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第六章 戦争Ⅱ

第十九話 神からのギフト

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「ギュアアアアァアァッ!!」

 おおよそ聞いたこともない鳴き声で紅く輝く竜が吠える。羽が生えた猫の様なしなやかさを持つ爬虫類は、猛禽類の爪を持った手足を踏み鳴らしてその体躯を見せつける。アンノウン。未知なるものが見せたこの世ならざる力。

「……な、何だ?何処から出現した?」

 この世界では既に失伝した召喚魔法、目の前で見せられても現実に起きたとは思えなかった。突如出現した頂点捕食者の集合体に睨まれ、ゼアルの部下たちは怯えて足が竦む。

「何だあのドラゴン!?」「資料でも見たことがない……!」

 黒曜騎士団の反応から見るに、この竜はまだ未発見の竜である可能性が高い。紅い鱗にアンノウンが呼んだ「ファイアドラゴン」の名称から察するに、灼赤大陸に住まう竜だろう。ヲルト大陸と同様に魔族だけが統治する灼赤大陸。人類が入り込む余地の無い大陸だけに知らない事が多いが、竜魔人がいるくらいなので居るとしたらそこら辺だろう。

「当然だよ。このドラゴンは私が生み出したこの世ならざるドラゴンだからね」

 この世に居なかった。

「どど、どう言う事だよ?これは召喚魔法じゃ無いのか?」

「?……召喚魔法だよ。ただし、私が考えた想像上のドラゴンだけどね」

 それは最早”召喚魔法”ではなく”創作魔法”だ。しかし細かいディティールまでこだわった本物としか思えない絶対の強者感は見ているものを圧倒する。アンノウンとラルフの真下に召喚した為に図らずも竜の背中に乗ったラルフはその手触りに驚愕する。

「想像って……これが偽物だってのか?!」

「違うよ、本物だよ」

 正直何を言ってるのか理解に苦しむが、とどのつまりは創作の化け物を現実世界に具現化させて意のままに操る能力。

「え……なにこれ……」

「嘘っしょ……?そんなんありっすか?」

 美咲と茂は唖然とする。自分たちにもたらされた能力は単純明快で、使い方によっては多少複雑になるタイプだが、アンノウンの能力はそんなものの比では無い。複雑怪奇。魔力とは違うベクトルで放たれる炎や雷も神の如き力ではあるが、これはその度合いを遥かに凌ぐ。

「な、何であなたにそんな能力がっ!?そ、想像なら僕だって……!!何で……こんなハズレ能力……!!」

 歩は自分が最も恵まれていないと発狂した。「最強チート能力で異世界蹂躙」系統を夢見ていた歩にとってアンノウンの能力は喉から手が出るほど欲しい力だ。

「ハズレ能力、か。人によって見方は違うものだね……」

 アンノウンは自分の力がチートだと内心認めつつも、歩の能力は良い能力だと思っている。知らない場所を闊歩するのに必要なのはその場所の知識だ。危ないものに近寄らないのは生きていく上で最も必要なことだ。アンノウンの場合、調べる為に刺客を放つことは出来ても本質を見抜くことは不可能。
 だが、歩の場合は見たら理解出来る。危ない物と分からないから触れて大事に発展する可能性があるアンノウンに比べれば、歩の索敵能力は安全で、より効率的だと言える。この差は大きい。

 アンノウン的にはむしろ茂の方がハズレ能力だと思えた。吸収という力。一対一の接近戦で効果を発揮する。自分より弱い者に対してしかマウントが取れない、所謂「雑魚狩り」の能力。腰ぎんちゃくで虎の威を借る茂にはぴったりの能力だ。

「さぁ、本題に移ろう。美咲」

 名指しされた美咲はビクッと体を揺らす。当然さっきの攻撃に関してだ。雷撃を胸部に向かって放ったということは、心臓を止めに掛かったと見て間違いない。怒りで我を忘れたとはいえ、殺そうとしたのだ。これから同じだけの反撃されても文句は言えない。

「ま、待って!ごめん!!謝るから……!」

「……へぇ、謝れば済むのかい?私に攻撃しておいて自分は許して欲しいってのは虫が良すぎるんじゃないかな?」

 目が据わっている。いきなりの攻撃に驚いたのもあるのだろうが、余程腹に据えかねたのだろう。怒りはもっともだ。
 美咲は「ひっ!」と顔を隠して小さく呻く。今まで能力を隠されて分からなかったからイキれた部分もあったのに、いざ開示されると驚愕と共に無意識の内に計算してしまう。自分に勝ちの目があるのかどうかを。そして美咲の見解は「無理」だった。

 恐怖を具現化した竜の見た目に圧倒されて、いつもの強気な態度も鳴りを潜めた。守護者ガーディアン同士の小競り合い。単一同士での争いなら「勝手にしろ」と吐き捨てることも出来たのだろうが、魔物が出てきたのなら話は別だ。それも古代種エンシェンツを抜けば、間違いなく魔物界隈で頂点を獲れる大物。それがどんな理由であったとしても、攻撃を仕掛けてこようとしているのを容認出来るわけがない。

 ゼアルは剣の柄に手を伸ばす。体高5m、全長15~20mの見上げるほど大きな竜。火を吐かれたり、飛び付かれたりされたらひと堪りもない。まず部下は全滅。守護者はどうだろう、正孝は強いが他は謎だ。かくいう自分も無事では済まないだろう。そんな事を考えていると、ラルフが横から口を挟んだ。

「……見ろよ、みんなビビってる。もう良いだろ?あれに攻撃する価値なんてないぜ?」

 アンノウンを見ながら肩を竦める。言われたアンノウンも同様に肩をすくめてラルフを見た。何を考えているか分からなかったが、同調してくれたことは何となく分かった。

「凄いじゃん。私も乗せてよ」

 ミーシャが空中に浮かびながら目線の高さまでやって来た。アンノウンは特に考えることなく「どうぞ」と答えた。ミーシャの窺うような表情から一転、パァッと明るく笑顔が咲いた。端から見ていたベルフィアは怯えるゼアルたちに視線を送ると、スカした顔で言い放つ。

「良かっタノぅ、もうぬしらに興味が無いらしい」

 その台詞に安堵とまでは行かなくても、緊張は少し和らぐ。美咲は未だ震えて顔を上げられない。ブレイドもアルルも構えを解いてホッとため息を吐いた。

「何を油断しているのです?もしまた攻撃されたらどうするのですか、全く……」

 デュラハンのメラは攻撃に備えて半身で構える。完全に構えを解けば格好の標的だ。ブレイドとアルルに叱責する形で教える。

「……そう、ですね。確かに……すいません」

 ブレイドは視線を上げてゼアルたちを睨む。その立ち居振舞いに未熟さを感じたものの、それ以上に磨いたら光る原石を思わせた。

「ここでの事が終わったら鍛えるのも良いかも知れませんわね……」

 思わず口から出てしまったが、それを聞いたブレイドは「お手柔らかにお願いします」と返した。ゼアルたちとのいさかいは、ようやく終息した。目指すはカサブリア城。人狼ワーウルフ、ジュリアを探して先を急ぐ。

「すっごーい!竜に初めて乗ったよー!乗り心地はそんなにだけど、これは何て言うか征服感があるよー」

 ミーシャはきゃっきゃっとはしゃぐ。ひとしきりはしゃいだ後、何か考えるようにピタリと止まる。

「……あの竜を使役したら面白いかも……」

 黒の円卓の為に倒した竜だったが、自分の為に使っても良いかも知れない。そう思えば少し夢が膨らんだ。

「ミーシャ?」

「……ん?何?」

 少しボーッとしてたことを恥じて何気ない風に答える。

「このままひとっ飛び行きましょうか?」

「おっ!分かってるね新入り君!……ちゃん?どっちでもいっか!いざ行かんカサブリア城へ!!」
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