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第二章 旅立ち

第二十八話 夜明け

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長くなると思われた夜も、明けてみればすぐだった。

”稲妻”と”牙狼”は撤退を余儀なくされ、”竜巻”は壊滅。本来、他にも部隊が派遣されていたが、作戦の中止が”牙狼”より発令され、進行中に撤退。
アルパザ側の勝利で幕を閉じる。

アルパザの中央にある教会で、集会が開かれた。
今回の騒動に関して、誰もが疑問を感じた為だ。

町の代表者たちが顔を付き合わせ、議論を戦わせていた。その中には件の中枢にいた団長とリーダー、そして、「アルパザの底」の店主も参加していた。

「何故突然、魔族が攻めてくるのですか?狙われた理由をお教え願いたい」

「この地には古くから”飛竜”が守護神として存在してきた。今更どうしてここを襲うんだ…利益はなんだ?」

「これからどうすれば良い?町を捨てるのか?」

集会は騒がしく、それぞれが思い思いの声を出す。

憤慨、焦燥、不安。

皆が負の感情で彩られる中、黒曜騎士団団長ゼアルは静かに、立ち上がった。その行動はこの場に似つかわしくない、気品すら感じられる佇まいだ。

「皆の不安。皆の激情は最もだ。今回の一件はある種の不幸な事態が重なった為に起こった不運だ。我々は全力で復興を支える。駐屯所も作り、魔族の抑止に尽力する」

それは騎士団のこれからの話だった。
町に必要な事ではあるが、肝心の理由、そして要因が一切語られていない。抑止と簡単に云ってのけるが、抑止に必要な原因が分からなければ根本から防ぐ事はできない。

「何の解決にもならない!魔族侵攻がこの土地の所有権によるものなら、また戦いがこの地で起こる!万が一の際は逃げるしか命を拾う方法はない!」

町を捨てる。そういう意見まで出てくる。

「そう簡単に言うが…我々はこの地で生きる他、術を知らないんだぞ?逃げるのはいいとして受け入れてくれる所すらあるかどうか…」

守衛のリーダーが立ち上がる。

「そんなことを言っている内に、次の手勢がやって来るかもしれない。生きていればどうにかなるモノなんだ。決断を迫られているぞ」

町の代表たちを見渡し、気迫を持って発言する。
その中で、一際老いた革職人のお爺さんがぽつりと、しゃがれた声で言い放つ。

「お主は良いよなぁ…元々腕っぷしの強い冒険者だ。着の身着のまま、どこに行こうと現在の情勢では喉から手が出る程に求められる。それこそ、どこでも暮らせるだろう。なれば、儂らはどうだ?職人と呼ばれる儂は?農家は?牧場主はどうなる…?ここを離れた所で求められず、耕す土地もなく、家畜も育てられず…儂らは出られぬ…この地で怯えて生きるしかない」

その地にはその地で求められる職人が幅を利かせているだろう。幾ら農業の才があっても、土地がないと耕せない。あふれる程、家畜を持っていても全部を連れて行く事などできない。再起を図ろうとすれば全て一からの出発となる。

それに関して考えなかったわけではない。

リーダーも馬鹿ではない。考慮はしていた。
彼らの境遇や仕事柄出て行くなど難しい事も…。
だが、代案など出ない。

生き残る事だけを考えるなら、出て行く以外方法がないのだ。
全員で出て行って、町を再び別の場所で作るのが理想だが、この規模の町を一朝一夕に生み出す事など、出来るはずがない。

老人の言葉で次第にこの場の空気が現状維持に固まっていく。それこそ団長が言ったように、騎士団に復興を手伝ってもらい、駐屯所を作り、魔族に対する抑止を行う事が最善だと。

「…あいつらが来た理由はなんだ?なんなんだよ…」

農場を仕切っている恰幅のいい男は頭を抱えて、うなだれる。

「…その通りだ。さっきも言っている者がいたが結局どうして来たのかが分からない。それが分からなきゃ対策の使用がないだろ?」

もっともな意見だし、誰もが理解できる簡単な理由ではあるが、馬鹿正直に話せるほど問題は簡単ではない。

リーダーは団長を見る。
そして、「アルパザの底」の店主にも視線を移す。

遊ばせていたあの魔王が原因である事をバラせば代表者たちは理由を知る事ができる。がしかし、それを容認した事実。そして、捕らえられていて、動けなかった事など知られては暴動が起きそうな事が多々ある現状、正直に話す事など出来よう筈がない。説明責任を負えないリーダーは様子を伺った。

「残念ながら、戦った我々でさえそれは分からなかった…。行動が遅れたことに関しても、ここを離れたが故の失策。今後、判明すれば順次、情報を伝えていくつもりだ」

団長は考えうる最も無難な方向に舵を切った。
責任は”理由どころか来た事さえ知らなかった事”に置き換えて、原因となる部分を後回しにした。復興がうまく行けば、理由については幾らでも誤魔化せる。

次第に仕方なかったという空気が漂い始める。
それこそ最初に団長が口にした、「不幸が重なった。全ては不運だった」という台詞の補強になった。

破壊された家屋の修繕や町民のメンタルケアなど、今後の事に話が変わり、魔族関連は一旦引っ込む。解決などしてないが、同じ問答で時間を使う程、勿体ない事もない。リーダーは内心、ほっとしながら参加する。

話し合いは一応の決着を見せ、皆それぞれの仕事へと戻っていく。リーダーはふと思った事を団長に聞いた。

「駐屯所の事だが、あんたが決めて大丈夫なのか?上に連絡とった方が確実なんじゃ…」

「その通りだ。それが出来ればやっている。今、通信機がなくてな。口約束になって申し訳ないが、後で取り次ぎを行う事になる」

「は?通信機でマクマイン公爵に一度、連絡したんだろ?」

そこまで言って気付く。

「ラルフか…」

当然、捕まえられたのだから当たり前の事だが、檻に入れられた時、通信機やら魔剣やらを没収され抵抗が出来ないようにされていた。

その後、団長のお金を財布ごと盗っただけでは飽きたらず、通信機を換金する気なのだろう。

魔剣は戦闘で必要だっただけだし、魔剣という武器の性質柄、団長にしか使えない。つまり、どれほど強くレアものだろうと、今のご時世、これほどの武器を遊ばせておくのは武器売買の店主も容認しかねるだろう。イルレアン国を敵にする人間ヒューマンなどいるわけがない。

通信機に関しては昨今、裏業界でかなりの人気がある。

そこまで裏について知っているわけではないが、御上御用達となれば結構な金になる事は想像に難くない。

「どこまでも事態を悪くしやがる…」

「…奴らは死を持って責任を果たす必要がある。必ず我らの手で追い詰め、その罪を贖わせる。だがその前にするべき事をするだけだ」

団長は窓の外を眺める。
そこには町民が忙しそうに走り回っている。
その目を追って窓の外を見るリーダー。
これからの事を考えて、物思いに耽っている。

と、リーダーは思ったが、団長の目は町の外に向いていた。あの最悪の連中が出ていった外を…
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