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第四章 崩壊

第二十八話 思わぬ敵

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空が白んできた頃、ブレイドは目を覚ました。

テント内は薄暗く日も差してないが、体内時計は狂わない。動こうとすると柔らかいものが腕に当たる。テント内が狭いからかアルルが寄り添って寝ていた。実家ではそれぞれのベッドで寝ていたので、一緒の寝床で起床という機会はほとんど無かった。さらにベッドとは違う寝袋を隔てた固い地面の上の感触を体で確認すると(あぁ、あの家から出たんだなぁ……)としみじみ実感する。

いつもの時間に目が覚めたとなればまだ薄暗い。アルルを起こすのは可哀想だと思い、ゆっくりと静かに体を起こした。テントの入り口にほんのり灯りが入ってきている。この光は寝る前にも見た。のっそりテントから出ると、焚き火とそれを囲う二人に出迎えられた。

「よう、ブレイド。お前早いな~」

「おはヨうさん。ヨぅ寝れタか?」

ブレイドが眠気眼で起きてきたが、ベルフィアとラルフを見ると頭を振って眠気を冷ます。

「おはようございますラルフさん、ベルフィアさん。夜番お疲れ様です」

ハキハキした声でベルフィアを労う。「うむ」と一つ頷くと、だいぶ小さくなった焚き火にまた枝を投げ入れ始めた。朝ごはんにこの焚き火を活用する可能性を考えてだろう。ブレイドは肩を回した後、屈伸運動をし始める。

「ちょっとひとっ走りしてきます」

ベルフィアはブレイドを見て、「お?武器は持っていかんノかい?」と尋ねた。

「そうですね。あの剣は重いのでちょっと邪魔ですし」

「ならこいつを持っていけ」

ラルフはポイッと黒い塊を投げ渡す。難なくキャッチするとその物体を覗き見る。

「ラルフさんの投てき武器じゃないですか?」

「単なる鉄ノ棒を尖らしタもんじゃが、無いヨりはマシじゃろ」

「それ、俺のセリフな……。もう二本くらい持ってくか?」

ラルフは足に装着したベルトの投げナイフを二本外してブレイドに見せる。しかし、それには頭を振った。

「これで大丈夫です。お借りします」

そういうとミーシャが破壊した山の方向に視線を移す。フッと鋭く細い息を吐いて、走り出した。その様子を見ていたラルフは一瞬でブレイドを見失う。走り出しの時点で目がついていかなかった。

「は、はえーな……」

「まぁ流石に魔族ノ血が入っとルワ」

ベルフィアは何でもないように話すが、ラルフには未だに信じられない存在だった。魔族と人間ヒューマンの混血種”半人半魔ハーフ”。分からないと思えるのは姿形が人間ヒューマンと変わらない事だ。今のところ身体能力が高いという事ぐらいしか人との違いがない。きっと魔族側に傾倒した見た目の半人半魔ハーフもいたのだろうが、ブレイドはそうではない。見た目だけなら人の里にも行けそうだ。

だがすぐに思い直す。例えブレイドが変身能力を有していて、人の見た目から大きく外れた魔族形態があっても隠す必要はない。ペルタルク丘陵は魔族の土地であり人の里ではないからだ。
「ん?」となれば魔族に傾倒した見た目の方が重宝されるのでは無いだろうか?人間だとすぐさま攻撃される。ミーシャは信用できるが、コネがあるというペルタルクの支配者はどんな奴か顔すら知らない。万が一にも突然癇癪を起こされでもしたら……。

ラルフはこれ以上考えるのを止める。死地に飛び込む事は理解していたのだ。今さらなんだというのか。死への恐怖で目的地を放棄すればそれこそ足が止まる。ゆっくりと目を焚き火に向けると、ベルフィアの代わりに枝を投げた。

ブレイドは風のように木々や枝葉をぬって駆け抜ける。山で育ったブレイドにはこの程度の森は障害物にならない。走ったり飛んだり、つまづくことなくグングン進んで行く。体が温まってきたところで速度を上げる。(もう少しいけるか?)軽い運動のつもりだったが、走っている内に気持ちが乗ってきた。態勢を今よりほんの少し低く落とし、重心を前に出す。倒れるか倒れないかのギリギリで足を出すとさらに走る速度が増す。その姿はまさに疾風。

瞬く間に破壊された山についた。木々を抜けると止まるために足でブレーキをかける。ザザァッと地面を抉り、硬い石に阻まれてようやく止まる。5mくらい止まる距離を要した。自分でも速度を出しすぎたと反省するくらいだ。帰りはそんなに飛ばさないようにしないと最悪テントに突っ込んでしまう。そんな詮無い事を考えつつ、昨日の晩に吹っ飛んだ山を見渡す。変わり果てた山の残骸に住んでいたであろう魔獣達がくんくん臭いを嗅ぎながら歩き回っている。

自分たちの巣を追われ、帰る家の無くなってしまった哀れな魔獣たち。悲哀を感じるその姿を見て、何匹か食べられる魔獣を発見する。ご飯を探しに来たわけではなかったが、丁度ラルフから投げナイフを借りていた。素手よりは遥かに捕まえやすい。ナイフを構えてゆっくり前に進む。

「何をしてるんだい?」

その時突然声をかけられた。こんなところで話しかけられるとは思わなかったブレイドはピタッと動きを止めた。目だけで周りを確認するが、人の姿はない。

「……誰だ?」

「質問してるのは私なんだが?」

空耳ではない。すぐ後ろから聞こえてきた。しかし気配がない。間合いを取るため前に飛ぶ。そのまま空中で転回すると、後ろを見るように着地した。そこに立っていたのはエルフのように華奢な見た目のヒューマン。髪は肩口で切りそろえられていて中性的な見た目をしている。ライダースーツの様にピッタリと肌に張り付いた黒い衣装を身に纏っていて、風通しの悪そうな服はさぞ蒸れるだろうと連想させた。ブレイドの急な動きにも微動だにしない堂々とした佇まいは一見すると自信の表れだが、危機感がないようにも感じた。

「……今日の朝ご飯でも獲ろうかどうか迷っていた所だ」

正直に語る。警戒するに越した事は無いが、過剰だとそれこそ勘違いの元だ。軽い運動がてらここに来たのだ戦いに来たわけじゃない。

「自給自足か。この世界の人は逞しいな」

嫌味の無い感心。むしろ憧れすら感じる瞳だった。ブレイドは構えを解き、ナイフをポケットに仕舞う。

「失礼しました。気配を感じ取れず警戒していたもので……」

すぐさま敬語に切り替えたブレイドに知性を感じると、フッと微笑んで見せる。

「私は”アンノウン”。君は?」

”アンノウン”という名前にピクリと反応する。炭鉱跡に侵入する前にドラゴンをけしかけたとされるヒューマン。ラルフに接近して探りを入れてきたらしいが、今回はブレイドに焦点を絞ったのだろうか?

「俺はブレイドって言います。アンノウンさんはどうしてこちらに?」

警戒心を感じさせない親し気な空気感を出しつつ話しかける。

「ああ、ここに山があったと思うんだが……君は知らないかい?」

「あ、すいません俺はこの辺良く知らなくて……」

その答えにアンノウンの目が据わる。こっちの事はあらかた知っているみたいな目だ。誤魔化したことがバレた可能性がある。ドラゴンをも操る未知数な存在を前に背筋に冷たいものが流れた。「なるほど、地元民じゃないんだ。邪魔したね」と踵を返す。単なる世間話程度に終わったことに内心安堵した。

「あ、そうだ。君のメンバーにキールっていう人がいるでしょ?呼んできてくれないかな?」

と思ったが、まだ許してくれないようだ。(キール?)その名に聞き覚えがない。一瞬何の事か問いただそうとしたが、スッと頭を何かがよぎる。(ラルフさんか?)この中性的な人物が出会って話したのはラルフと自分だけ。となればアンノウンの言うキールという人物はブレイドを除けばラルフを置いて他にいない。偽名を用いてかく乱する。流石に自分には考えつかない事だ。何も考えず本名を晒してしまったのを恥ずかしく思う。

「……キールがここまで来るのは時間がかかりすぎます。近くまで案内するのでついてきて下さい」

ブレイドは経験則に無い事を考える。(さて、どうしたものか……)このままラルフと引き合わせても良いものなのかどうか。ブレイドはベルフィアから魅了の魔法が利きづらいだろうと言われている。対してラルフは簡単に魅了にかかる事が分かっている以上、操られる危険性もある。

黙々と森を進むと、後ろでガサリと手で枝を押しのける音がする。割りと素直についてくるアンノウンに違和感しかない。やはり全く危機感を感じていないような、ここにいるようでいないような空気のような存在感。山だった場所と野営場所の丁度中間地点で立ち止まる。

「ここで待っててください。呼んできます」

「こんなところで?魔獣でも出そうだな……」

「すぐ呼んできます」

ブレイドはまた森を駆け抜ける。急ぐばかりを優先し、またしても同じ速度で疾走する。テントに近付いた時(あ、しまった。ブレーキ……)と考える。このままだと本当にテントに激突だ。ふと、すぐ側の木に向かって飛ぶ。木を地面に見立て、真横に着地した。メギュッという大きな音をたてて木が傾く。バサバサと枝葉が揺れて騒がしい。根っこも半分以上掘り返され、その威力を際立たせる。空中で転回し、地面に着地した。

「ちょっ……おいおい!」

「なんじゃなんじゃ?」

その大きな音にビビってラルフはブレイドの元に行く。木の変わり果てた惨状をブレイドと交互に見た後、ため息を吐いて注意する。

「まだ早いんだからもうちょい静かにさぁ……」

「緊急事態です。アンノウンが現れました」

その名前にラルフの目が見開く。

「……あのアンノウンか?」

「恐らくわ……。山の残骸の場所で声をかけられました。途中までついて来させたので一緒に行きましょう」

「おう!」元気よく返事するラルフ。召喚に関する事柄を手に出来る可能性があるとあっては、楽しみで仕様がない。

「正気か?そちじゃ簡単に殺されルぞ?」

「俺がついてます」

ブレイドはテントに入り、剣を取り出した。

「もしもの時はこいつでなんとかします。出来ればミーシャさんを起こしていただけたらもっと安全に……」

「……私がどうかしたの?」

テントから顔を覗かせるミーシャ。テントから頭だけを出してキョロキョロと目を動かしているのは実に滑稽な姿だ。その頭のすぐ下からウィーが欠伸をしながら出てきた。焚き火に一直線に向かうと火の側に座って手を前に突き出し温まり始める。

「もー……何?騒がしぃなぁ……」

アルルも起きてきた。寝ぐせだらけの頭をポリポリ書きながら下着姿でテントから出てくる。

「バ……!?お前服着ろ!服!!」

寝袋に包まっていたから分からなかったが、厚手の長袖ワンピースを脱いで寝ていたようだ。十代前半とは思えない豊満な体を見せつける。

「あ、みんなおはよ~ございまふ」

まだ寝ぼけてふがふがしている。ブレイドがあたふたしてテント内に連れ込むと「着ろ!とにかく着ろ!」と焦った声が聞こえてくる。

「阿呆ぅじゃな……」

「どうでもいいんだけど何があったの?」

ベルフィアはミーシャのすぐ前に跪くと報告を始めた。

「昨日襲ってきタ竜使いが現れタとノ事です。敵はアンノウンと名乗り、ラルフに用があルと……」

ミーシャはテントから出る。

「ほう?確かにその名はラルフから聞いた名だ。今回も仕掛けてくる可能性があるな」

キリッとした顔で腕を組み、不敵な笑みを浮かべる。いつもの支配者ムーブだ。

「待った。今回はアンノウンとの会話がメインだ。手を出されたら困る」

「……例の召喚魔法?」

ドラゴンを倒した際、光になって消えていったあの時の事を思い出す。異常に目を輝かせていた歴史マニアの顔を。

「そうだ。こればかりは譲れないぞ」

「ん?そちが譲っタことがあっタか?」

「ある」と断言し、ラルフは用意を始めた。鞄を肩から下げて鞄の中を覗く。メモ帳とペンを確認すると、鞄を閉めて顔を上げる。ブレイドが丁度疲れた顔をしてテントから出てきた。

「援護頼むぞブレイド」

それを聞いて、ピッと背筋を伸ばす。

「任せてください。あ、それと”キール”って言うのはラルフさんの偽名ですよね?」

「そうそう」

「まタ偽名なんぞ使っとんノか?それでヨくこんがらがらんノぅ」

ベルフィアは呆れ気味に呟く。

「生きていく知恵だ。万が一の時は捨てられるのが偽名の素晴らしいところなんだ」

フンッとこちらは逆に誇らしげだ。ブレイドはうんうん頷いた。自分がしくじったと思っているからだ。

「騙されルなブレイド。正々堂々と生きていればそんなもん要らんノじゃ。ラルフを目指しちゃいかんぞ」

「おい。失礼だな……」

ミーシャはその漫才を見ながらブレイドに尋ねる。

「キールって偽名がラルフの事だって良く分かったね」

「アンノウンが相対したのは俺とラルフさんとウィーの三人。偽名を用いるのはラルフさんだけって思いまして……」

頭が回るところを見せられて感心してしまう。ミーシャだったらその場で「誰?」と聞いてしまうヤツだ。

「んな事いいからとっとと行こう。相手が待たされている事に怒ったら教えてもらえない所か戦いに発展しかねないしな」

ブレイドがスッと近付きポケットからナイフを取り出すとラルフに手渡す。

「隣にいましょうか?」

ラルフはベルトに投げナイフを差し込むと頭を振った。

「いや、後方でそいつを構えていてくれ。万が一の時は合図を出すから、そんときはぶっぱなせ」

ミーシャを見る。

「……一緒に行くか?」

「うん行くー」

寝起きだったし興味無いだろうと遠慮がちに言ったが、即答でラルフの側に寄ってきた。

「ならばわらわも……」と歩み出すが、ラルフが制止する。

「アルルとベルフィアとウィー。お前らはここにいてくれ」

「えぇ~……」「何故じゃ?」と不満の声が上がる。「テントを片付けるのが面倒」ということをクドクド説くと渋々了承した。

「ブレイド。ミーシャが来てくれるから案内した後は戻っても大丈夫だ。というかアルルが心配するから戻ってやれ」

「分かりました。それじゃ案内します。ついてきて下さい」

ブレイドは前を歩き始める。「すぐ戻る」と言った手前走りたかったが、案内する以上ついてきてるかを確かめながら進む。待ち合わせ場所でちゃんと待ってるかも不安だったが、やはり何事もなくそこにいた。

「やぁキール」

こちらが何か言う前に先手を打つように話し掛けられた。

「アンノウン。こんなに早く会えるとは思わなかったぜ」

アンノウンとラルフを引き合わせたブレイドはスッと一礼すると「じゃあ先に戻ります」言って踵を返す。

「ブレイド君」

ふと呼び止められる。ピタッと足を止めて肩越しにアンノウンを見ると「ありがとう」と感謝された。そんな事を言われるとは思っていなかったので、険のとれた目でアンノウンを見た後、会釈を返す。顔を上げるとタッと走ってテントに戻っていった。

「それで……そちらは?」

「我が名はミーシャ。お前がアンノウンか。初めまして、だな」

「なるほど。貴女が……噂はかねがね……」

アンノウンはお腹の辺りに手を添えて、スッと腰から頭を下げる。

「なかなか礼儀正しい奴だな。気に入った!頭を上げよ、発言を許す」

「ありがとうございます。魔王様」

音も立てずに頭を上げるとラルフに目を向ける。

「君たちに警告しておこうと思ってね。エルフの王が私達に君らの討伐を命じてきたんだ。どうしたものかと思ってさ」

少し困った顔で伝えてくる。

「なるほど?宣戦布告と言う事でいいのか?」

ミーシャは聞くままに捉える。

「まぁ待て。アンノウンはエルフ側なのか?と言う事は召喚に関する魔法はエルフが持っているってことで良いのか?」

ラルフの言葉にピクッと眉が上がる。

「……まぁそんなことはどうでもいいじゃないか」

その突き放す言葉に能力の開示を拒んでいるのが見えた。だがこれで召喚士がアンノウンである事は間違いないだろう。能力を開示させるなら仲良くなる必要がある。となれば彼?彼女?が言っている事を読み解く必要がある。そこまで難しい事ではないが。

「何故俺たちにその情報を教えた?闇討ちすれば知らないうちに殺す事だってできたはずだが……?」

「エルフの連中はどうにも気に食わなくてね……」

「……私達といったか?他にも君みたいなエルフに加担するものが?」

「その通り」

「……ヒューマンの王ではなくエルフの王?」

「?……ああ、そうだ」

顎に手を当てる。エルフは何故自分たちを狙うのか?ヒューマンなら理解できる。散々おちょくったからだ。魔族も同様に被害を与えた。そのどちらからのアプローチもなくエルフからの刺客が来るとは正直意味が分からない。(いや、横の繋がりがあるのか……)そう考えると納得がいく。

「報酬はいくらだ?」

「金なんか要らない。要るのは帰り道。それだけだ」

帰り道?その言葉にある人物が浮かぶ。藤堂源之助。”元の世界”とやらに対する帰還願望。

「……つまりあれだ。君は別の世界の人間なんだな?」

その言葉には流石に目を見開いた。

「……知ってるのか?」

まったく知らない。そういう男を知っているだけだ。

「……ああ。知ってる」

「え?」

ミーシャがピクッと反応したが肩を抱き寄せて口に人差し指を付ける。その行動にドキッとしてミーシャは黙った。「知ってる」なんてもちろんハッタリだが、ここでハッタリだとバレたら意味がない。

「俺の知り合いに君と同じ別世界の人間がいる。俺に……いや、俺達に協力するなら帰る方法も見つかるかもしれないな……」

アンノウンは腕を組んで黙った。しばらく目を瞑っていたがふと目を開ける。

「キール……お前に出会ったのは運命だったのかもな……エルフの連中など最早どうでもいい。私は君らに就こう」

狙い通りではあるが、それはそれで不味い。元の世界に帰る方法は藤堂だけが知っている。しかもそれは対策済みでどうのしようもない事が確定している。

「……待て。ここで唐突に裏切ればエルフにつけ狙われるのは変わらない。君がエルフの仲間ならエルフの追跡は必然君だけだ。ここは手を組もう」

目を細めてラルフを睨む。相手を精査している目だ。

「ふむ、一理ある。いいだろう」

そこで密約が交わされた。今後を左右する決定的瞬間。二人は今後の事についてを綿密に話し合う。そこで一人顔を赤くして火照る魔族が一人盛り上がっていた。ラルフの行動の意味を考えると自然と上気し、顔が熱くなる。二人は話し終わるとどちらからともなく握手をした。

「また会おうキール」

「ああ、またなアンノウン」

アンノウンは踵を返し帰って行った。その後ろ姿を見送るとポツリと呟いた。

「さて、これがいい方向にいくかそれとも……?」

不安はあるが襲ってくる敵の情報が手に入ったのは大きい。今後も刺客は送られてくる。それも四方八方から。

「気が重いなぁ……」

ミーシャはラルフに寄り添う。今後の心配をしてか、それともただ寄り添っただけか。ともかく重要なのはここからだ。ミーシャの頭を撫でながらしばらくアンノウンの行った先を見つめていた。
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