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第十三章 再生

第九話 作戦会議

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「どうやら……話は終わったようね……」

 ラルフは白絶の視線の先に目を向けた。テテュースとベルフィアが玉座の間に戻ってきたのが見えた。二人の空気は最初のピリピリしたものと比べて随分穏やかなものとなっていた。何を話していたのかは気になったが、二人だけの女子会の会話を聞こうなどあり得ないこと。ラルフは好奇心をぐっと堪えて白絶に目を向けた。

「これで一つ目の条件は終了だよな?」

 白絶はチラリとテテュースを見る。テテュースはその視線に頷きで応えた。

「……ああ……そうね」

 ベルフィアはキョロキョロと辺りを見渡す。

「他はどうしタ?」

「先に戻った。長くなるかもしれないって言われたからな」

 ベルフィアはティアマトに目を向けて鼻を鳴らした。

「何よ?」

「そちは何故一緒に戻らんかっタ?」

「私の勝手でしょ」

 ツンケンするティアマト。姿形が全く違うのに、まるで鏡を見ているようにそっくりだとラルフは感じた。いや、正確には昔のベルフィアと現在のベルフィアと言うべきだ。こうして見るとすっかり丸くなったと思えた。

「よぉ喧嘩すんなよな。まだ白絶の前だぜ?」

「うルさい!……おどれは黙っていろ」

 気のせいだったようだ。

「あー……よしっ!後は作戦についてだが、一度持ち帰って決めようと思う。三日以内に返事をするから、通信機はいつでも使えるようにしてくれ」

 白絶はその言葉に今度は近くの魚人族マーマンに目を向ける。視線に気付いたマーマンの一人は一瞬驚いたが、すぐにラルフに対して頭を下げる。

「は、はい!承りました!!」

「え?あ、ああ。頼みます」

 よく知らない男性と思われるマーマンの下げた頭にラルフも腰が低くなる。その態度と後ろの二人との不思議な関係性に小さく首を振った。

「本当に……君は分からない……人間のくせに……」

 その言葉にラルフは困ったように頬を掻いた後、ハットの鍔を摘んだ。
 白絶との話し合いも終わり、三人でスカイ・ウォーカーに戻ろうと玉座の間を出る。沈黙がラルフたちの間に流れる。チラリと隣を見るとティアマトはベルフィアを見ないように顔を背け、逆もまた然りといった感じだった。
 ベルフィアの転移魔法に身を委ね、スカイ・ウォーカーに戻る。戻って早々、迎え入れてくれたのはイーファだった。主人に対する忠義の証か、それとも好意か。いずれにしても深々としたお辞儀に絆されてラルフの顔はほころんだ。

「随分遅いご帰宅でしたね。白絶様と何か問題でも?」

 ただの突き上げだった。

「大丈夫大丈夫、問題はないさ。白絶のことについては大広間で話す」

「……かしこまりました」

 少し不服そうだったがメイド服を翻してラルフたちを先導する。大広間に着くとほぼ全員が揃っていた。くろがねが机をコンコンと小気味良く指で突いた。

「それじゃ話し合うとしようか?蒼玉の夢の終わりを……」

「ああ。……いや、でもその前に食事にしないか?さっきから良い匂いがしてたまんねぇぜ」

 ラルフは厨房入り口に立つブレイドに手で合図を送る。ブレイドは待ってましたと言わんばかりにパンパンッと手を叩く。

「それじゃ食事にしましょう。スープが冷める前に」



 食事を終えたラルフたちは食器を片付け、机を何台もくっつけた。大きな一つの机に見立てて会議室のように話しやすい場を設ける。

「作戦会議か。これから命の明暗を分けようって時に悠長に見えるのは気のせいか?」

「まぁ、妾達はぶっつけ本番で何でもこなして来タからノぅ。そう感じルノも無理はない……じゃがこれは必要なことなノじゃろ?」

「ああ、無くちゃ先に進めねぇ……」

 この大人数で大真面目に会議をしようなどと、ラルフの人生にはあり得ないことだった。ただひたすら洞窟や遺跡に潜ってはお宝のことばかりを考える日々。ミーシャとの出会いが、天を知り、敵を作り、仲間を獲得した。これほど大きく変わるなど誰が予想しよう。

「会議の前にまずは整理しようよ。今私たちの置かれている状況とそれに伴うリスクについて」

 アンノウンは開口一番状況整理を言い出した。漠然と会議を始めると話がこんがらがる可能性を考慮しての提案だ。どこに焦点を置くかで軌道修正が出来る。ラルフはこの意見に賛同し、返答する。

「まず俺たちに味方するのはここにいる仲間を抜いたら白絶だけだ。援軍にマーマンと戦艦カリブティスを使用出来る。魔王の数も五分五分。兵力に圧倒的な数の差はあっても大差ない。どれほどの大群だろうと結局は雑魚どもだ。突出した個には敵わないさ」

「……それで?」

「リスクについてだが、マーマンは地上ではあまり動けない。水中戦であればマーマンの赤ちゃんでも成人したヒューマンを死に追いやれる。しかしこちらに有利な水中戦に持ち込むことは不可能だ。戦艦カリブティスにしろ精々浅瀬一歩手前で魔力砲を乱射するのみ。さらに圧倒的兵力差のせいで必ず後手に回ってしまう。壁があるのとないのとじゃ全然違うよな?それから……みんな分かっていると思うが、蒼玉は記憶喪失のミーシャを丸め込んでやがる。今回はミーシャも敵だ。味方にしていたらこれほど心強いものはないが、敵にいたらこれほど恐いものもない。というか死ぬ。絶対死ぬ」

「ならばどうする?ただ殺されるのを待つつもりがないのだから当然戦闘となるよな。だがミーシャが強すぎて話にならないと……」

「八方塞がり……」

 こう考えると今までの敵がどれほど苦しめられたのかよく分かる。古代種エンシェンツを素手で殺せるのは後にも先にもミーシャだけだろう。ほんの少しの修正程度では勝ち目は皆無。相対してしまったが最後……いや、最期である。

「ミーシャが強いのは当たり前だ。こいつを何とかしない限りどうしようもないのも事実。そこで俺に妙案がある」

「妙案?」

「白絶との共闘で完成する大規模な罠さ」

「……あー!あれですわね!」「あ、そうか。その手が!」

 デュラハン姉妹はここぞとばかりにキャッキャしていた。

「何のことかは知らないが、その様子だと一縷の望みにかけるに値するらしい」

「となれば、場所が必要なのとおびき寄せる必要がありますわ」

「そうだな……被害が出来るだけ少なく、相手に有利ではない場所……」

「あと誘き出しに何の餌を使うかです」

「前に偵察しとる最中を捕まえタ連中はどうかノぅ?生き餌として申し分ないじゃろ?」

「蒼玉の秘書に血の騎士ブラッドレイか。いけるだろ。うん、いけるいける」

 ラルフは適当に相槌を打つ。それというのも既にミーシャという超強力無比な力を手にしたのだ。今更程度の低い人質に興味を持つかと言われれば疑問が残る。
 秘書という役柄上、何らかの不利益になる情報を持っていそうなので蒼玉的に消したいと考えているかもしれないが、あくまでも予想に過ぎない。

「とりあえずの草案がまとまりそうですね。しかし場所が……」

 どうあがいても被害がある上に、選んでしまった場所に丁度たまたま村があったりしたら戦争に巻き込まないようには出来ない。仕方がない。雷に当たったと思って諦めるしかない。

「……実は場所にも心当たりがある」

「は?早く言いなさいよ」

「まぁ慌てるな」と格好つけたかったが、勿体振り過ぎたと心の奥でちょっと反省する。そして口を開いた。

「アルパザ近郊の高山”ヒラルドニューマウント”だ。古代竜エンシェントドラゴンを巻き込んでやろうぜ」
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