459 / 718
第十二章 協議
第二十話 小さき争い
しおりを挟む
ゼアルとロングマンの戦闘開始直前。他も大いに盛り上がっていた。
「またお前かよ」
テノスは正孝と顔を合わせていた。ペルタルクに来る前、ヴィルヘルムでの戦いの際にこのカードだったことを思い出し、テノスはため息交じりに肩を竦めた。
「悪りぃかよ?まだてめーとは決着ついてねぇんだ。ここで再戦ってのも乙なもんじゃねぇか」
正孝はボキボキと指の骨を鳴らして威嚇する。
「ま、確かに決着はついてなかったなぁ。しょうがねぇ我慢してやるよ」
ニヤニヤ笑いながら勝負を受ける。古代種になかった手応えを味わえるのなら正直誰でも良かった。テノスの重心が前に傾いたその時。
ドンッ
鋭い魔力砲がテノスに向かって走る。素早く上体を捻って躱す。立て続けに二発撃ち込まれ、テノスはどうにか避けることに成功する。誰が撃ったのかはすぐに分かった。
「……んのクソガキッ!!」
そこに立っていたのはブレイド。エレノアを瀕死に追いやったことをずっと根に持っている。テノスとて同じだ。右手を欠損させられた恨みは百回殺しても足りない。第四地獄”叫喚”が変形型の魔道具でなければ、仲間にも見捨てられ、今まで生きていられなかっただろう。
テノスのヘイトは全てブレイドが持っていった。だからこそ気付かなかった。正孝が間合いに入ったことに。
ゴキッ
正孝は油断したテノスの顔面に拳を叩き込む。完全に、そして完璧に入った右ストレート。中々の威力にテノスは吹き飛ぶ。二、三回地面を跳ねて両手両足でブレーキをかける。獣のような四つん這いで正孝とブレイドを交互に見た。拳の威力に耐えきれなかった口内がパックリ割れ、唇の端からスーッと一筋真っ赤な血が流れ落ちた。
「……ぺっ、上等だ。まとめて相手になってやるよっ!!」
こういった展開が各箇所で起こっている。ハンターはジョーカー、アロンツォはティファル、ルールーはノーンといったように、やはりヴィルヘルムでの再来がここにあった。ただ少し違うのは前回のジニオン戦のみ二対一だった状況は現在、八大地獄一人一人に二人以上の精鋭が戦いを挑む形となっている。完全に不利な状況である。
ガノンはジニオンと対峙して、ジッと観察する。この女は一体誰なのか?やはり魔道具の所有者が死ねば、所有者が変わる仕組みで、この八大地獄に無理やり入れられているのだろうか?それともジニオンの亡霊が女性に取り憑いたのか?
何にせよ巻き込まれただけなら逃げてくれるに越したことはない。罪もない人間を手にかけるような事態は極力避けたい。意を決して声をかけようとするが、先にジニオンが口を開いた。
「テメーはあの時俺と戦った奴だよな」
「……亡霊が取り憑いた方か……」
先ほど協議の席にしれっと座っていたのだ。ただの女なわけがない。だがこれでハッキリした。この女はジニオンであり、倒すべき敵であること。
「……何度でも復活してみろ。今度こそ俺がぶった切る」
*
「ん?……何じゃ?何をしとル?」
ミーシャから戦力外通告を受けたベルフィアは、急ぎラルフたちの元へと向かった。そこで見たのは何とも不思議な光景だった。
混戦。
そうとしか言えない状況だ。人族が人族同士で争っている。一応、魔獣人のジュリアとデュラハン姉妹が混じっているが、中心で争っているのは人族だ。
一番激しいのはゼアルとロングマンの戦い。それ以外もかなりのものだが、若干動きが硬い。本来こうなる予定はなかったのか、多少困惑もあるように感じる。
その中で一際異様だったのはラルフだ。浮かぶ大剣に追われている。その後ろを追いかけるように少女が走っていた。皆がそれぞれの戦い方を駆使する中にあって一人全力で逃げる姿を見れば、ふっと言葉が湧き上がる。
「無様じゃな」
だがそんな呟きが届くはずもない。ラルフが急いで逃げる最中にも、大剣は命を刈り取るために襲いかかる。
最初の二、三撃は相手も手を抜いていたのか、簡単に避けることが出来た。
しかし、避けられたのが気に食わなかったのか、次に繰り出された斬撃は速かった。速すぎたとも言える。ほとんど勘で回避し、奇跡的に傷一つなく逃げ切ることに成功した。
それが不味かった。擦り傷の一つでも負えばパルスもここまでムキになることはなかっただろう。パルスの心境にいち早く気づいたラルフはなりふり構わず背を向けた。
絶対当てたいパルスと絶対死にたくないラルフの戦い。このまま延々と追われればラルフの方が先に力尽きるのは火を見るより明らか。ベルフィアは葛藤する。すぐ助けるべきか余興を楽しむべきか……いや、彼女の答えはもう決まっている。
「無論、余興を……」
そこまで口に出したところでラルフが蹴っ躓いた。「あっ」とラルフと同時に呟く。ドジを踏んだ。これが好機と迫る大剣。絶体絶命のピンチ。
シュンッ……ドッ
大剣は深々と体に突き立つ。
致命的一撃。助かるわけがない傷。血が噴水のように……吹き出ない。
ラルフの壁としてパルスに立ち塞がったベルフィアは、その身で大剣を受け止める。
「ベルフィア!」
「鈍臭い男じゃ。少しは妾を楽しませて見せい」
確かに致命傷のはずのベルフィアは、何でもないようにラルフに受け答えする。死なないどころか血も出ない。パルスは首を傾げてベルフィアを見ていた。
「吸血鬼は初めてかえ?存分に堪能すルが良い。そノ幼き最期を妾が飾ってくれヨうぞ」
きょとんとしていたパルスの目に鋼の如き冷たい眼差しが光る。
小さき争いは激化の一途を辿る。
「またお前かよ」
テノスは正孝と顔を合わせていた。ペルタルクに来る前、ヴィルヘルムでの戦いの際にこのカードだったことを思い出し、テノスはため息交じりに肩を竦めた。
「悪りぃかよ?まだてめーとは決着ついてねぇんだ。ここで再戦ってのも乙なもんじゃねぇか」
正孝はボキボキと指の骨を鳴らして威嚇する。
「ま、確かに決着はついてなかったなぁ。しょうがねぇ我慢してやるよ」
ニヤニヤ笑いながら勝負を受ける。古代種になかった手応えを味わえるのなら正直誰でも良かった。テノスの重心が前に傾いたその時。
ドンッ
鋭い魔力砲がテノスに向かって走る。素早く上体を捻って躱す。立て続けに二発撃ち込まれ、テノスはどうにか避けることに成功する。誰が撃ったのかはすぐに分かった。
「……んのクソガキッ!!」
そこに立っていたのはブレイド。エレノアを瀕死に追いやったことをずっと根に持っている。テノスとて同じだ。右手を欠損させられた恨みは百回殺しても足りない。第四地獄”叫喚”が変形型の魔道具でなければ、仲間にも見捨てられ、今まで生きていられなかっただろう。
テノスのヘイトは全てブレイドが持っていった。だからこそ気付かなかった。正孝が間合いに入ったことに。
ゴキッ
正孝は油断したテノスの顔面に拳を叩き込む。完全に、そして完璧に入った右ストレート。中々の威力にテノスは吹き飛ぶ。二、三回地面を跳ねて両手両足でブレーキをかける。獣のような四つん這いで正孝とブレイドを交互に見た。拳の威力に耐えきれなかった口内がパックリ割れ、唇の端からスーッと一筋真っ赤な血が流れ落ちた。
「……ぺっ、上等だ。まとめて相手になってやるよっ!!」
こういった展開が各箇所で起こっている。ハンターはジョーカー、アロンツォはティファル、ルールーはノーンといったように、やはりヴィルヘルムでの再来がここにあった。ただ少し違うのは前回のジニオン戦のみ二対一だった状況は現在、八大地獄一人一人に二人以上の精鋭が戦いを挑む形となっている。完全に不利な状況である。
ガノンはジニオンと対峙して、ジッと観察する。この女は一体誰なのか?やはり魔道具の所有者が死ねば、所有者が変わる仕組みで、この八大地獄に無理やり入れられているのだろうか?それともジニオンの亡霊が女性に取り憑いたのか?
何にせよ巻き込まれただけなら逃げてくれるに越したことはない。罪もない人間を手にかけるような事態は極力避けたい。意を決して声をかけようとするが、先にジニオンが口を開いた。
「テメーはあの時俺と戦った奴だよな」
「……亡霊が取り憑いた方か……」
先ほど協議の席にしれっと座っていたのだ。ただの女なわけがない。だがこれでハッキリした。この女はジニオンであり、倒すべき敵であること。
「……何度でも復活してみろ。今度こそ俺がぶった切る」
*
「ん?……何じゃ?何をしとル?」
ミーシャから戦力外通告を受けたベルフィアは、急ぎラルフたちの元へと向かった。そこで見たのは何とも不思議な光景だった。
混戦。
そうとしか言えない状況だ。人族が人族同士で争っている。一応、魔獣人のジュリアとデュラハン姉妹が混じっているが、中心で争っているのは人族だ。
一番激しいのはゼアルとロングマンの戦い。それ以外もかなりのものだが、若干動きが硬い。本来こうなる予定はなかったのか、多少困惑もあるように感じる。
その中で一際異様だったのはラルフだ。浮かぶ大剣に追われている。その後ろを追いかけるように少女が走っていた。皆がそれぞれの戦い方を駆使する中にあって一人全力で逃げる姿を見れば、ふっと言葉が湧き上がる。
「無様じゃな」
だがそんな呟きが届くはずもない。ラルフが急いで逃げる最中にも、大剣は命を刈り取るために襲いかかる。
最初の二、三撃は相手も手を抜いていたのか、簡単に避けることが出来た。
しかし、避けられたのが気に食わなかったのか、次に繰り出された斬撃は速かった。速すぎたとも言える。ほとんど勘で回避し、奇跡的に傷一つなく逃げ切ることに成功した。
それが不味かった。擦り傷の一つでも負えばパルスもここまでムキになることはなかっただろう。パルスの心境にいち早く気づいたラルフはなりふり構わず背を向けた。
絶対当てたいパルスと絶対死にたくないラルフの戦い。このまま延々と追われればラルフの方が先に力尽きるのは火を見るより明らか。ベルフィアは葛藤する。すぐ助けるべきか余興を楽しむべきか……いや、彼女の答えはもう決まっている。
「無論、余興を……」
そこまで口に出したところでラルフが蹴っ躓いた。「あっ」とラルフと同時に呟く。ドジを踏んだ。これが好機と迫る大剣。絶体絶命のピンチ。
シュンッ……ドッ
大剣は深々と体に突き立つ。
致命的一撃。助かるわけがない傷。血が噴水のように……吹き出ない。
ラルフの壁としてパルスに立ち塞がったベルフィアは、その身で大剣を受け止める。
「ベルフィア!」
「鈍臭い男じゃ。少しは妾を楽しませて見せい」
確かに致命傷のはずのベルフィアは、何でもないようにラルフに受け答えする。死なないどころか血も出ない。パルスは首を傾げてベルフィアを見ていた。
「吸血鬼は初めてかえ?存分に堪能すルが良い。そノ幼き最期を妾が飾ってくれヨうぞ」
きょとんとしていたパルスの目に鋼の如き冷たい眼差しが光る。
小さき争いは激化の一途を辿る。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる