魔王復活!

大好き丸

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第142話 影響

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「……春田が……魔王?」

竹内の記憶の中に突然現れた知らない事実。
魔王ヴァルタゼアと春田の因果関係と異世界の情報。

それは単なる思い付きのように自然に、舞い降りてきた。今読んでいた漫画のせいかとも思ったが、学園ラブコメに異世界の魔王要素は一欠片もなかった。

(……何かの天啓なのかも知れない……)

竹内は布団からすくっと立ち上がると机に向かう。
ノートを取り出し書き記す。よく分からない思い付きのような記憶を忘れない為に……。

……

ガバッ

せっかくの休みで昼間寝ていた木島は突然の閃きに電撃が走ったかのように飛び起きた。

「なに?いまの……ゆめ?」

ぼんやりとした頭で口も上手いこと動かずへにゃへにゃ声を出す。

「お姉ちゃんお姉ちゃん!」

ガチャッとノックも遠慮も無しに飛び込んできたのは妹の加古。
ふんふんっと鼻息荒く興奮気味だが何かあったのだろうか?

「おはよ、加古」

「おはよ……ってそうじゃなくて、聞いて聞いて!お兄ちゃんは魔王だったんだよ!魔王ばるたぜあっていうの!」

お兄ちゃんとは春田の事だ。
キュートキュートショーを一緒に見に行ってから無茶苦茶懐いている。親族以外にこれ程気を許しているのは春田しかいないだろう。

「あー、あんたも見たの?その夢。何であいつでシンクロしてんのよ私ら……」

はんっと鼻で笑ってベッドから降りる。

「夢じゃないもん!寝てなかったもん!」

「あ~はいはい」

ふあぁ……と欠伸しながら一階に向かう。
加古も「もー!お姉ちゃん!」と怒り気味で一緒に階段を降りた。

「あら、やっと起きたの?もうお昼よ」

「おはよう未来ちゃん」

「おはよー」

昨日外出していた母も今日は暇らしい、家族4人揃ってお昼を食べることになるだろう。洗面所で歯磨きを済ませ、リビングに戻りダイニングテーブルの定位置に着くと目の前に置かれたオレンジジュースを手に取った。

「そういえば未来ちゃん」

スマホを見ていた父が顔を上げる。

「ん~?」

「加古ちゃんから聞いたけど魔王ヴァルタゼアっていうのは未来ちゃんの同級生なんだって?」

「ぶーっ!!」

口に含んだジュースが全部出ていく衝撃。
他の3人は未来の突然の行動にビックリして一歩引く。

「ちょ……未来ちゃん!?」

「どうしたの!?大丈夫!?」

「お姉ちゃん?!」

ケホッケホッとむせて苦悶の表情を見せつつすぐ側にあったティッシュで口許をぬぐい、机も拭き始める。
それを見た母はパタパタと移動し、雑巾を取ってきて床を拭き始めた。

「ごめんママ……ちょっとパパ、加古の話を鵜呑みにしないでよ……ケホッ……むせちゃったじゃん……」

「ご、ごめんよ……パパが悪かったよ」

「何言ってるの、みーちゃんが過剰に反応しすぎなのよ?」

床を拭き終わった母は、「まったく」と言って洗面所に向かった。

「加古も言いふらさないの。夢の事なんて……」

「夢じゃないもん!!」

加古は腕を振ってアピールする。「あー、はいはい」とさっきより機械的に流すが、それには父が返答する。

「魔王ヴァルタゼアっていうのは凄い方みたいだねぇ、何でも神様より強いとか何とか……」

「ちょっとパパ……!」

「夢じゃないわよ。私たちも知ってるもの」

父に噛みつこうとした未来に母が待ったをかけた。

「……知ってるってどういう……?」

キョトンとしていると、母が顎に人差し指を当てて首を傾げた。

「どうもこうも知ってるのよ。ふっと浮かんできたと言うか、降りてきたというか……とにかく加古ちゃんからの入れ知恵とかじゃないってこと」

「そうそう、何て言うかこう……パッと閃くみたいに」

母の言葉に呼応して父も頷く。

「それじゃもっと分かんないんだけど……」

どうしたものかと顔を見合わせていると、未来の携帯に着信が入る。
サッと確認すると篠崎と館川からのこみゅだった。

……

それはたまの休日に家族でショッピングモールを楽しんでいた時に起こった。

昼時にモール内の流行りのピザの店でオススメのマルゲリータとサラダを頼み、3人で仲良く食べていた。2切れ目に手を伸ばしたら突然電撃のようなある思い付きが頭を駆け巡る。

「魔王……ヴァルタゼア……」

チィンッ

その言葉が口から出た時、母の手からフォークが落ちた。
だが誰も咎めることはない。むしろそのお陰で意識が戻った事に感謝したいくらいだ。

何故なら降って湧いた知るはずのない記憶を流し込まれるというあり得ない事態に店内BGM以外の音が消え、時が止まったように静かになった。
フォークを落とした甲高い金属音にハッとし、会話をしていた者は途切れた話の続きを始め、店内を歩いていた者はまた足を動かす。

しかし、この家族だけはフォークを落として以降誰も口を開こうとしない。
父が俯いた時に母が口を左手でそっと隠した。
震える唇を隠す為だったが、動揺は唇以上に目から流れ落ちた一筋の涙に表れていた。

「あぁ……私は……私は何で信じてあげられなかったの……?」

「ねぇ、お父さん……あいつ……お兄ちゃんは……その……」

「いや、そんなはずない……だってあり得ないだろ?魔王だなんてそんな……」

3人は到底信じられない事に混乱している。

幼少期から狂ったように主張していたのに、中学生からは気味が悪いほどパタリとその主張を止めた。

頭がどうかしてしまったのだと思って遠ざけたかった。
独り暮らしをしたいと言い出した時は厄介払いが出来ると内心喜んだものだが、まさか間違っていたのが自分達だというのか?
こんなものはただの突然の思い付きで、地元を離れさせた自分の判断は間違いではなかったのだと思いたい。

「……聖也……」
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