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第一章 出会い

第十一話 第二魔王ミーシャ

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ドラキュラ城の2階。

パーティー会場にも使われていた大広場で、無残な白骨死体がある中、3つの種族が誰にも知られることなく戦っている。

人族と、魔族と、鬼族。

人と魔族が結託し、吸血鬼を追い詰めていた。ミーシャの存在を聞いた吸血鬼に放った一言は、ラルフと吸血鬼にとって聞き捨てならないものだった。

「「第二魔王?」」

自然とハモるラルフと吸血鬼。
しかしそこに喜悦や驚嘆、おどけや怒りなどの感情は存在しない。あるのは疑問その一つ。

「…そちが魔王?」

まじまじとその容姿を見る。

金髪のお尻にかかる長い髪。
エルフのように長い耳。
褐色の肌。
金色の瞳に縦長の瞳孔。

整った容姿にほんのり幼さを残す。
今まで気づかなかったが、何故か見たことがあるような…

「…どこかであっタかえ?」

ミーシャはフンッと鼻で笑い。

「私を忘れたのか?100年経てば恐怖も薄れるようだな」

どこかで聞いたような、台詞を皮肉混じりに言う。

吸血鬼はミーシャを見て、目を細める。
吸血鬼はミーシャを見て、目を開ける。
吸血鬼はミーシャを見て、目を見開く。

その動作は時間にして僅かだったが、その変化は劇的だった。

「そち…いや、あなタ様は…まさか…”みなごろし”ではございませんか?」

突然何を言い出すのかと思ったラルフだが、その呼び名には聞き覚えがあった。

(…いや、そんなことありえるか?)

魔族で事実上最強の呼び名、それに噂では第十魔王のはずだ。

だがそうであれば辻褄の合うことが一つ、”古代竜エンシェントドラゴン”を堕とした事。

力を使い果たした魔王なら、不意打ちで死にかけることもあるかもしれない。その上、100年以上最強であり続けたなら、鬱憤うっぷんのたまった魔族がチャンスと捉える事も在りうる。

「その名は嫌いだ。私のことは…そう、魔王と呼べ!」

ミーシャは吸血鬼に手をかざし格好つける。

「…ええっと…お前の名は何だ?」

ちょっと間が空いたかと思えばこれだ、締まらない。

わらわは、ベルフィア。べルフィア=フラム=ドラキュラ」

吸血鬼の性は必ず”ドラキュラ”とつくそうだ。
これはドラキュラが繁栄していた時代から知られていたことだが、本物から聞けると伝説通りだと感心してしまう。こうくれば伝説は、その辺の伝言ゲームより正確なんじゃないかとすら思える。

「そうかベルフィア。それでどうする?私はお前を殺しにわざわざ来たわけではない。降参するなら命は取らんぞ?」

こうしてふんぞり返っているミーシャを見て、ラルフは思った。

(一族のかたきを前に降参するのか?これまでの戦いでミーシャの方が強いことは明白だが、ここから思いもよらぬ攻撃が来ればどうなるかわからないんだぞ?傷も完治してないくせに…)

内心ビクビクしていた。
それもそのはずこの中でビリッケツに弱いのはラルフだ。万が一ミーシャがやられれば、抗えない絶望が待っている。

ベルフィアはその場で膝をつき三つ指を立て一拍の間を置いてつぶやく。

わらわは死にとうはない、降参いタします」

床に頭をこするくらい深々と頭を下げる。
見事な土下座だった。

この場の戦闘の空気が完全に消失した。
ミーシャの圧勝である。

――――――――――――――――――――――――

「これはかなりの値打ちもんだぁ…」

「アルパザの底」の店主は感心しきりだった。
にわかには信じられない数々の品と、ラルフが生きて帰った事実に。

「俺も信じられないよ、こんなの人生で訪れないかもな…」

ラルフは換金のために「アルパザ」の町まで戻っていた。全部は無理だったので持てる分だけの調度品を持って、ウキウキしながら帰ってきた。

ミーシャはベルフィアに新たな従者となるよう強引に契約させた。

ベルフィアは文句も言わず、いや言えず、契約に同意。城にあるすべての財産はミーシャの物となり、ラルフに分配され、従者となったベルフィアはラルフの手伝いにまで駆り出された。そのおかげもあって、運び出しが楽になった。

しかし良い面ばかりではない。
ラルフがしでかしたことは、まず最強の魔王復活。きっとミーシャに裏切りを働いた報いを受けさせる目的で、家臣殺しに連れまわされることになる。そうなれば魔族はおろか人類の敵になってしまい帰る場所を失う。

極めつけは吸血鬼だ。
一般人のラルフはいついかなる時も喉元に食いつかれるという、恐怖を感じていなければならなくなる。ミーシャがさせないだろうが、裏切ればどうなるかわからない。

つまり逃げられないのだ。
ここで雲隠れすれば、一旦は逃げられるし、金もそれなりに得るので、逃走資金にはもってこいだろう。だが尽きれば逃げ道はない。

裏切り行為に関しては被害妄想かもしれない。
ベルフィアの命を助けたあたり寛大な気もする。
放置しても傷は癒えるし、もう開放してほしいが、怖くて言い出せないのが現状だ。

「何考えてんだラルフ…」

ラルフは自分の世界に入っていたところを呼び戻される。店主は計算機を弾きつつ、今回の換金代を算出していた。

「やけに無口だなぁ、まだ何か隠してんのかい?」

「何言ってんだよおっさん。今回の金の使いどころを考えてたんだよ~」

我ながら下手な言い訳だと思う。しかしこれだけの品の換金は初めてだったのもあって店主も「そうか、まぁそうだよな」で納得する。

その言い方にしっくりこなかったラルフは話題反らしと思いながら、店主に慌てて話しかける。

「そういえばおっさん。今回の件もひと段落したしよ、なんかこの前言ってた、あんたの仕事を引き受けるぜ?」

「ん?いやもう要らんだろう…今回の品で全部まかなえる所か、それ以上の功績だぜ?」

店主はラルフに自分の人生とは違った形での成功を喜び、ある種、憧憬の念すら抱いている。

「何言ってんだよおっさん。俺の仕事はギャンブルと一緒だ。一時のあぶく銭じゃ遊んで終わりだよ?仕事は一定にこなすもんだ!おっさんの仕事は受ける。特にアルパザの底には世話になっているしな」

「ラルフ…お前…」

計算の手が止まるほど感動する店主。しかしラルフが捲し立てたこれは、嘘が混じる。

トレジャーハンターはギャンブルだし、一時のあぶく銭だし、アルパザの底では世話になっている。だが、仕事は自分の思った時にする。世話になっちゃいるが単なるビジネスパートナーだ。分が悪けりゃ切る。

現在あり得なかった事態が店主の気持ちを多少動かしてはいるが、興奮が冷めれば冷たい。

「だからおっさん。今回のは今回のだ。次の仕事をくれないか?」

本音と建て前は今後の生活の基盤にもなる。
裏の世界では、繋がりは何より大事だ。

「…わかったラルフ…今回のは別のに回そうと思っていたがお前に決めたよ。ちょっと待っていてくれ」

計算もそこそこに、裏に行く。
ラルフは話題がそれたことに安堵し、息を整えて店主を待つ。

パサッ

「こいつが書類だ。この仕事、もし成功すりゃ名誉も得られるかもな」

店主も半笑いで言う。
その裏には任務達成の可能性に言及している。

「そんなに難しいのか?」

ラルフは書類を取って目を通す。
見てみれば単なるアルパザ近辺の調査だった。

そんなの守衛の連中の仕事だろう?奴らの仕事とブッキングしたらいびられる可能性も高い。そう思った矢先、依頼主に目が留まる。

「イルレアン国だって?」

イルレアン国と言えばかなりの先進国だ。その上、遠い最前線にも自国の軍をわざわざ派遣するくらいの戦争国家。アルパザとは正反対で、関係がないと思われる国家が何故?

「こいつは機密情報なんだが、この仕事を受ける上で必要な情報だ。実は黒の円卓が”古代種エンシェンツ”にアプローチをかけているようだ」

「”古代竜エンシェントドラゴン”か!」

「! ほう…察しがいいなラルフ。その通り。魔族がすでにちょっかいをかけたらしい」

ミーシャだ。すでに裏では情報が出回っていた。
と言う事はつまり。

「そこである魔王と”古代竜エンシェントドラゴン”との戦闘があったようだが…魔族側にとっても重要な任務に、裏切りがあったとの情報があった。確かな筋・・・・からの情報らしく、魔王は虫の息らしい。その魔王につく魔族はおらず、殺せるかもしれないとイルレアンのお偉いさんが息巻いているんだと」

店主は一拍おいて伝える。

「つまりお前は魔王を見つけ出し、知らせる任務というわけだな。」

「……なるほどね…ぅん…理解したよ…」

ラルフは身震いから少々声が震えてしまうが、なんとか平静を保つ。

「…大丈夫か?」

ラルフは店主の目からいくらかの同情の念を感じた。

(おいおっさん…この仕事、まさか…)

嫌な予感がよぎり確認をする。

「おっさん…これ…やっぱりやめとくとかって無理?」

「あ?無理だよ。この話聞いちまったんだから逃げられるわけないだろ。機密情報を伝えたんだぞ?断ったら俺も危ねぇ。お前まさか日和ったなんてことは…」

「先に言えよ!そういうことはよ!日和るだろ!魔王だぞ?死ぬかもしれないだろ!」

いや死ねるならまだいいかもしれない。

「お前なぁ…信じた俺の気持ちを返せよ。やり遂げる意思を感じたからこそ、他に回さずお前にやったんだぞ?それをお前…」

店主の「良かれと思って」が透けて見える。
ハッキリいって余計なお世話だし、今回のは質が悪い。
一拍おいてラルフを見据える。

「はぁー……いやいいんだぞ?別にやめても…もしやめるなら、お前が機密情報を漏らさないと約束するその担保をいただくまでだ。そうだな…この品々ならそれに値する」

店主はさっきまでの憧憬を完全に失くし、軽蔑すらしている。その上で、まだ換金していなかった品々を並べて、脅しをかける。

(最初からそのつもりか…)

店主の傲慢さにはほとほと呆れていたが、強欲までつくようだ。

「…それはちょっと卑怯じゃないか?」

ラルフは腰に下げたダガーに手をかける。
そっちがその気ならというやつだ。脅しには脅し。

手を後ろに回していくその状態を見ながらも店主は落ち着いている。

「悪いなラルフこっちも生活と命がかかってんだ。担保なしに到底受け入れられるものじゃないんだよ」

ほんのわずかな睨み合いの中、ダガーを鞘からほんの少し出すが、変わらず落ち着いている店主を見てダガーを鞘に納める。

「…わかったよ!今回も俺の負けだな。換金してくれよ、仕事なら受けるから」

ラルフはお手上げをジェスチャーで示す。

「いや、ダメだな。換金はできない」

品をラルフにつき返し、鉄の意志を持って言う。

「今回の仕事を終えてからもう一度来い。そしたら換金に応じてやろう」
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