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第三十九話 下校時間
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虎田は帰りのHRで春田の事を考えていた。
お昼の時の会話と友達の手前、喋りに行く機会を失っていたのが心残りだった為だ。
黒峰が淡々と時間を潰している間、どのタイミングで話しかけるかを思う。(下校直前?高校から離れてから?でもどこまで一緒なのか分からない……)
どこに住んでいるのか分からないので、途中でどちらかが家についてしまう可能性もある。
どうしようか考えているとき、「虎田」と黒峰から声をかけられた。「はい」と返答すると、他の人たちにも声をかけていく。
「お前ら、言うまでもないが委員会があるから忘れず行くようにしろよ」
(あっ)と思い、不意に春田を見る。何事もなくポケーッとしていた春田は気づきもしない。今日は謝罪も兼ねて、一緒に帰ろうと思っていたが当てが外れた。
(言えば待ってくれるかな……)と一瞬過ぎるが、頭を振る。
(別に今日でなくとも明日がある)と自分を誤魔化した。特に急いでいるわけでもないので虎田は我慢する事にしたのだ。
そんな事などつゆ知らない春田は晩御飯の事を考えていた。(今日は何にしようか……)未だ決まってないヤシャとの決着を考えつつ、(まぁ、強く頼み込めば帰ってくれるだろう)との甘い目算で自分を騙していた。
もう一つの案として、マレフィアを召喚し、力尽くも辞さない事を視野にヤシャへの対策を考える。あと二分。黒峰も腕時計を気にし始めた頃、チャイムが高らかに鳴った。
「それじゃHRは終わりだ。気を付けて帰れよ」
………
「やぁ春田……一緒に帰ろう」
カバンを持って立ち上がろうとする春田の前に竹内が現れた。
「ああ、竹内。お前さっきまでどこにいたんだ?」
「サボりだよ」
「それが?」とまるで当然といった顔で見ている。色々言いたい事もあったが、説教は止めておくことにした。
「……んじゃ帰るか……お前、あの付近なのか?」
あの付近とは竹内が犯罪をしようとしていたスーパー付近と言う事だ。「ん」と頷いて先々歩いていく。(マイペースな奴……)と思っていると、教室出入り口で竹内は誰かに首根っこを掴まれた。
「おい!竹内!」
怒号が飛ぶ。その声は黒峰の声だ。春田はそれこそ当然といった顔で教室出入り口まで行く。廊下に出てみると、黒峰にヘッドロックを決められている竹内の姿があった。
「お前今日という今日は絶対許さんぞ!生活指導だ!こい!!」
竹内も多少抵抗してみるが、待ち伏せに引っかかり、ここまで固められては逃げる事は不可能。思ったよりすぐに諦め、
「春田、先に帰ってくれ……アタシは多分殺される……」
「誰が殺すか!」と連行されていった。
「まぁ……そうなるわな……」
春田はぼんやりとその光景を眺め、先に帰ることを決めた。
一人廊下を歩いていると、いつも以上に視線を感じた。四方八方からくる視線の嵐はどんな感情が込められているのかチラリと窺うと、目があった連中は軒並み視線を逸らした。
何故こんな目で見られているのか不思議でならなかった。原因は何かと考察すると(先の竹内との絡みを見ていたのかもしれない)とふと思った。彼女は実はこの学校の番長とかで、そんなのと馴れ合っている自分が皆からすれば怖いのではないだろうか?または今更ながら滝澤との事か?
いずれにしろ昨日今日で関わってしまった人たちは注目を集める連中だったのでは?あまりに人との関わりをオープンにしすぎたのだ。(自重すべきかもしれない)
春田は周りの奇異の目を自分のせいと反省し、今後の活動に生かす事を誓う。
「春田聖也!!」
その声は廊下に響き、声を出した当人に注目が集まる。嫌な予感がするが、答えないわけにはいかない。
「……はい?」
振り向くとそこには足を肩幅に開き、仁王立ちする菊池の姿があった。視線が合うと、肩を強張らせ、力の入った手の振り方でズンズン歩いてきた。他の生徒たちは部活に行くことも、帰ることも忘れて二人を注視する。
わずか人一人分という距離で、ジロリと睨まれた春田は蛇に睨まれたカエルだ。どうしたらいいか分からず、困惑しながら見ていると菊池が口を開いた。
「……話がある。道場まで来てもらおうか」
呼び出しだ。春田を奇異の目で見ていた皆の目が心配の目に代わる。(あ、多分こいつ滅茶苦茶強いんだ…)春田は悟る。ついていけば男の尊厳を打ち砕かれるぞ、と。
「いやぁ……今日は用事があって……」
「道場に!来るんだ!」
(あ、ダメだ譲らねえ)背筋が凍る。ふと周りを見渡し、滝澤に助けを求めるが、その姿は影も形もなく、体育館に行く道中に合った彼女と真逆の状態だった。
「あの……滝澤さんは?」
「ど……!……滝澤さんは今関係ない……」声のトーンが落ちる。
「ほぅ……犬が主人に黙って行動とは躾がなってないなぁ!」とかほざきたいが、いきなり鉄拳が飛んできても怖い。どちらかと言えば、滝澤がいない方が圧倒的に不味い。獰猛で、おまけに噛む犬が放し飼いなど、もっての外だ。半殺しの憂き目にあっても、ポケットマネーでもみ消せるのも込みで質が悪い。
「……ここで話せない事か?」
しかしながら、ここで退いては菊池が可哀そうだ。
廊下に響くほどでかい声で春田を呼び、大衆の前で道場を指定し、自信満々に呼びつけた。彼女の面子にかけて呼び出しに応じてやるのが男だ。
菊池は頷いて肯定する。春田はため息をついて
「……用事があるんだ、手早く終わらせよう……」
菊池は顔を上げて、春田の目をじっと見る。
「……ついてこい」
そう言うと、道場まで案内された。
お昼の時の会話と友達の手前、喋りに行く機会を失っていたのが心残りだった為だ。
黒峰が淡々と時間を潰している間、どのタイミングで話しかけるかを思う。(下校直前?高校から離れてから?でもどこまで一緒なのか分からない……)
どこに住んでいるのか分からないので、途中でどちらかが家についてしまう可能性もある。
どうしようか考えているとき、「虎田」と黒峰から声をかけられた。「はい」と返答すると、他の人たちにも声をかけていく。
「お前ら、言うまでもないが委員会があるから忘れず行くようにしろよ」
(あっ)と思い、不意に春田を見る。何事もなくポケーッとしていた春田は気づきもしない。今日は謝罪も兼ねて、一緒に帰ろうと思っていたが当てが外れた。
(言えば待ってくれるかな……)と一瞬過ぎるが、頭を振る。
(別に今日でなくとも明日がある)と自分を誤魔化した。特に急いでいるわけでもないので虎田は我慢する事にしたのだ。
そんな事などつゆ知らない春田は晩御飯の事を考えていた。(今日は何にしようか……)未だ決まってないヤシャとの決着を考えつつ、(まぁ、強く頼み込めば帰ってくれるだろう)との甘い目算で自分を騙していた。
もう一つの案として、マレフィアを召喚し、力尽くも辞さない事を視野にヤシャへの対策を考える。あと二分。黒峰も腕時計を気にし始めた頃、チャイムが高らかに鳴った。
「それじゃHRは終わりだ。気を付けて帰れよ」
………
「やぁ春田……一緒に帰ろう」
カバンを持って立ち上がろうとする春田の前に竹内が現れた。
「ああ、竹内。お前さっきまでどこにいたんだ?」
「サボりだよ」
「それが?」とまるで当然といった顔で見ている。色々言いたい事もあったが、説教は止めておくことにした。
「……んじゃ帰るか……お前、あの付近なのか?」
あの付近とは竹内が犯罪をしようとしていたスーパー付近と言う事だ。「ん」と頷いて先々歩いていく。(マイペースな奴……)と思っていると、教室出入り口で竹内は誰かに首根っこを掴まれた。
「おい!竹内!」
怒号が飛ぶ。その声は黒峰の声だ。春田はそれこそ当然といった顔で教室出入り口まで行く。廊下に出てみると、黒峰にヘッドロックを決められている竹内の姿があった。
「お前今日という今日は絶対許さんぞ!生活指導だ!こい!!」
竹内も多少抵抗してみるが、待ち伏せに引っかかり、ここまで固められては逃げる事は不可能。思ったよりすぐに諦め、
「春田、先に帰ってくれ……アタシは多分殺される……」
「誰が殺すか!」と連行されていった。
「まぁ……そうなるわな……」
春田はぼんやりとその光景を眺め、先に帰ることを決めた。
一人廊下を歩いていると、いつも以上に視線を感じた。四方八方からくる視線の嵐はどんな感情が込められているのかチラリと窺うと、目があった連中は軒並み視線を逸らした。
何故こんな目で見られているのか不思議でならなかった。原因は何かと考察すると(先の竹内との絡みを見ていたのかもしれない)とふと思った。彼女は実はこの学校の番長とかで、そんなのと馴れ合っている自分が皆からすれば怖いのではないだろうか?または今更ながら滝澤との事か?
いずれにしろ昨日今日で関わってしまった人たちは注目を集める連中だったのでは?あまりに人との関わりをオープンにしすぎたのだ。(自重すべきかもしれない)
春田は周りの奇異の目を自分のせいと反省し、今後の活動に生かす事を誓う。
「春田聖也!!」
その声は廊下に響き、声を出した当人に注目が集まる。嫌な予感がするが、答えないわけにはいかない。
「……はい?」
振り向くとそこには足を肩幅に開き、仁王立ちする菊池の姿があった。視線が合うと、肩を強張らせ、力の入った手の振り方でズンズン歩いてきた。他の生徒たちは部活に行くことも、帰ることも忘れて二人を注視する。
わずか人一人分という距離で、ジロリと睨まれた春田は蛇に睨まれたカエルだ。どうしたらいいか分からず、困惑しながら見ていると菊池が口を開いた。
「……話がある。道場まで来てもらおうか」
呼び出しだ。春田を奇異の目で見ていた皆の目が心配の目に代わる。(あ、多分こいつ滅茶苦茶強いんだ…)春田は悟る。ついていけば男の尊厳を打ち砕かれるぞ、と。
「いやぁ……今日は用事があって……」
「道場に!来るんだ!」
(あ、ダメだ譲らねえ)背筋が凍る。ふと周りを見渡し、滝澤に助けを求めるが、その姿は影も形もなく、体育館に行く道中に合った彼女と真逆の状態だった。
「あの……滝澤さんは?」
「ど……!……滝澤さんは今関係ない……」声のトーンが落ちる。
「ほぅ……犬が主人に黙って行動とは躾がなってないなぁ!」とかほざきたいが、いきなり鉄拳が飛んできても怖い。どちらかと言えば、滝澤がいない方が圧倒的に不味い。獰猛で、おまけに噛む犬が放し飼いなど、もっての外だ。半殺しの憂き目にあっても、ポケットマネーでもみ消せるのも込みで質が悪い。
「……ここで話せない事か?」
しかしながら、ここで退いては菊池が可哀そうだ。
廊下に響くほどでかい声で春田を呼び、大衆の前で道場を指定し、自信満々に呼びつけた。彼女の面子にかけて呼び出しに応じてやるのが男だ。
菊池は頷いて肯定する。春田はため息をついて
「……用事があるんだ、手早く終わらせよう……」
菊池は顔を上げて、春田の目をじっと見る。
「……ついてこい」
そう言うと、道場まで案内された。
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