上 下
469 / 718
第十二章 協議

第二十九話 ドラゴンズゲート

しおりを挟む
 ケルベロスに攻められたラルフたちを遠目で見ていたアンノウンは、ジニオンとラルフの場所を交互に見る。

「……不味い状況になったね」

 ジニオンとの戦いは膠着状態に陥っていた。歩とアンノウンが参戦したことでガノンの負担は減ったが、ジニオンの特異能力のせいで全く傷が付かない。アンノウンの斬撃は刃物を通さず、歩の攻撃もどこ吹く風だ。結局ガノンの大剣だけが頼みの綱となる。
 そんな中に現れたケルベロスの驚異。戦いは振り出しに戻った形だ。

「やるしかないか……歩!」

「な、なに?!」

「召喚魔法を使う!後は任せても良い?!」

「あ、はい!了解しました!」

 歩はウィーから作ってもらったロングソードを構えてガノンの攻防を見据える。ジニオンとの嵐を呼ぶような戦闘風景にビビって腰が引けるが、アンノウンの分まで任されたことが歩の心を鼓舞する。ガノンの体力を見極めて歩はその戦闘に滑り込み、ジニオンに隙を与えない。
 それを見たアンノウンは安心してその場を任せ、召喚魔法もとい創作魔法を展開する。組むのに時間がかかる魔法陣は今回に限ってはそこまで時間が掛からない。それというのも、ケルベロス戦を見越して組んでいた魔法陣を再度形成するだけだ。

 ブゥン……

 魔法陣はアンノウンの足場に展開され、赤く光り輝く。

「やっぱこれだよね」

 アンノウンはニヤリと笑って以前試したお気に入りの召喚獣を呼び寄せた。



 ノーンを囲んでいたメラ、エールー、イーファは動けない。ノーンに攻撃を仕掛けたルールーは倒れるという、無情で無常な状況に恐怖を感じたのが原因だった。
 自分たちの能力では決して倒せない。このままでは戦況は変わらず、蹂躙されるのみだ。

「……来ないの?」

 ノーンも痺れを切らしてきた。ここで仕掛ければルールーの二の舞。仕掛けなくてもいずれノーンが動いて終了。ならば結局動くしかない。
 メラは先の恐怖から立ち直り、エールーとイーファに目配せする。同じ気持ちだったのか、ふたりもその視線に頷き合う。その視線を確認したノーンはニヤリと笑った。

「そう来なくっちゃっ」

 楽しそうに槍をクルッと回して、デュラハンの攻撃を待つ。
 しかしデュラハンの攻撃は来なかった。来たのは背後から突然飛んで来たドラゴンの存在だった。

「は?」

 ガチィンッ

 牙を合わせた音が鳴り響く。ノーンは回避し、ドラゴンはそのまま飛翔して空に上昇していく。

「……は?なにあれ?」

 ノーンが驚き戸惑っている最中、メラが追撃する。

「ちょっ……!?」

 ブンッと勢い良く空打った剣が宙空を彷徨う。ノーンはさらに前方に飛んで回避し、今度はエールー、イーファと立て続けの猛撃も回避した。

「ちょちょっ……!待ってよ!!」

 ゴロゴロと転がって間合いを開けるとノーンは手を突き出して三人を制止する。

「今ドラゴンが通り過ぎたのよ?!なんで攻撃するの!?普通仕切り直しでしょうよ!!」

「あれは私たちの味方ですわ」

「は?え……?ドラゴンが?」

 訳も分からず攻撃してきたであろうドラゴンに目を向けた。すると空にはいつの間にか多くのドラゴンが食べ物を求めるように旋回しているではないか。一匹、二匹、また一匹とその数はどんどん増えていく。

「戦況は多少変わりましたわね」

「しかし姉様、このまま接近しても勝てません。一度後退すべきではございませんこと?」

「アンノウンさんのお陰で助かりました。わたくしもここしかないと思います」

 メラは二人の意見を聞き入れる。

「次のドラゴンの攻撃でこの場を離れましょう。わたくしについて来なさい」

「「はいっ!」」



 ロングマンとゼアルのところにも無数に飛び交うドラゴンが襲って来た。

「ぬっ……何と間の悪い……決着の時に」

 ロングマンはそうは言いつつ、これは好機だと下がる。同じ場所で戦って来たゼアルにも等しく襲って来たドラゴンを、混乱も困惑も迷いもせずに一刀のもと両断する。
 ドラゴンは為す術もなく半分になり、見るも無残な姿へと変化した。すぐに目でロングマンを探す。

「逃げたか……」

 もう少しで勝てたなど余計なことは言わない。ゼアルはドラゴンの様子を確認しながらロングマンの背後を追った。



「「「ゴォンッゴォンッ!!」」」

 ケルベロスは纏わりついてくるドラゴンに蚊トンボが耳元を飛ぶような煩わしさを感じる。小さなドラゴンたちはケルベロスの攻撃を受けるとさっさと消滅する。しかし、ケルベロスが消す量よりも、増える量の方が圧倒的に多い。虫にたかられているような見た目に、ゾッとする者も少なくない。

「た、助かった……」

 ラルフはすんでのところでドラゴンたちに助けられた。今の内にとコソコソケルベロスから間合いを開ける。
 チラッとアンノウンの方を見ると、光る地面の上に立つ人影が見える。その上に浮かんでいるのは巨大な鏡。

「あれが”ドラゴンズゲート”って奴か……」

 前回の戦いで用いたアンノウンが誇る最強の召喚獣。鏡から無限にドラゴンを召喚出来る。体は小さく、防御力もほとんどないが、内包する力はかなりのもの。グラジャラクの再現である。

「よっしゃ!このままケルベロスをやっちまえ!」

 ラルフはウッキウキで手をかざしたが『ダメです』の声にすぐに手を下ろした。

「今の声……サトリ?聞け、サトリ。何でいきなり襲って来たのかは知らないが、このままじゃいずれ俺たちがくたばる。奴が攻撃して来た以上、反撃しないわけにはいかない。正当防衛って奴さ」

『……』

 ラルフの声にすぐ返答するかと思ったが、沈黙で返されたラルフは少し焦った。

「……えっと……あ、も、尤もお前が止められるってんなら話は別だよ?こっちだって攻撃されるから反撃してるんであって……」

『分かりました』

 分かってくれたと胸を撫で下ろす。

『それでは少し体から離れます』

 それを聞いた途端ラルフの体は硬直した。

「……えっ?!」

 サトリの言葉を反芻してまた焦りがぶり返す。それはラルフにとって死刑宣告と同じだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...