28 / 151
第二十七話 カレー
しおりを挟む
「美味い!」
その料理に舌鼓を打つのはヤシャだ。帰ってからすぐに支度したものの、少し時間がかかってしまった。辺りはすっかり暗くなり、お腹が空いていた。
空腹は最高の調味料というが、本当だと思える。
「カレーってのは作り方さえ間違えなけりゃ、誰でもうまく作れんのさ」
久々の手料理、食べさせる相手のいなかった春田にとって、新鮮な気持ちが心から湧き上がり、とてもむず痒い。
「カレーはこうしてご飯にかけちゃうんですね。元の世界だと分けて出されそうな料理なのに不思議ですね」
ポイ子も人らしくスプーンを使い、一口ずつ食べている。
「俺も最初は驚いたぜ?母親には最初、文句を言ったくらいだ」
会話をしながらなんていつ振りか、春田は肉親と離れていたところで特に何も感じていなかったが、長い休みには田舎に帰るのも悪くないと考える。この二人が来ていなければ、こんなことも思わなかっただろうと感慨に浸っていた。
ヤシャは一皿目をぺろりと平らげ、寂しそうな顔をした。
「ん?なんだヤシャ?おかわりならまだあるんだ。たらふく喰えよ」
「…いいのか?」
ヤシャは遠慮がちに聞く。
「せっかく来てくれたんだ。ご馳走って程じゃないが、今日は二人の為に作ったカレーなんだぜ?気にせずどんどん喰えよ」
ヤシャはパァッという擬音が付きそうな程の笑顔で、台所にいそいそと向かう。ふと、天井に着きそうなほどでかいヤシャを見て、腹が満たされるのか心配になった。「いざとなればお菓子がある」と自分に言い聞かせ、ヤシャの体躯を見ないようにする。
ポイ子はニコニコ笑っている。
「……なんだ?なんかいい事でもあったか?」
「幸せを感じています」
春田はポイ子と台所から帰って来たヤシャを交互に見て、確かにその通りだと「ふっ」と笑う。
長い間、孤独を感じていた。永い間、つらく泣きたい時もあった。この17年はこの二人に合う為の我慢の期間だったのだ。
空腹は最高の調味料。そういう事だろう。
「どうした?ふたりとも」
「なんでもないよ」
スプーンでカレーを口の中に一気にかきこんだ。春田もおかわりに台所に向かった。
ポイ子と春田はそれぞれ二杯ずつ。ヤシャはそれでは足りず、ご飯を炊き直して、5合半一人でぺろりと平らげた。一日置いたカレーは美味いのだが、鍋はすっからかんになっていた。
春田の勘は当たっていたのだと、もしボストに行っていたらと思うと恐怖を感じる。
「ご馳走様」
「お粗末様ってか?」
皿を水につけ、シンクに放置する。汚れを取りやすくするため、洗うのは風呂から上がってからだ。
「ちょっと風呂入るわ」
「あ!私も私も!!」
ポイ子は意気揚々とスキップで来る。
「お前には必要ないだろ……そもそも、新陳代謝という概念があるのか?」
「なっ!?あ……ありますよ!ほらぁ!」
ポイ子は頭から汗の様な雫を垂らす。
「それ、自分で出したろ?そういえば体液を操作できるんだったな……」
ポイ子はうなだれて、定位置に戻る。
「お?なら、私と風呂に入るか?」
ヤシャはニヤニヤしながら春田を見る。春田は顔を赤くして、「冗談はよせ」と恥ずかしがる。自分との反応の違いで、ポイ子は多少、嫉妬をする。
「そんなでかい体じゃ、風呂場に入れないですよ~」
ポイ子は口をとがらせて、ヤシャをいじる。
「なに!?入れるだろ?ヴァルタゼア!私は入れるのか!?」
ヤシャは一応、汗をかき、ポイ子の体液まみれにされたことを考え、風呂場で、洗い流すくらいはしたかった。春田と一緒に入る入らない以前に、風呂場にすら入れないのは嫌だった。
「まぁ、そんなに広くないからキツイかもしれんが、入れるだろ……」
そこまで言って気付く。(こいつまさか今日泊まるつもりか?)
「……なぁ、ヤシャ……お前はあっちに帰るよな?」
「何を言う。私は帰るつもりはないぞ。せっかく会えたのだからな」
カカッと笑って、膝を打つ。ポイ子も頷いて「ですよね~」と他人事である。
「……マジかよ……」
ヤシャやポイ子には聞こえない様にぼそりとつぶやく。借りている部屋は広く、部屋数もあるので、泊まるだけなら問題はない。しかし、今後こいつらを仕送りで養うのか?とか、ストレスや自由の喪失など、今後の事を考えれば、キツイこと請け合いだ。
そういえばヤシャは半裸である。シャワーを浴びた後の着替えはどうするのか?どうすればいいか分からないまま、とりあえず風呂場にこもった。
その料理に舌鼓を打つのはヤシャだ。帰ってからすぐに支度したものの、少し時間がかかってしまった。辺りはすっかり暗くなり、お腹が空いていた。
空腹は最高の調味料というが、本当だと思える。
「カレーってのは作り方さえ間違えなけりゃ、誰でもうまく作れんのさ」
久々の手料理、食べさせる相手のいなかった春田にとって、新鮮な気持ちが心から湧き上がり、とてもむず痒い。
「カレーはこうしてご飯にかけちゃうんですね。元の世界だと分けて出されそうな料理なのに不思議ですね」
ポイ子も人らしくスプーンを使い、一口ずつ食べている。
「俺も最初は驚いたぜ?母親には最初、文句を言ったくらいだ」
会話をしながらなんていつ振りか、春田は肉親と離れていたところで特に何も感じていなかったが、長い休みには田舎に帰るのも悪くないと考える。この二人が来ていなければ、こんなことも思わなかっただろうと感慨に浸っていた。
ヤシャは一皿目をぺろりと平らげ、寂しそうな顔をした。
「ん?なんだヤシャ?おかわりならまだあるんだ。たらふく喰えよ」
「…いいのか?」
ヤシャは遠慮がちに聞く。
「せっかく来てくれたんだ。ご馳走って程じゃないが、今日は二人の為に作ったカレーなんだぜ?気にせずどんどん喰えよ」
ヤシャはパァッという擬音が付きそうな程の笑顔で、台所にいそいそと向かう。ふと、天井に着きそうなほどでかいヤシャを見て、腹が満たされるのか心配になった。「いざとなればお菓子がある」と自分に言い聞かせ、ヤシャの体躯を見ないようにする。
ポイ子はニコニコ笑っている。
「……なんだ?なんかいい事でもあったか?」
「幸せを感じています」
春田はポイ子と台所から帰って来たヤシャを交互に見て、確かにその通りだと「ふっ」と笑う。
長い間、孤独を感じていた。永い間、つらく泣きたい時もあった。この17年はこの二人に合う為の我慢の期間だったのだ。
空腹は最高の調味料。そういう事だろう。
「どうした?ふたりとも」
「なんでもないよ」
スプーンでカレーを口の中に一気にかきこんだ。春田もおかわりに台所に向かった。
ポイ子と春田はそれぞれ二杯ずつ。ヤシャはそれでは足りず、ご飯を炊き直して、5合半一人でぺろりと平らげた。一日置いたカレーは美味いのだが、鍋はすっからかんになっていた。
春田の勘は当たっていたのだと、もしボストに行っていたらと思うと恐怖を感じる。
「ご馳走様」
「お粗末様ってか?」
皿を水につけ、シンクに放置する。汚れを取りやすくするため、洗うのは風呂から上がってからだ。
「ちょっと風呂入るわ」
「あ!私も私も!!」
ポイ子は意気揚々とスキップで来る。
「お前には必要ないだろ……そもそも、新陳代謝という概念があるのか?」
「なっ!?あ……ありますよ!ほらぁ!」
ポイ子は頭から汗の様な雫を垂らす。
「それ、自分で出したろ?そういえば体液を操作できるんだったな……」
ポイ子はうなだれて、定位置に戻る。
「お?なら、私と風呂に入るか?」
ヤシャはニヤニヤしながら春田を見る。春田は顔を赤くして、「冗談はよせ」と恥ずかしがる。自分との反応の違いで、ポイ子は多少、嫉妬をする。
「そんなでかい体じゃ、風呂場に入れないですよ~」
ポイ子は口をとがらせて、ヤシャをいじる。
「なに!?入れるだろ?ヴァルタゼア!私は入れるのか!?」
ヤシャは一応、汗をかき、ポイ子の体液まみれにされたことを考え、風呂場で、洗い流すくらいはしたかった。春田と一緒に入る入らない以前に、風呂場にすら入れないのは嫌だった。
「まぁ、そんなに広くないからキツイかもしれんが、入れるだろ……」
そこまで言って気付く。(こいつまさか今日泊まるつもりか?)
「……なぁ、ヤシャ……お前はあっちに帰るよな?」
「何を言う。私は帰るつもりはないぞ。せっかく会えたのだからな」
カカッと笑って、膝を打つ。ポイ子も頷いて「ですよね~」と他人事である。
「……マジかよ……」
ヤシャやポイ子には聞こえない様にぼそりとつぶやく。借りている部屋は広く、部屋数もあるので、泊まるだけなら問題はない。しかし、今後こいつらを仕送りで養うのか?とか、ストレスや自由の喪失など、今後の事を考えれば、キツイこと請け合いだ。
そういえばヤシャは半裸である。シャワーを浴びた後の着替えはどうするのか?どうすればいいか分からないまま、とりあえず風呂場にこもった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる