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第三十三話 望まぬ脱却
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体育館に入ると、他の生徒から注目された。
物珍しそうにこちらを見ている。
春田は(そんなに気になるか?)と思いつつも、滝澤の存在を考える。普段、菊地と行動を共にする滝澤が男性のしかも、パッとしない一般平民と歩いていたら、そんなまさか……と勘違いしても無理はないだろう。
だが、春田と滝澤は友達である。
なんの事はない、堂々としていればいい。
「た、たたた……滝澤さん?」
そこに困惑しながら現れたのは菊池である。体育委員ということもあって先に来ていた菊池は、昨日、主人に絡んでいた不埒ものが側にいる状況が理解できず、目を疑った。幻覚でもなく、佇む春田に菊池はすごい形相でに詰め寄る。
「よっ、菊池さん。昨日ぶりだな」
「この……貴様、馴れ馴れしいぞ!何故、滝澤さんと一緒にいる!」
音が聞こえそうな程、力強く指をさす。腰を入れてズビシッと突きの要領で拳を出す様子から、空手を習ってそうだ。
「いや、何故って……偶然?」
瞼を引くつかせながら春田を訝し気に見ている。困ったように滝澤に視線を向けると、変わらずニコニコしている。
「春田さんの言う通り。何か問題でも?」
滝澤にそう言われたら、引きざる負えない。
「い、いえ……問題ありません」
「では体育頑張りましょう。春田さん」とお辞儀をして
自分のクラスが集まる奥の方に行ってしまった。これだけの視線を受けて平然としているのを確認して(流石に図太いな……)と思いつつ、入り口の近くにいるクラスメイトの所に行く。
しかし、いつもの様に混ざる事が出来ない。春田は誰かと話す事は基本無い。注目を浴びないように生きてきて、誰かの物語のわき役にすら入る事はなかった。
せいぜいが背景の一部。なので、混ざるというのも紛れ込むという表現の方があっているわけだが、どういうわけか人だかりが自分を中心に距離を置き、結界が張られているように近付いてくることがない。というより離れていく。
虎田だけはどうしようかといった困り顔で他に比べればキツくはないが、刺さる視線は他と総合して痛い。
じろじろ見られている事が気持ち悪くなり、壁際に移動する。
「やぁ、春田……。あんたも中々隅に置けないね……」
同じく壁際にいた竹内に声をかけられた。
「竹内。サボりのはずでは?」
「全授業サボるとは言ってないだろ……?」
「そもそもサボんな」と言いたかったが、そんなの竹内の自由であり、成績が悪かろうが、留年しようが、中退しようが、何にせよ進級しようが個人の勝手であり、口を出す事ではない。「あっそ」と言って壁にもたれる。
「冷た……クラスメイトじゃないか……」
「よく言うぜ。先生の言う事もまともに聞かないくせに、俺が言ったって関係ないだろ?」
「まぁね……」と言って黙る。人一人の間が空いているが、何故だか凄く近く感じる。それは多分、同じ奇異の目で見られているためだ。
竹内は不良のレッテル。春田は滝澤の……何か。種類は違えど見る目は同じ。
本来なら騒がしいくらいの体育館が静まり返っている。というより、ひそひそ声が周りを取り囲んでいる。
だが、涼しい顔で何事もないようにしている春田と竹内の様子にこの空気が耐えられなくなった奴らが、倉庫からボールを出して遊びだした。それを契機に館内は騒がしくなり始める。やっと許されたと感じた春田はため息で現在の心境を表す。
「ねぇ……」
竹内の声が近くで聴こえる。「ん?」と横を見ると、ひとり分の空きを詰め、春田の制空権を冒していた。突然の詰め寄りに戸惑いを隠せない。
「な、なんだ?」
「あんた……なんか変わった?」
(昨日の今日で?)と思ったが、それは春田の観点で在り、竹内の観点ではない。目立たなかった奴が突如目立ち始めたら、それこそ戸惑うだろう。そうでなければあんな目で見られたりしない。
「……それは俺の事を知らなかっただけだろ」
正論だ。突然に人が変わる事などあり得ない。会話してみたら印象が変わるという奴だ。
春田の場合は、ある出会いからガラッと変わっているのだが、それは別の話。
「……それは……まぁ……確かに……」
竹内は春田を気にしていなかったという事実を考慮し、引き下がる。(会話ってこんなんじゃないよな……)と思いながら、他愛ない会話を考えるが面倒になり考え事態を破棄する。
春田たちを誰も気にしなくなった頃、チャイムが鳴り響いた。騒がしい連中がざわざわ入ってくるのが見える。それを何気なく見ていたら、一つの視線に気づいた。虎田だ。
いつもの背景に帰ってきたと思えば、虎田はこちらを未だ注視している。まだ何が気になるのか。別にどうでも良かったがちょっとキョロキョロしてしまう。
そんな事をしていると、教師がサッと入ってきた。腹の出たおっさんだ。体育教師とか言うならもっと鍛えろと言いたいところだが、本人にその気はない。年を取るままに任せていると思われる。
「よーし、それぞれのクラスに分かれて整列しろ。ここに二列で並べ―」
指摘された場所にわらわら集まっていく。春田が動こうとするが、竹内がボーっとしている。
「行こうぜ竹内」
「……しんどー……」
「せっかく授業出たんなら受けなきゃ損だぜ?」
春田を流し目で見る竹内。
「……どうでもいいでしょ……アタシなんてほっとけば?」
(なんだこいつ……)とふと思ったが、さっきの自分のセリフを思い出し、少しおかしくなった。
「……もしかして、拗ねた?」
その言葉を聞いた途端、竹内は壁から離れ、春田の背中をドンッと殴って列に並びに行く。「俺が言ったって……」というセリフに引っかかるものがあったのだろう。可愛いものだ。
ともあれ、これで竹内も授業に参加する。
痛い背中を擦りながら列に並びに行った。
物珍しそうにこちらを見ている。
春田は(そんなに気になるか?)と思いつつも、滝澤の存在を考える。普段、菊地と行動を共にする滝澤が男性のしかも、パッとしない一般平民と歩いていたら、そんなまさか……と勘違いしても無理はないだろう。
だが、春田と滝澤は友達である。
なんの事はない、堂々としていればいい。
「た、たたた……滝澤さん?」
そこに困惑しながら現れたのは菊池である。体育委員ということもあって先に来ていた菊池は、昨日、主人に絡んでいた不埒ものが側にいる状況が理解できず、目を疑った。幻覚でもなく、佇む春田に菊池はすごい形相でに詰め寄る。
「よっ、菊池さん。昨日ぶりだな」
「この……貴様、馴れ馴れしいぞ!何故、滝澤さんと一緒にいる!」
音が聞こえそうな程、力強く指をさす。腰を入れてズビシッと突きの要領で拳を出す様子から、空手を習ってそうだ。
「いや、何故って……偶然?」
瞼を引くつかせながら春田を訝し気に見ている。困ったように滝澤に視線を向けると、変わらずニコニコしている。
「春田さんの言う通り。何か問題でも?」
滝澤にそう言われたら、引きざる負えない。
「い、いえ……問題ありません」
「では体育頑張りましょう。春田さん」とお辞儀をして
自分のクラスが集まる奥の方に行ってしまった。これだけの視線を受けて平然としているのを確認して(流石に図太いな……)と思いつつ、入り口の近くにいるクラスメイトの所に行く。
しかし、いつもの様に混ざる事が出来ない。春田は誰かと話す事は基本無い。注目を浴びないように生きてきて、誰かの物語のわき役にすら入る事はなかった。
せいぜいが背景の一部。なので、混ざるというのも紛れ込むという表現の方があっているわけだが、どういうわけか人だかりが自分を中心に距離を置き、結界が張られているように近付いてくることがない。というより離れていく。
虎田だけはどうしようかといった困り顔で他に比べればキツくはないが、刺さる視線は他と総合して痛い。
じろじろ見られている事が気持ち悪くなり、壁際に移動する。
「やぁ、春田……。あんたも中々隅に置けないね……」
同じく壁際にいた竹内に声をかけられた。
「竹内。サボりのはずでは?」
「全授業サボるとは言ってないだろ……?」
「そもそもサボんな」と言いたかったが、そんなの竹内の自由であり、成績が悪かろうが、留年しようが、中退しようが、何にせよ進級しようが個人の勝手であり、口を出す事ではない。「あっそ」と言って壁にもたれる。
「冷た……クラスメイトじゃないか……」
「よく言うぜ。先生の言う事もまともに聞かないくせに、俺が言ったって関係ないだろ?」
「まぁね……」と言って黙る。人一人の間が空いているが、何故だか凄く近く感じる。それは多分、同じ奇異の目で見られているためだ。
竹内は不良のレッテル。春田は滝澤の……何か。種類は違えど見る目は同じ。
本来なら騒がしいくらいの体育館が静まり返っている。というより、ひそひそ声が周りを取り囲んでいる。
だが、涼しい顔で何事もないようにしている春田と竹内の様子にこの空気が耐えられなくなった奴らが、倉庫からボールを出して遊びだした。それを契機に館内は騒がしくなり始める。やっと許されたと感じた春田はため息で現在の心境を表す。
「ねぇ……」
竹内の声が近くで聴こえる。「ん?」と横を見ると、ひとり分の空きを詰め、春田の制空権を冒していた。突然の詰め寄りに戸惑いを隠せない。
「な、なんだ?」
「あんた……なんか変わった?」
(昨日の今日で?)と思ったが、それは春田の観点で在り、竹内の観点ではない。目立たなかった奴が突如目立ち始めたら、それこそ戸惑うだろう。そうでなければあんな目で見られたりしない。
「……それは俺の事を知らなかっただけだろ」
正論だ。突然に人が変わる事などあり得ない。会話してみたら印象が変わるという奴だ。
春田の場合は、ある出会いからガラッと変わっているのだが、それは別の話。
「……それは……まぁ……確かに……」
竹内は春田を気にしていなかったという事実を考慮し、引き下がる。(会話ってこんなんじゃないよな……)と思いながら、他愛ない会話を考えるが面倒になり考え事態を破棄する。
春田たちを誰も気にしなくなった頃、チャイムが鳴り響いた。騒がしい連中がざわざわ入ってくるのが見える。それを何気なく見ていたら、一つの視線に気づいた。虎田だ。
いつもの背景に帰ってきたと思えば、虎田はこちらを未だ注視している。まだ何が気になるのか。別にどうでも良かったがちょっとキョロキョロしてしまう。
そんな事をしていると、教師がサッと入ってきた。腹の出たおっさんだ。体育教師とか言うならもっと鍛えろと言いたいところだが、本人にその気はない。年を取るままに任せていると思われる。
「よーし、それぞれのクラスに分かれて整列しろ。ここに二列で並べ―」
指摘された場所にわらわら集まっていく。春田が動こうとするが、竹内がボーっとしている。
「行こうぜ竹内」
「……しんどー……」
「せっかく授業出たんなら受けなきゃ損だぜ?」
春田を流し目で見る竹内。
「……どうでもいいでしょ……アタシなんてほっとけば?」
(なんだこいつ……)とふと思ったが、さっきの自分のセリフを思い出し、少しおかしくなった。
「……もしかして、拗ねた?」
その言葉を聞いた途端、竹内は壁から離れ、春田の背中をドンッと殴って列に並びに行く。「俺が言ったって……」というセリフに引っかかるものがあったのだろう。可愛いものだ。
ともあれ、これで竹内も授業に参加する。
痛い背中を擦りながら列に並びに行った。
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