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第五章 戦争
第三十八話 確認
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「何という事だ……」
陰鬱で暗く沈んだ雰囲気が漂う。まるでお通夜のようにその場は悲しみに満ちていた。というよりまるっきりお通夜と言って差し支えない。本日多くの命がこの世を去ったのだ。
エルフの里、エルフェニア。
ここで今現在、"王の集い"の緊急召集が発令され、八つの種族それぞれの長が半刻と経たず顔を出した。エルフの王であり、王の集いの発足者でもある森王レオ=アルティネスが点呼を取っていると、そこに一人メンバーではない者が映っていた。
彼は魚人族の王子。海王の子で時代を担う跡継ぎだ。ここに来るのは通常承認されたメンバーだけであり、幾ら王子と言えど参加は許可されていない。しかし彼の説明を聞けば、彼がこの円卓に参加するのに誰も文句は言えなかった。
それは海王の死。広大な海で最も権力を持った男はこの日生涯を終えたそうだ。だが残念な事に寿命ではなく、魔族側の無慈悲な攻撃による死だ。空中に突如出現した謎の建造物から紅い雨のような魔力砲が降り注ぎ、国民の居住区は勿論の事、海王の隠れ居城をも攻撃された。魔力砲を受けた所は水中であるにも関わらず、炭化して見るも無残な姿になっていたという。
襲撃時、公務で人魚族の国に出向いていた王子は奇跡的に助かり、直前の外交努力もあって、マーメイドの国にマーマンの国民を一時的に避難する事が出来た。
「オカシイダロ。”白絶”ノ襲撃以来、魚人族ハ拠点ヲ変エテ、ソノ詳細ハ我々ノ中デダケ共有シテイルハズダ。ソンナ事アリ得ルカ?」
獣王は皆がおし黙る中、我先に疑問を口にした。突如マーマン根絶を図った白絶の猛攻を何とか逃げ切り、復興に着手し、地上への食料供給が出来るまでに回復させた程の男が国民を危険に晒す様な情報を流すだろうか?もしそうなら売った自分も死んでいるので間抜けが過ぎる。それともマーマンの中で裏切りが出たと言う事だろうか?それとも……。
「……魔族ト繋ガッテル奴ガイルノカ……」
王の集いの面々をグルッと見渡す。この中に海王の情報を売った奴がいる可能性を示唆していた。
「そうやって不安を煽って楽しい?」
翼人族の女王である空王は、ため息交じりに答える。画面越しに手を広げて頭を左右に振った。
「あるわけないでしょそんな事。人類の生命線の一つでもある海の幸の食料供給を断ってまで何が欲しいっての?」
太いパイプで繋がっていた海との関係を断つなど死にに行くようなもの。これにはヒューマンの国王も続いた。
「ですなぁ。あ、もしこの場に犯人がいるとお思いでしたら私は外れますな。何せ海王とは蜜月の仲でして……皆さんご存じかと……」
国王は海王と秘密裏に契約を交わしていたので、ヒューマンは他種族より多く食料を供給してもらっていた。国を富ませ、軍事力を底上げする為に必要だと懇切丁寧に説得し納得させたが、招集などで顔を出す度に海王はいつも面倒臭そうにしていたのを思い出す。国王の言葉に失笑が起こるも、妖精の王である四大王はそれに喝を入れる。
『ふざけるな!常に共に歩んできた海王が死んだのだぞ?!弔い、悲しむならまだしも、海王の息子もいる前で笑うなど恥を知れ!』
ビリビリと画面が揺れる。その剣幕に場は静まり返った。
『状況を整理しよう……森王』
「ああ……」
森王は四大王のパスを受け取ると、椅子に座り直して目だけで周りを見渡す。
「ハッキリ言って今回の被害は過去に類を見ない程だ……。まず我らの国からだが、鏖の一味の侵入、そして古代種の襲撃だ。非戦闘員はほとんど助かったが、我が国の誇る最強の部隊”グリーンケープ”の半数以上が古代獣により亡くなった。その被害の中には白の騎士団の弓兵”光弓”も含まれている……」
古代種が相手では白の騎士団もどうしようもない。しかし森王の口調だけを読み解けば、最強の一つが暴れたというのに然程被害がないように思える。それを指摘しては先の海王の時の二の前となってしまうので皆ツッコまない。
「……彼の獣は何故塒を離れたのじゃ?これについては獣王、そなたの国が一番近く、理由も知れると思うが如何に?」
山小人の王、鋼王は獣王に質問する。
「ソレハ現在調査中ダ。最モ、古代種ノ歴史カラ巣ヲ離レタ記録ガ存在シナイ以上、憶測ノ領域ヲ出ナイガ……」
「ふぅん、それで?古代種は何事もなく戻ったのかしら?」
空王も興味ありげに参加する。その質問に対しては答えにくそうに頭を掻いた。
「イヤ、ソレガ戻ッテナインダ。森王、古代獣ハ”エルフェニア”ニ留マッテイルノカ?」
「言ってなかったな……死んだよ」
その言葉にまた静まり返る。今まで静観を決め込んでいた獣王の隣にいるアニマンの王の一つが声を上げる。
「死ンダ?何ヲ仰イマス。古代種ヲ殺スナド夢ノマタ夢デショウ?光弓ハ、ソレ程強カッタトイウ事デゴザイマスカ?」
彼は鹿の頭を持つ獣人で、名を角王。その名の通り立派な角を持っている。一角人の王とこの名を取り合ったが、ホーンの額から出る角に比べれば彼の角は立派すぎた。ホーンの王から正式に譲ってもらった由緒正しき名である。
「部隊がどれ程貢献したのか私は知らないのだ。憶測になるが、我が部隊は古代種に無力だったであろう。皆が知るようにその力は尋常ではない。彼の獣が死んだ理由はただ一つ、鏖が殺したのだ。我々が確認した時には跡形もなく消し炭にされた後だったよ……」
ざわつく。
「鏖だと?」
「何故奴ガ……」
「ありえん」
「そんなに強いのか?」
口々に驚きを隠せぬ声が響き渡る。森王が手を上げると、気付いたものから黙っていく。
「我が国の被害は国民の居住区の崩壊と光弓以下グリーンケープの壊滅状態であろう。後は獣が突き破った魔障壁の修繕だが、これは早い段階で完了している。国の復興に向けて尽力している所だ」
森王は一拍置いて手元の資料をぺらりと捲る。
「次に北で起こった謎の勢力の出現。ホーンの居住区であり刃王の領土が襲撃を受け、他の種族も巻き込まれたと話に聞いている。事態の鎮圧を図って向かわせた中隊もたった一発の魔法で壊滅。映像で見る限りヒューマンだが、見たことの無い連中だ。情報を持つものがいたら名乗り出てくれ」
森王が手元の水晶に触れると、映像に映し出されたのは獅子の鬣のような立派な髭の男と、まだまだ成長段階にある少年の顔だった。じっくりと映像を流すが、誰もが疑問の様相を呈す。その雰囲気から察するに「誰だこいつら?」である。刃王はその疑問の空気にさらに悩ませる問題を放つ。
「奴らには僕らが頼りにする魔法を逆手に取った攻撃を放つ。対策を練らなければ今回の様に何も出来ずに全滅の憂き目にあいますよ……」
全員の頭に顔が記録されたであろう頃合いに映像を消すと森王は椅子にもたれる。
「我らエルフの国の襲撃、ホーンの領土兼中隊の壊滅、極めつけは海王の死とマーマンの国の崩壊だ。古代種と光弓の死を合わせて、一日でこれだけの事件が起こった事は最早呪いと言える」
皆の空気がまた重く沈む。この空気の中、さっきから別の資料に目を通していたマクマイン公爵が顔を上げた。
「少し宜しいか?空飛ぶ歪な建造物は、どの魔族の物なのかご存じなので?」
「詳しくは何も分からない。魔族に関しては長い時間を掛けて探っていくしか手がないからな」
魔族とは姿形も違うのでスパイを立てることも出来ない。ヒューマンに比べれば長寿の人類にとって、時間は特に気にする事ではない。今はお手上げでも情報はその内漏れる。そんな悠長な事を言ってられる程、マクマインの気は長くない。
「なれば、私の情報網を駆使して調べましょう。私が主体でやる関係上、承認をいただきたく思うので、決議をお願い致します」
直ぐ様、多数決が取られる。獣王のみが反対したが、他は勝手にやらせとけといった感じで圧倒的賛成多数により、探りに関しては公爵に一任された。
「では公爵、よろしく頼む」
「はっ……それともう一つ宜しいでしょうか?鏖に関してなのですが……彼の獣を殺せた事はまぁ理解するとして、それ以降の被害の程は……?」
「今のところない。確認漏れの可能性も含めて調査を行う。良いか?」
結局何も分からない状況だ。被害が甚大だったことだけが形として残った。
この会議で決まったことを列挙すると、被害があった場所への復興支援。光弓の後釜にハンターの起用。謎の組織、"八大地獄"に関する調査。突如現れた浮遊物体の調査と調査責任者をマクマイン公爵に一任、といったところだ。
「我らは人類は常に一蓮托生。魔族を打倒し、人類の勝利となるその日まで手を取り合い、皆で支え会うのだ」
*
「何やってんだよお前」
「……見て分からないのか?黙祷だ。我ら白の騎士団の称号を共に分かち合った友へのな……」
黒曜騎士団の団長であり、白の騎士団で"魔断"の称号を持つ男、その名もゼアル。同じく白の騎士団で"狂戦士"の称号を持つガノンと共にイルレアンの一室で待機していた。
「ふん、あのイケ好かねぇエルフ野郎が真っ先に死ぬとはな……野郎の弓捌きはこの俺も認めちゃいたが、相手がバケモンじゃ話になんねーよ」
「じゃガノンも弔ってあげたら?」
ガノンの連れの女の子アリーチェはソファに座って軽く話す。「ちっ……」と舌打ちしながらプイッと顔を背けた。ゼアルはゆっくりと目を開けて虚空を見つめる。
「……私たちはこのままで良いんだろうか……」
「あ?」
ゼアルはガノンを見据えると真剣な顔で答える。
「白の騎士団と持て囃され、力を示してきたがそれは単に戦争という公の場であって、こうした事態に一切対応できない。相手が攻めてくるまで何もしないなど、考えてみたら無防備に近いと感じてな……」
「……何が言いたい?」
「我ら白の騎士団の面子で攻めてみてはどうかと思ったんだ」
ガノンは「けっ、何を言い出すかと思えば……」と呆れ気味に肩を竦める。
「俺らで冒険者でもやろうってのか?仲良しごっこなんざゴメンだぜ」
「貴様に期待していないが、私が言いたいのは積極的に攻めてみようという事だ。公爵からの情報で、人類がかなりの痛手を食ったそうでな……奴等に誰を相手にしているのか教えてやろうと思ってな……」
右拳をギュッと握って決意を固くしている。それを流し目で見ていたガノンも「はっ!」と笑う。
「んだよ、俺らで戦争しようって事かよ。それならそうと言えよな」
ガツンッと拳を合わせる。
「うっし!どこ攻めんだよ?大暴れしてやるぜ!」
「白の騎士団全員でだ……手始めにカサブリア王国を潰す。あそこは崩壊寸前の国だし、力を示すならそこが一番都合が良い」
「……小難しいこと考えんなよ。ただぶっ潰しゃ良んだよ」
白の騎士団の結集はそう時間が掛からなかった。光弓の弔い合戦はこの後すぐに行われる。
陰鬱で暗く沈んだ雰囲気が漂う。まるでお通夜のようにその場は悲しみに満ちていた。というよりまるっきりお通夜と言って差し支えない。本日多くの命がこの世を去ったのだ。
エルフの里、エルフェニア。
ここで今現在、"王の集い"の緊急召集が発令され、八つの種族それぞれの長が半刻と経たず顔を出した。エルフの王であり、王の集いの発足者でもある森王レオ=アルティネスが点呼を取っていると、そこに一人メンバーではない者が映っていた。
彼は魚人族の王子。海王の子で時代を担う跡継ぎだ。ここに来るのは通常承認されたメンバーだけであり、幾ら王子と言えど参加は許可されていない。しかし彼の説明を聞けば、彼がこの円卓に参加するのに誰も文句は言えなかった。
それは海王の死。広大な海で最も権力を持った男はこの日生涯を終えたそうだ。だが残念な事に寿命ではなく、魔族側の無慈悲な攻撃による死だ。空中に突如出現した謎の建造物から紅い雨のような魔力砲が降り注ぎ、国民の居住区は勿論の事、海王の隠れ居城をも攻撃された。魔力砲を受けた所は水中であるにも関わらず、炭化して見るも無残な姿になっていたという。
襲撃時、公務で人魚族の国に出向いていた王子は奇跡的に助かり、直前の外交努力もあって、マーメイドの国にマーマンの国民を一時的に避難する事が出来た。
「オカシイダロ。”白絶”ノ襲撃以来、魚人族ハ拠点ヲ変エテ、ソノ詳細ハ我々ノ中デダケ共有シテイルハズダ。ソンナ事アリ得ルカ?」
獣王は皆がおし黙る中、我先に疑問を口にした。突如マーマン根絶を図った白絶の猛攻を何とか逃げ切り、復興に着手し、地上への食料供給が出来るまでに回復させた程の男が国民を危険に晒す様な情報を流すだろうか?もしそうなら売った自分も死んでいるので間抜けが過ぎる。それともマーマンの中で裏切りが出たと言う事だろうか?それとも……。
「……魔族ト繋ガッテル奴ガイルノカ……」
王の集いの面々をグルッと見渡す。この中に海王の情報を売った奴がいる可能性を示唆していた。
「そうやって不安を煽って楽しい?」
翼人族の女王である空王は、ため息交じりに答える。画面越しに手を広げて頭を左右に振った。
「あるわけないでしょそんな事。人類の生命線の一つでもある海の幸の食料供給を断ってまで何が欲しいっての?」
太いパイプで繋がっていた海との関係を断つなど死にに行くようなもの。これにはヒューマンの国王も続いた。
「ですなぁ。あ、もしこの場に犯人がいるとお思いでしたら私は外れますな。何せ海王とは蜜月の仲でして……皆さんご存じかと……」
国王は海王と秘密裏に契約を交わしていたので、ヒューマンは他種族より多く食料を供給してもらっていた。国を富ませ、軍事力を底上げする為に必要だと懇切丁寧に説得し納得させたが、招集などで顔を出す度に海王はいつも面倒臭そうにしていたのを思い出す。国王の言葉に失笑が起こるも、妖精の王である四大王はそれに喝を入れる。
『ふざけるな!常に共に歩んできた海王が死んだのだぞ?!弔い、悲しむならまだしも、海王の息子もいる前で笑うなど恥を知れ!』
ビリビリと画面が揺れる。その剣幕に場は静まり返った。
『状況を整理しよう……森王』
「ああ……」
森王は四大王のパスを受け取ると、椅子に座り直して目だけで周りを見渡す。
「ハッキリ言って今回の被害は過去に類を見ない程だ……。まず我らの国からだが、鏖の一味の侵入、そして古代種の襲撃だ。非戦闘員はほとんど助かったが、我が国の誇る最強の部隊”グリーンケープ”の半数以上が古代獣により亡くなった。その被害の中には白の騎士団の弓兵”光弓”も含まれている……」
古代種が相手では白の騎士団もどうしようもない。しかし森王の口調だけを読み解けば、最強の一つが暴れたというのに然程被害がないように思える。それを指摘しては先の海王の時の二の前となってしまうので皆ツッコまない。
「……彼の獣は何故塒を離れたのじゃ?これについては獣王、そなたの国が一番近く、理由も知れると思うが如何に?」
山小人の王、鋼王は獣王に質問する。
「ソレハ現在調査中ダ。最モ、古代種ノ歴史カラ巣ヲ離レタ記録ガ存在シナイ以上、憶測ノ領域ヲ出ナイガ……」
「ふぅん、それで?古代種は何事もなく戻ったのかしら?」
空王も興味ありげに参加する。その質問に対しては答えにくそうに頭を掻いた。
「イヤ、ソレガ戻ッテナインダ。森王、古代獣ハ”エルフェニア”ニ留マッテイルノカ?」
「言ってなかったな……死んだよ」
その言葉にまた静まり返る。今まで静観を決め込んでいた獣王の隣にいるアニマンの王の一つが声を上げる。
「死ンダ?何ヲ仰イマス。古代種ヲ殺スナド夢ノマタ夢デショウ?光弓ハ、ソレ程強カッタトイウ事デゴザイマスカ?」
彼は鹿の頭を持つ獣人で、名を角王。その名の通り立派な角を持っている。一角人の王とこの名を取り合ったが、ホーンの額から出る角に比べれば彼の角は立派すぎた。ホーンの王から正式に譲ってもらった由緒正しき名である。
「部隊がどれ程貢献したのか私は知らないのだ。憶測になるが、我が部隊は古代種に無力だったであろう。皆が知るようにその力は尋常ではない。彼の獣が死んだ理由はただ一つ、鏖が殺したのだ。我々が確認した時には跡形もなく消し炭にされた後だったよ……」
ざわつく。
「鏖だと?」
「何故奴ガ……」
「ありえん」
「そんなに強いのか?」
口々に驚きを隠せぬ声が響き渡る。森王が手を上げると、気付いたものから黙っていく。
「我が国の被害は国民の居住区の崩壊と光弓以下グリーンケープの壊滅状態であろう。後は獣が突き破った魔障壁の修繕だが、これは早い段階で完了している。国の復興に向けて尽力している所だ」
森王は一拍置いて手元の資料をぺらりと捲る。
「次に北で起こった謎の勢力の出現。ホーンの居住区であり刃王の領土が襲撃を受け、他の種族も巻き込まれたと話に聞いている。事態の鎮圧を図って向かわせた中隊もたった一発の魔法で壊滅。映像で見る限りヒューマンだが、見たことの無い連中だ。情報を持つものがいたら名乗り出てくれ」
森王が手元の水晶に触れると、映像に映し出されたのは獅子の鬣のような立派な髭の男と、まだまだ成長段階にある少年の顔だった。じっくりと映像を流すが、誰もが疑問の様相を呈す。その雰囲気から察するに「誰だこいつら?」である。刃王はその疑問の空気にさらに悩ませる問題を放つ。
「奴らには僕らが頼りにする魔法を逆手に取った攻撃を放つ。対策を練らなければ今回の様に何も出来ずに全滅の憂き目にあいますよ……」
全員の頭に顔が記録されたであろう頃合いに映像を消すと森王は椅子にもたれる。
「我らエルフの国の襲撃、ホーンの領土兼中隊の壊滅、極めつけは海王の死とマーマンの国の崩壊だ。古代種と光弓の死を合わせて、一日でこれだけの事件が起こった事は最早呪いと言える」
皆の空気がまた重く沈む。この空気の中、さっきから別の資料に目を通していたマクマイン公爵が顔を上げた。
「少し宜しいか?空飛ぶ歪な建造物は、どの魔族の物なのかご存じなので?」
「詳しくは何も分からない。魔族に関しては長い時間を掛けて探っていくしか手がないからな」
魔族とは姿形も違うのでスパイを立てることも出来ない。ヒューマンに比べれば長寿の人類にとって、時間は特に気にする事ではない。今はお手上げでも情報はその内漏れる。そんな悠長な事を言ってられる程、マクマインの気は長くない。
「なれば、私の情報網を駆使して調べましょう。私が主体でやる関係上、承認をいただきたく思うので、決議をお願い致します」
直ぐ様、多数決が取られる。獣王のみが反対したが、他は勝手にやらせとけといった感じで圧倒的賛成多数により、探りに関しては公爵に一任された。
「では公爵、よろしく頼む」
「はっ……それともう一つ宜しいでしょうか?鏖に関してなのですが……彼の獣を殺せた事はまぁ理解するとして、それ以降の被害の程は……?」
「今のところない。確認漏れの可能性も含めて調査を行う。良いか?」
結局何も分からない状況だ。被害が甚大だったことだけが形として残った。
この会議で決まったことを列挙すると、被害があった場所への復興支援。光弓の後釜にハンターの起用。謎の組織、"八大地獄"に関する調査。突如現れた浮遊物体の調査と調査責任者をマクマイン公爵に一任、といったところだ。
「我らは人類は常に一蓮托生。魔族を打倒し、人類の勝利となるその日まで手を取り合い、皆で支え会うのだ」
*
「何やってんだよお前」
「……見て分からないのか?黙祷だ。我ら白の騎士団の称号を共に分かち合った友へのな……」
黒曜騎士団の団長であり、白の騎士団で"魔断"の称号を持つ男、その名もゼアル。同じく白の騎士団で"狂戦士"の称号を持つガノンと共にイルレアンの一室で待機していた。
「ふん、あのイケ好かねぇエルフ野郎が真っ先に死ぬとはな……野郎の弓捌きはこの俺も認めちゃいたが、相手がバケモンじゃ話になんねーよ」
「じゃガノンも弔ってあげたら?」
ガノンの連れの女の子アリーチェはソファに座って軽く話す。「ちっ……」と舌打ちしながらプイッと顔を背けた。ゼアルはゆっくりと目を開けて虚空を見つめる。
「……私たちはこのままで良いんだろうか……」
「あ?」
ゼアルはガノンを見据えると真剣な顔で答える。
「白の騎士団と持て囃され、力を示してきたがそれは単に戦争という公の場であって、こうした事態に一切対応できない。相手が攻めてくるまで何もしないなど、考えてみたら無防備に近いと感じてな……」
「……何が言いたい?」
「我ら白の騎士団の面子で攻めてみてはどうかと思ったんだ」
ガノンは「けっ、何を言い出すかと思えば……」と呆れ気味に肩を竦める。
「俺らで冒険者でもやろうってのか?仲良しごっこなんざゴメンだぜ」
「貴様に期待していないが、私が言いたいのは積極的に攻めてみようという事だ。公爵からの情報で、人類がかなりの痛手を食ったそうでな……奴等に誰を相手にしているのか教えてやろうと思ってな……」
右拳をギュッと握って決意を固くしている。それを流し目で見ていたガノンも「はっ!」と笑う。
「んだよ、俺らで戦争しようって事かよ。それならそうと言えよな」
ガツンッと拳を合わせる。
「うっし!どこ攻めんだよ?大暴れしてやるぜ!」
「白の騎士団全員でだ……手始めにカサブリア王国を潰す。あそこは崩壊寸前の国だし、力を示すならそこが一番都合が良い」
「……小難しいこと考えんなよ。ただぶっ潰しゃ良んだよ」
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