤い火の光が辺り一面に広がっている。
 八大地獄といえば、ロングマンの”炎熱”やジニオンの”大焦熱”などの炎の攻撃が目に浮かぶ。

「無茶苦茶だな……自然なんて糞食らえって感じだ」

「でもあのワンちゃんと戦えばこうもなるでしょ?」

 ラルフの引き気味な態度にミーシャは肩を竦めて答える。

『いえ、彼らは外では戦いません。洞窟内で完結させるのを徹底させています。まぁ、追い詰められればその限りではありませんが……』

 もしここまでの破壊が八大地獄だけに寄るものなら、攻撃性は魔族以上である。ケルベロスと地上で戦ったというならサトリの言う通り「その限りでは無い」。

「それで……どうします?」

 ブレイドの質問はふわっとしていたが、何が言いたいかは理解出来た。もちろん大広間に居るみんなも。

八大地獄あいつらに対抗出来るのは少ねぇ。ミーシャ、ベルフィア、エレノア、ブレイド、そしてイミーナ。まずはこの五人。アンノウンと歩も身体能力的には戦えそうだけど、どちらかといえば特異能力が凄いからそこで戦ってほしい。具体的にはアンノウンは遠距離攻撃、歩は俺と一緒にケルベロスの捜索だな。アルルたちは要塞に待機。ウィーは応援よろしく」

「ウィー!!」

 グッと力一杯拳を振り上げるウィー。

「待ちなさいラルフ。あなたが戦いに参戦しない理由は何なの?ケルベロス捜索?それはデュラハンに任せてこっちに来なさい」

 即座にイミーナのツッコミが入る。身体能力と特異能力を例に挙げるなら、ラルフも例外では無いだろう。

「えぇ……俺ぇ?でも俺弱いぜ?」

 ラルフは困惑気味に両手を挙げる。お手上げとでも言いたいようなポーズだが、ここでは通用しない。

『何を仰ります?あなたが弱いだなんてあり得ませんよ。私が力を授けたのですよ?大丈夫、自信をお持ちください』

 サトリは暖かく包み込むような笑顔でラルフの背中を押す。ラルフは心底嫌そうに顔を歪めた。

「あぁー……た、確かに俺はサトリに力を貰ったけど、あいつらに対抗出来るレベルじゃ無いし……そ、それに何だ、ワープホールの能力でケルベロスをすぐさま要塞に遅れるぜ?これは俺に任せるべき案件だろ?」

「そうかノぅ?それなら妾でも良いじゃろ?転移魔法ならそれこそ一瞬じゃぞぃ。とはいえ、妾は戦いノ方が好みじゃからこノままでも良いがノぅ」

 ベルフィアも賛同する。

「それなら私も戦いに参加したいです!ブレイドと一緒に戦いたいです!」

「アタシモ戦イタイ。身体能力ガ上ガッタノハ ラルフ ダケジャ無イカラ」

 アルルもジュリアも不満を言い始める。何とも頼もしい限りだが、最初に決めたことが御破算。イミーナの一言でラルフの安全ルートも潰され、面倒極まりないところに立たされる。これにはイミーナもにっこり。

「うん!私に良い作戦がある!」

 そこにミーシャが入る。

「何?ミーシャが作戦を?」

 作戦という単語には複雑な印象を感じるが、ミーシャが作戦という単語を用いれば途端に短絡的になる。どうせ「真っ向から叩き潰す」程度のことだろう。

「私が提示するのは”デコイ作戦”!」

 ミーシャから出たとは思えない言葉に皆が面食らう。

「流石ミーシャ様!すぐにお聞かせください!」

 ベルフィアの食いつきだけが凄まじい。しかしそんなベルフィアの反応に気を良くしたミーシャは大広間の隅々に聞こえるように話し始めた。



「……全く面倒な畜生共だ……」

 ロングマンの苛立ちはピークに達していた。ケルベロスは戦いが不利と見るやすぐさま逃げに徹し、その尻尾すら見せない。範囲攻撃でも仕掛ければ出てくるかと思ったが、全くその兆候もない。考えてみれば、火に耐性のある魔獣に対して火を用いたのは失敗でしかない。

「地道に探すしか無いとかあり得ないんですけど」

 ノーンはキョロキョロと辺りを見渡す。生き物という生き物が退避したと思われるほどに気配の無い、火に炙られる森に対してため息をつく。火がパチパチと草木を焼く音を立てる中、啜り泣く声が混じる。この森で暇な日々を過ごしていたハーフリング。八大地獄に洞窟を案内した少年、フィンレーが目の前の惨状に心を痛める。
 自分が犠牲になればこの森も村も村人も守れると思っていた彼の前で全てが焼かれる。村人は急いで逃げたかもしれないが、もう二度と過ぎ去った平和は帰ってこない。森も炭化し、見慣れた美しい景色は失われた。
 これを巻き起こした八大地獄に深い憎悪を感じる。だが、フィンレーの力でどうにか出来る術はない。力の無い者は何も出来ない。何をする権限もない。今この森で行われていることは、弱肉強食という力こそが全てのこの世界の縮図。
 戦争とは無縁で育ったハーフリングたちが初めて経験する絶望。平和がどれほど尊く、素晴らしいものだったかを実感出来た。彼ら的には実感したくもなかったが……。

「泣くんじゃねーよ。男だろ?」

 テノスは相手の気持ちを考えることなくフィンレーに追い打ちをかける。自身の大切な住居、場所、平和を奪われたものの気持ちなど分かる訳がない。何故ならこの世界に来られて良かったとすら感じている、生まれ故郷に愛着のない男だから。

「おいっ!お前らっ!!」

 その時、怒号が響いた。突然のことに全員の視線が正面に集中する。
 そこに立っていたのは草臥れたハットを被ったヒューマン。フィンレーはそのシルエットを知っている。

「コンラッド!!」

 少しだけ……特にお腹の部分がすっきりしているが、このシルエットは間違いない。みんなに食べ物を届けてくれる気の良いおじいさん。しかしフィンレーの期待は裏切られる。

「違う!俺はラルフだ!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ
ファンタジー
『完結済!』【続編製作中!】  『アルゴノート』  そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、半世紀以上前のことである。  元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称である。  彼らを侵略戦争の尖兵として登用したロードルシアは、その勢力を急速に拡大。  二度に渡る大侵略を経て、ロードルシアは大陸に覇を唱える一大帝国となった。  かつて英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が持つ価値は、いつしか劣化の一途辿ることになる。  時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。  アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。 『アルゴノート』の少年セスは、ひょんなことから貴族令嬢シルキィの護衛任務を引き受けることに。  典型的な貴族の例に漏れず大のアルゴノート嫌いであるシルキィはセスを邪険に扱うが、そんな彼女をセスは命懸けで守る決意をする。  シルキィのメイド、ティアを伴い帝都を目指す一行は、その道中で国家を巻き込んだ陰謀に巻き込まれてしまう。  セスとシルキィに秘められた過去。  歴史の闇に葬られた亡国の怨恨。  容赦なく襲いかかる戦火。  ーー苦難に立ち向かえ。生きることは、戦いだ。  それぞれの運命が絡み合う本格派ファンタジー開幕。  苦難のなかには生きる人にこそ読んで頂きたい一作。  ○表紙イラスト:119 様  ※本作は他サイトにも投稿しております。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ
ファンタジー
 河井信也は会社帰りに、かつての親友である茂と再会する。  何年か振りの再会に、二人が思い出話に花を咲かせていると、茂は自分が神であると言い出してきた。  怪しい宗教はハマったのかと信也は警戒するが、茂は神であることを証明するように、自分が支配する異世界へと導いた。  そこは高校時代に二人で共同制作していた自作ゲームをそのまま異世界化させた世界だという。  驚くのも束の間、茂は有無を言わさず、その世界に信也を置いて去ってしまう。  そこで信也は、高校時代に喧嘩別れしたことを恨まれていたと知る。  異世界に置いてけぼりとなり、途方に暮れる信也だが、デバックルームの存在を思い出し、脱出の手立てを思いつく。  しかしデバックルームの場所は、最難関ダンジョン最奥の隠し部屋。  信也は異世界から脱出すべく、冒険者としてダンジョンの攻略を目指す。

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

処理中です...