上 下
527 / 718
第十三章 再生

第三十三話 生き残るとは……

しおりを挟む
 遠巻きに戦いを観戦していたルカは驚き戸惑った。

「これは一体……!?」

 先程まで手足のように動いていた鎧人形たちが突然意に沿わない行動をし始めた。最初こそ指揮棒タクトを振り間違えたかと自身のミスを疑ったが、振り間違いなどあり得ないほどに別行動をし始め、ルカは激しく動揺した。
 自身の角を削り、その粉を入れた特性の薬品と水晶のタクトで人形を動かす荒業。
 一角人ホーンの魂と呼べる角を使用する、文字通り身を削った技術はその方法も相まって、凄まじい精度となる。にも関わらず魔法が言うことを聞かないのは最早別の要因があると仮定すべきだ。

 人形たちは脇目も振らずに一塊になり始める。最初は走って四体、五体が組んず解れつ金属音を仕切りに鳴らしていたが、その内に十、二十と増えていき、中心に折り重なるように跳躍してまで重なろうとしている。金属の山がこんもりと出来上がり、それでもワラワラと動いている。

「……んだ?これは……?」

 意気消沈していたガノンもあまりの異様さに目を見張る。誰も説明できない状況に創造神アトムを名乗る女性がしたり顔でやってきた。

『ホーンの。この人形どもを借りるぞ?』

 アトムはそれだけ言ってルカの真横を素通りし、金属の塊に向かってズンズン歩く。誰も呼び止められずに様子を見ていると、金属の塊は女性の通る道を作り中へと誘う。中心部分で立ち止まると金属が閉じて女性の姿は隠れた。

「おいおい、ありゃ一体何やってんだ?」

 正孝も疑問を投げかける。アリーチェは首を横に振るだけで声も出ない。

 ギギギギィ……

 金切り音が鳴り響き、籠手や兜、胸当てや鉄靴などのパーツがバラバラに巨大な人型を作り始める。まず腕、頭、胴体部分、そして足。順々に形成され、ロボットのようにゆっくりと立ち上がった。目と思われる部分に黄色い光が灯った時、篭ったような声が鳴り響く。

『うむ、中々良い。血が廻るように魔力が隅々まで行き渡る。死体なんぞ比べようがないな』

 アトムは動作確認をしながら喜びの声を上げる。巨大鎧の腕から人形の持っていた武器がポロポロと落ちる。武器が寄り集まって棍のように長い棒となった。しかし鋭利な剣が無数に寄り集まって出来ているので、敵に当たればズタズタになることは必至。

『アトムは相変わらずでっかいのが好きなんだにゃぁ』

 アルテミスは呆れながら呟く。アトムの趣味趣向に呆れたのは何もアルテミスだけではない。

「見ろよあれ、誰がやったのかこれほど分かりやすい例もないぜ」

 ラルフはカサブリア王国キングダムでのアトムの所業を思い出していた。アトムの威光でアンデッドを操り、より集めて出来たレギオン。あれほど巨大なレギオンは歴史上類を見ないだろう。それと全く同じことを金属鎧でやっただけというのは、やはり誰がやったかすぐにも勘付くというものだ。

「……ああ、あの時の……」

 アンノウンも遅れて気付く。そしておもむろに前に出た。

「アンノウン、どうした?」

「借りがあるのさ。ファイアドラゴンのね。ヘル!フェンリル!」

 召喚獣はアンノウンの気持ちを汲む。すぐさま戦闘態勢を取り、巨大鎧に向かって走り出した。アンノウンも行こうとするがそれはラルフが止めた。

「お前は行くな。アトムには”言霊ことだま”がある。ミーシャが蒼玉を相手にしている以上、アトムを止める手立てはない。俺じゃ戦いになんねーし」

「何言ってるの?どうしようもなくなった時はラルフが頼りなんだから。しっかりしてよ」

 ラルフの肩を手のひらでポンっと叩いて離れた。アンノウンは言われた通りアトムの元には行かない。しかしラルフたちから少し距離を取って召喚獣の指示に徹する。歩はコソっとラルフに耳打ちした。

「アンノウンさん、今の何だか凄く女性っぽかったです。ずっと気を張って男性っぽく振舞ってたんですかね……?」

「お前らにとってはここが異世界なんだろ?だったら弱く振る舞ってちゃ場の空気に呑まれちまう。そうなったら奪われる側だ。それが見抜けてようが天然だろうが、適応能力が高い証拠だろうぜ」

 そう思えば正孝の威張りようも、美咲が男に色目を使うのも、茂の媚びへつらいも、単に好き勝手やってるだけなのかと思っていたが、全てが適応のための行動だったのだと合点がいった。
 ならば歩自身はどうだったかと思い返す。何もなかった。正孝に命令されるから、美咲に弄られるから、茂に虐められるから、巫女が自分を認めてくれたから、良い子で従順で同調しかしなかった。それは適応ではなく奴隷化である。懸命に生きようとしていた彼らを思えば、自分は何と矮小なことか。
 そう思えばエルフェニアから出た時に、煩わしさから茂を巻いたことを後悔してしまう。共に行動していれば死ぬことはなかったのではないだろうか?ほんのわずかな違いだろうが、それが少し喉に刺さった小骨のように精神を乱す。

「ん?どうしたアユム、何て顔してんだよ。まだ終わってねーぞ?」

「え?いえ、その……あ、はいっ!」

 出だしは最悪だったかもしれない。でも結果生きているのは茂ではなく歩だ。それが単なる運だったとしても、それを掴むことが出来たのはひとえに日頃の行いだろう。自分の為すべきことをする。今出来ることを一生懸命やれば、いずれ実を結ぶものがある。それが何なのかは定かではないが、まずはこの戦いを乗り切ろう。ラルフたち仲間と共に。

『にゃははっ!その通りにゃ。まだ始まったばかりにゃよ?』

 空から声が降ってくる。ラルフと歩を見下ろすのはとぼけた神様。

「来たな?アルテミス。魔族に肩入れするなんて、お前はよっぽど負けたくねぇんだな」

『勝負に負けたい奴なんているわけないにゃ。ウチは当然の感性で行動しているのにゃ』

「ええ?天下のアルテミス様は博打も打てないのか?強い奴のおこぼれに預かって何が楽しいんだ?」

『……癇に障るガキだにゃ』

 キィンッ

 アルテミスの眼が光る。ラルフを睨みながら使用した能力”狂化”。これに睨まれた者はすべからく理性を失い、不和を巻き起こす。だがラルフにはサトリの加護が付いている。神の能力は同一の存在によって打ち消される。

「……何だ?」

『チッ……負け犬が!ここでその命を散らしてやるにゃ!!』

 風を切ってやってくるアルテミス。それに対してラルフは逃げるように走り出した。

「ちょっ……バカやめろって!!勝てるわきゃねーだろ!!」

 ……いや、逃げ出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...