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第十四章 驚天動地

第十七話 神様からのお願い

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 イミーナとアスロンの薄暗い取り引きとは逆に、大広間でまったりしていたラルフたち。黒影の奪還を経て、次なる目的地へ思いを馳せる最中、サトリがラルフの頭に語り掛ける。

『パパ……パパ……聞こえますか?』

「それ辞めろって!」

 ガタッと立ち上がって抗議する。サトリも大概しつこい。何度言われてもラルフの神経を逆なでしようと擦り続ける。
 ラルフにとってはいつも通りのツッコミではあったが、みんなの目が丸くなって自分を見ているのに気づく。頭の中で響いた声は、即ち周りには聞こえてすらいない。それに気づくのに若干時間がかかったが、ラルフは取り乱すことなく答える。

「……いや、サトリが頭の中で話しかけてきたんだよ。みんなの前に出てくりゃ良いのに、わざわざ俺だけに話しかけんだもんなぁ」

「サトリって、あのエッチぃ格好した人?確か神様だよね?」

 アンノウンが即座に反応してくれる。それによってみんなの顔に納得の色が見えた。これなら万が一恥ずかしい奇行に走っても、サトリのせいってことで許してくれそうだ。

『ふふっ、イケない人。娘を道具に使うなんて……』

(だから辞めろってば……良いから出てこいよ、話なら面と向かってしよう)

 このままでは完全に独り言になってしまう。サトリが話しかけているのだと周りが分かってくれていても、恥ずかしいし、変な目で見られたくはない。

『申し訳ございません。恥ずかしい思いをさせたかったわけではないのですが……』

(嘘だぁ……)

 ラルフは知っている。サトリという神がどういう性格をしているのか、ふわっとだが理解している。一応謝罪をしているが、まったりして正常な判断が出来ない頃合いを見計らったことは明らか。言葉で取り繕っても、嬉しそうな口調が隠しきれない悪戯っ子の雰囲気を醸し出している。
 そうして呆れ返っているラルフの目の前に突如光が収束し始めた。サトリ出現の兆候に注目が集まる。

『参りました。あなたには隠せませんねぇ……』

 光を纏って現れた下着に透けるほど薄い布を身につけた髪の異様に長い女性。美人で妖艶な空気を出しつつも神々しい姿に感嘆の声が漏れる。

「全く、もっと普通に声をかけろよ。つーかその格好はいつ見ても刺激が強すぎるな……出来れば着替えてくれないか?ここには初心うぶな青少年がいるんだからな?」

 ブレイドと歩はまだ十代。性に盛んで奔放な歳に、こんな美女を目の当たりにしたら直立では立っていられないだろう。
 ブレイドはアルルで見飽きているだろうから、もしかしたら大丈夫かもしれないが、歩はそうはいかない。エルフの巫女の肢体にぞっこんだった時もあったが、これほど豊満な体を前に、我慢など出来ないだろう。

『?……あなたはそうは思わないのですか?』

「俺は……あっ!や、辞めろ!!考えさせるな!バカ!!」

 相手の心の中が覗けるサトリに隠し事は出来ない。せめて肉体で抵抗するのが、ラルフに唯一出来ることなのだ。
 無意味。全くの無意味。

「おい!もう本当に良いから、本題に移れよ!」

 これ以上の恥を上塗りしないように急かす。すると、先ほどまで笑顔が眩しかった彼女の顔から表情が消える。

『はい……実はちょっとしたピンチでして……』

 サトリの曇り顔は貴重だ。何事にも余裕で対応する彼女から出た初めての弱みとも取れる。

「ピンチ?」

『ええ……私の生み出した守護獣ガーディアン、ケルベロスが今深刻なダメージを負っています。彼らを助けて欲しいのです』

「おいおい……ケルベロスは最強の生物の代表格だろ?そんな魔獣がなんでダメージなんて……一体誰がそんなことを?」

 ラルフの頭の中にはケルベロスに対して攻勢を仕掛けられそうな戦士たちがぐるぐると回る。しかし、いずれもどうしてケルベロスを襲うのかの説明づけは出来ない。理由まで言及出来ないが、あくまで”これだけの実力者なら”と注釈が入る。

『相手は八大地獄です。ロングマンを筆頭としたゴロツキ集団……』

「え、何?八大地獄が?あいつらは神様たちが操ってたんじゃなかったっけ?」

『当初の目的は私たちに絶対服従の都合の良い組織、しかし期待とは裏腹に、蓋を開ければ現実は好き勝手暴れまわる戦闘狂の集まり。今回のケルベロス襲撃に至っても、唐突すぎて狙いが分かりません。そしてそんなことを言っている場合でもない。早急に手を打たねばならない事案なのです』

 サトリの必死な喋りでラルフの重い腰が動いた。

「行ってみるか。その場所に」

 正直あまり乗り気はしない。だが、仲間のためだと無碍には出来ない。
 一行はケルベロス救出のために、ハーフリングの村を目指す。待ち受けるは八大地獄。最後に生き残るのは誰か?
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