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第十一章 復讐

第七話 追撃せよ

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「活路が……開いた」

 アスロンは今起きたことが信じられずに目を見開いている。
 古代種エンシェンツの一体であるリヴァイアサンを仕舞っているところはこの目で視認していたが、まさか相手の攻撃をそのまま返すことに使用するとは思っても見なかった。その点デュラハンたちはグレートロックでの一戦をその目で見ているので能力の使い方を知っていたものの、あれほどデカい攻撃までどうにかするとは夢にも思わない。

「さぁアスロンさん!一思いにやっちまえ!」

 ラルフは手をぐっと前に出して魔力砲を撃つように促した。

「承知!」

 アスロンは手をかざして要塞を操る。先ほど塞がれた魔力砲をもう一度放った。上空に飛ばされた魔力砲は放物線を描いて下に落ちる。雨のように重力に逆らうことなく落ちるエネルギーの塊たちは、混乱を極めるグラジャラクの大地を穿つ。運悪く魔力に当たった魔族は消滅、もしくは重症。流石の威力だ。巨大槍の一撃が突き刺さったせいでもあるが、大地を埋め尽くしていた魔族の群れは蜘蛛の子を散らすように散り散りになり、岩場だらけの荒れた地にクレーターを作る。

「へへ、このままでも勝てそうだぜ?」

 ラルフはゲスい笑いで下を覗く。それに対してミーシャは不満そうな顔をした。

「戦争に勝つために来たわけじゃないよ。イミーナの息の根を止めるために来たんだからね」

「おおぅ……それ、改めて言葉にすると怖いなぁ。だがまぁここまでやったんだ。最後までやろうじゃねぇか」

 ラルフは緩んだ顔を引き締めて、後ろに並び立つ仲間を見た。

「よーし!完全には思ったようにいかなかったが、概ね想定内だ。それじゃ全員打ち合わせの通りに」

「ヨーやっと妾ノ出番かえ?待ちワびタぞ」

 ベルフィアは腰に下げた杖を引き抜き、振り上げる。杖に込められた魔術は、灰燼の気持ちに呼応して発動する。つまり灰燼を取り込んだベルフィアは、魔法の詠唱をすっ飛ばしてノータイムで使い放題だ。ベルフィアやブレイドたちの視界が暗転する。視界が戻った時に現れたのは赤い大地。そこらかしこが陥没し、煙が立ち込めている。ベルフィアの使用した転移魔法は完璧に発動し、グラジャラク大陸に無事降り立った。
 そこに居たのは恐慌状態に陥る魔族の軍団。指揮系統を失って混乱している。

「何て数なの……」

 メラは目を丸くして辺りを見渡す。上から見た時にもその数に圧倒されたが、地面から見る景色はまさに魔族一色。戦争ではいつも魔族側だったので、人間の数の暴力など恐るるに足らずと言ったところだが、対魔族となると話は違う。一体一体が生まれながらに強い力を持つ魔族が寄り集まることは、こうまで脅威に感じるのかと実感させられた。

「うむ、これは妾も食いきれルか分からんノぅ」

 ベルフィアは舌なめずりをしながら牙を露出させた。

「とにかく、どんな形であれ勝ちにいきます」

 ブレイドはガンブレイドを握りしめ、魔族たちに狙いをつける。デュラハン姉妹は剣を抜き払い、戦いの準備を終了させた。

「おい見ろ!人間がいるぞーっ!!」

 どの魔族が言ったのかは定かではないが、近くにいた連中は全員こちらを視認する。「敵だ……」「殺ス」「ナメやがって」など口々に呟くも、どう攻めるべきかを思案していて一向に攻撃に移れない。それもそのはず、あちら側にはエレノアがいる。魔王クラスの化け物が加勢しているのを見て、簡単には手を出せないでいた。すでに戦端は開かれているというのに悠長この上ない。

(これで良い)

 ブレイドは思う。こうして敬遠してくれていれば時が稼げる。実際問題、一斉に来られたら対応が難しくなる。ガンブレイドは強力だが、一体一体撃ち落とすことに特化しているので物量で圧倒されてしまうと、この武器では心許ない。

「アンノウンさん……急いでくださいよ?」

 ブレイドはポツリと呟く。この圧倒的な兵力差を埋める方法は一つ。アンノウンによる一斉召喚。一度に多くの召喚、もとい創造物を複数出現させることができる。その願いを聞き入れたようにアンノウンが要塞の天辺に立つ。

「……組めた」

 アンノウンは閉じていた目を開ける。バッと手を広げ、ジッと正面を見つめた。アンノウンの目の前に複雑怪奇な魔法陣が浮かび上がる。それもかなり大きい。

「出でよ!”ドラゴンズゲート”!!」

 魔法陣から滲み出すように巨大な鏡が出現した。黄金の装飾と宝石を加えた竜が象られた豪華絢爛な鏡。凪の湖面のように瑞々しい鏡面に、波紋が伝わり出したらそれが合図。ズアッと竜の顔が覗いた。そこからどんどん増え始める。二匹や三匹では治まらない量が、鏡から次々と現れる。空を埋め尽くすほどの数が出現し、思惑通りにことが運んだことを思う。

「工夫次第でどんな召喚も意のまま……」

 あらゆる竜が召喚されたドラゴンズゲート。一度にたくさんの魔法陣を組むのは効率が悪い。となれば魔獣を生み出すものを出現させれば一石二鳥。

「問題は竜の強度だけど……多分大丈夫だよね?」

 アンノウンは複雑そうにドラゴンたちを見て不安を吐露するが、自分の役割を思い出して考えを改める。

「さぁドラゴンたち!出陣だよ!」

 ギャオオオォォッ!!

 勇ましく吠え散らかすドラゴンはブレイドたちの待つ戦場に侵入した。
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