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第十二章 協議

第十一話 神の獣

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 リリリリンッリリリリンッ……

 その音はラルフのポケットから鳴った。同じような音が連続して聞こえる。

「ん?」

 耳障りと呼べるような音の正体を探す。ゴソゴソと至るところにあるポケットに手を突っ込んでいるとそれはあった。
 取り出すと、ネックレス型の通信機が赤く点滅しながら音を出しているではないか。ゼアルから奪った通信機。そのことに気づいた途端、ゼアルは即座に不機嫌な顔になった。

『ラルフさん!』

「アスロンさんか……まだ交渉中なんだよね。もしかして捕虜が暴れたりしてるのか?」

『そんなレベルではないぞ!!外に出てくるんじゃ!そこは危ない!!』

 音割れするほど大声で警告を発する。この場にいる全員がその警告を聞き、全員の目がこの部屋の入り口に向く。慌ただしく走り回る音と共に襖が開く。さささっとすり足だが機敏に侍女が蒼玉の側に寄る。ラルフがアスロンに外の様子を尋ねる前に蒼玉の耳に報告が届いた。

「……古代種エンシェンツが?!」



 それは雲と共にやって来た。

 流麗にそして華麗に。神々しく荒々しいその姿は空駆ける天馬。金色の体毛に翡翠の鱗をまとい、蹄は磨き上げられた黒曜石のように黒く美しい。
 自らが発光しているのではないかと見まごうばかりの絢爛豪華の出で立ちに目を奪われずにはいられない。

 古代種エンシェンツで……いや、生き物で最も美しいと評される獣。神の御使いたる"麒麟"。

 そしてもう一体。それは地底を裂いて現れた。
 樹齢千年の木の幹の如く太い足で大地を踏みしめ、刃の如く鋭い爪は岩盤をも抉り出す。
 夜より暗き深淵に燃え上がる深紅の炎。体毛のようにまとわり付くとどろきうねる業火は、物質ことごとくを灰燼にさん。
 流れ出る唾液は落ちるたびに熱で地面が茹だる。それはまるでマグマの様相を呈していた。

 これほど守護獣ガーディアンの名が似合う獣は居ないだろう。
 獄門を守護する三つ首の番犬"ケルベロス"。

 鳳凰を含めた三体の巨獣が、ここペルタルクに集った。

「そんな……馬鹿な……」

 いつも余裕面の蒼玉も、この時ばかりは焦燥感に支配された。
 これほどの危機は歴史上どの国にも存在しないだろう。古代種は基本的に定められた巣から動かない。古代種エンシェンツが一体だけでも国に現れれば消滅する。三体となればオーバーキルなんてものじゃない。
 鳳凰がいつまでも旋回し、降りてこなかったのは残りの二体を待っていたのではないかとすら思えた。この国を跡形もなく消し去るために……。

「まったく無茶をする。これは過剰戦力ではないか?アルテミス」

 ロングマンは事情を誰より知ってそうなアルテミスに尋ねた。それというのもアトムはこの事態に目を丸くしていたのだ。古代種エンシェンツを巣から離れさせることが出来るのは神のみ。となれば戸惑っているアトムは選択肢から外れる。

『う~ん。相手が相手だけにハッスルしたんじゃないかにゃ~?』

 この事態に驚いていなかったアルテミスも関与していなかった。だとするなら相当マズイ状況だ。

「……諸共滅ぼすつもりか?狙いはふたりだというのに?何という大雑把で短絡的な……」

 アルテミスが仕切ってやった行動なら、ただの牽制程度だと思えるが、別の神の仕業ならそうはいかない。なりふり構わず攻勢に出たとするなら、このままでは巻き添えを食らう。ロングマンが思案を巡らせている横でゼアルが剣を引き抜いた。

「黙って見ているわけにもいくまい。マクマイン公爵、お下がりください。ここは私にお任せを」

「……チッ、手前ぇあんなデカブツに敵うと思ってんのか?」

 そう言うガノンも大剣を持って臨戦態勢をとる。戦うことを見越してハンターは背中を向けた。

「僕は他の方々を呼んできます」

「あ、じゃあ俺も行きます」

 ブレイドは率先してハンターと協議に入れず待機している仲間たちを呼びに城を駆ける。今のところ獣たちは集まっただけで動きはない。だが、突如最大の攻撃を持って国ごと命を叩き潰すかもしれない。警戒はもとより、先手を打つことも視野に考えるべきだろう。

「平和協定を結ぶ前に共闘を余儀なくされるとは……人生何があるか分からないよなぁ……」

「それこそが人生ってものでしょ?ラルフの楽しい人生をこんなところで終わらせやしないんだから」

 そう言いつつミーシャはふわっと浮遊して、ここにいる全員の前に出た。

「ちゃっちゃと終わらせて協議を再開する。後に続け!ベルフィア!」

「御意」

 ペルタルクに現れた古代種エンシェンツとの死闘が今ここに始まる。
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