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第七章 誕生

第三十三話 訪問者

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 エルフェニアを後にしたラルフ達は、第二候補を目指して空を進んでいた。この間に特にやる事のないラルフはベランダから顔を出し、風に当たりながら一人で外を眺めていた。ふと、空を飛ぶ多くの影を目撃する。

「……ありゃなんだ?」

 目を凝らすと羽が生えた人型の生物だと認識出来た。この情報だけで考えられるのは魔鳥人かデーモンか翼人族バード。魔鳥人はつい最近かなり数を減らしている。カサブリアの件を踏まえれば、今移動するのは考えられない。

「アスロンさん」

 虚空に話しかけるとすぐに反応があった。側に魔力が収束してその姿を現す。

「どうした?ラルフさん」

「あの影が見えるか?」

 アスロンは伸びきった眉毛を上げて目を見開く。良く分からないのか唸ってばかりで要領を得ない。

「望遠レンズで見てみるわい。少し待ってくれい」

 そう言うと棒立ちのまま黙ってしまった。今きっとこの要塞の機能を操作しているに違いない。この瞬間にも飛んでいるモノの姿が確認出来ないか目を見張る。その時、ある違和感に気が付いた。

「あれ?なんかこっちに近付いてる?」

 本来それはあり得ない。この要塞の機能の一つに”隠蔽”が存在する。それもかなり優秀なもので、この要塞が灰燼の物だった頃、ミーシャと共に目の前まで行ったのに発見出来なかった。エルフが所有する”天樹”で見つけてもらえなければどうしようもなかった程だ。だからもしこちらに来ているというなら、向こうはこちらの存在に気付いていないと考えるのが普通だ。

「……見えた。あれはバードじゃな」

 アスロンが冥想状態から帰ってくる。

「回避は可能か?」

「ううむ、やってはみるが期待せん方が良いのぅ」

 ラルフの肉眼で飛ぶ影が見えたという事はかなり近い。それもこちらに近付いて来る事を思えば、魔障壁との接触は免れない。別に無理に避ける必要も無い。ぶつかった所でこちらには何の支障も無いのだ。しかし、当たらないのであればそれに越した事は無い。こちらの情報は変わらず隠せるし、あちらも何も気にする事無く通り過ぎる事が出来る。

「あ、こりゃいかん、予想以上に向こうが早い。やはりちと難しいわい」

「じゃ、しょうがない。そのまま回避行動をとりつつ移動。当たっても無視で」

「了解じゃ」

 ゆっくりと進路を外れて要塞は回避行動を取る。

「ん?」

 アスロンはその時妙な事に気付いた。

「……ラルフさん。どうやら狙いは儂らじゃ」

「は?」

「回避行動に合わせて向こうも進路を少し変えた。元よりこの要塞を目指しておる様じゃぞ」

 ラルフは考える。肉眼では見つけられない要塞だが、エルフご自慢の巨大樹の力を使えば見つける事が出来た。となれば当然、肉眼以外なら見つける方法はあるという事。

「……魔力か?この要塞の魔力を辿って来たのか?それともエルフが天樹を使用して探索を掛けたか……」

 だとしたら拠点を置く事を許してくれたのに飛んだ裏切り行為だ。元より味方でも何でも無いと言われてしまったらそれまでだが。

「仕方ない、移動を停止して待機。ミーシャ達を招集してくれ」

「……まだミーシャさんは寝てる様じゃが……」

「……じゃ、ミーシャは良いや」

 そういう話をしていると、不意に大声が響き渡った。

「そこな透明の物体!!居るのは分かっている!すぐに姿を現せぃ!!」

 やたら偉そうにしているバードが、他のバード達より少し前に出て踏ん反り返っている。スラッとした体躯に見事な槍を携えたその男をラルフは知っている。

「おいおい……もしかしなくてもあれって……」

 ラルフは自分の記憶の中にある男と照らし合わせる。間違いない。その男の名が頭にぎった時に、男がまた声を張り上げた。

「余の名はアルォンツォ=マッシムォ!白の騎士団の要、”風神のアルォンツォ”である!」

 アロンツォ=マッシモ。白の騎士団で一、二を争うくらいに有名な戦士。彼の功績もさる事ながら、この主張の激しさとイケメンである事も手伝って、若者からアイドル的な人気を博しているらしい。

「……どうするんじゃ?」

「面倒だな。今すぐお帰り願いたいが、あの様子だと何か目的があるな……隠蔽効果だけを解除してくれ。目的を聞いてみよう」

 その言葉にアスロンは頷いて手を上にかざす。それと同時にバードは驚いた様に慌て始める。ここからでは良く分からないが、きっと隠蔽が解けて目の前に要塞が現れたのだろう。あまりの大きさに驚いたのかも知れない。

「狼狽えるなぁ!!」

 アロンツォは部下に喝を入れてラルフを見据えた。

「話がある!魔障壁を開き、余らを中に入れよ!!」

「魔障壁はちょっと……そこで話せない事なのかぁ?!」

「全て大声で語れと言うのか?!襲撃に来たのでは無い!煩わしい真似は止そう!!」

 一言二言では終わらない事らしい。どうするか決めあぐねていると後ろから声を掛けられた。

「開けてやれ」

 ベルフィアがニヤニヤしながら立っていた。

「えぇ……入れんのか?なんか面倒臭そうだぜ?」

「無視して行っても良いが、目的地まで付いて来られル方が面倒ではないかノぅ?迎撃もありじゃと思っタが、元よりそノつもりは無い様じゃし、あル種ノ暇つぶしに使ってやろうではないか」

 確かにベルフィアの言う通りだ。こちらから攻撃するつもりは無いし、やり過ごせるならそれがベストだと考えていた。しかし、どうやったか相手はこちらを認識し、必要なら延々と付いて来そうな空気を持っている。中に引き入れて話を聞き、お引き取り願う他に平和的解決は無い。そこにブレイド達が走ってやって来た。

「ラルフさん!襲撃ですか!?」

「いや、一応話に来たと言ってる。話聞かないと帰らなそうだから招き入れる事にしたよ」

「えーっ?大丈夫なんですか?そんなホイホイ入れちゃって……」

「分からん」

 ラルフのテキトーな感じに駆け付けたジュリアや長女のメラが不快感を示す。

「無用心 過ギルデショ。中ニ入ッテ暴レラレタラドウスンノ?」

「そうですわ。せっかくわたくし達が丹念にお掃除したのにまた滅茶苦茶にする気ですの?」

「……んー、もしそういう事になったら戦闘はお前らに任すよ」

 招き入れる事に変わりない様だ。こうなったら覚悟を決めるしかない。

「誰かミーシャを起こしに行ってくれ。あ、ミーシャの自室じゃなくて俺の方な」

 その声にエレノアが手を挙げた。

「私が行こう」

「よろしく。んじゃアスロンさん、魔障壁の解除頼むわ」

「了解した」

 ラルフは外に顔を向けて大声を出した。

「よーし、風神さん!今から魔障壁を解除する!俺と話し合おう!!」

 それを聞いてアロンツォは笑う。

「そう来なくては面白く無い!さっさと解除せよラルフ!!」

 程なく魔障壁は解除された。バード達は一斉に羽ばたいてラルフが顔を出していた場所までやってくる。バードがわざわざ死地に飛び込んでまで話し合う事とは痛い何なのか。ラルフは興味半分、面倒臭さ半分でアロンツォと対面した。
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