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第二十三話 勘違い
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今日最後はLHR(ロングホームルーム)。
しかし先の件もあり、一限繰り上げで全生徒は今日に限っては早めの下校を促された。
既に町でヤシャが暴れた一件はニュースになっていて、今日は部活もせず、まっすぐ帰るよう校内放送がかかる。
春田には理想的な事だった。
「お前ら、寄り道するんじゃないぞ!」
黒峰は腕を組んで威圧しながら下校する生徒を見る。春田は、はやる気持ちを抑えて、いつも通り教室から出て行く。
とりあえず学校から出られたら走って帰る。それ位で考えながらも、足は急いて動く。早足で校門に着くと、ポイ子が待っていた。
「……お待ちしておりました」
ぺこりと頭を下げて春田を迎えた。「なっ!!」家に帰ったはず。何でまた学生服に身を包んでここにいるのか?ヤシャをマンションに送った後、また来たにしては早すぎるんじゃないだろうか?
「?どうかいたしましたか?」
「どうもこうもないだろう……まぁ、話は後だ。とっとと帰ろうか」
と言って、ポイ子の肩に手を置く。その手を横からガシッと掴まれた。「!?」突然の事に驚いて掴んだ奴を見る。そこに立っていたのは、こちらも女子高生。
茶っ気の髪を肩口で切りそろえ、清潔感を醸し出す。細く、キリッとした目と太い眉が個性的な顔。身長は少し低めだが、体幹がしっかりとした武道を習っている感じがある。教師の黒峰ほどではないが、喧嘩が強そうだと一目で分かる。
シャツのボタンをきっちり上まで留めて、真面目な印象を見せるが、スカートは短めに折り込み、黒のスパッツが太股を被うのが見える。
いつでも戦えるよう準備万端といったところだろう。
「馴れ馴れしい奴め……何者だ貴様!!」
不思議な話だ。ポイ子は既にこの学園で友達を作ったのか?自分には友達の「と」の字もないのに…。
「……春田っていうんだ。あんたは?」
「私は菊池。滝澤さんの警護をしている」
(たきざわ?)聞き覚えの無い名前を聞き、困惑が隠せない。
「……誰?」
「は?ふざけているのか?この方の事だ。ま、まさか貴様……知らないのか?」
そこまで聞けば事態は把握できる。とどのつまりは人違いだ。何時から勘違いをしていたのか、ポイ子だと信じてやまなかったこの女性は、実は、滝澤という元からこの学校で共に勉学に努める生徒だったと言う事。
「なるほど……菊池さんに滝澤さん……ね。あの……今更こういうのもどうかと思うのですが……どうか気を悪くされないでいただきたい。人違いでした。大変失礼しました」
ぺこりと頭を下げて、素直に謝る。
「わたくしと同じ方がこの学園に?ぜひ会ってみたいものですね」
「ああ、お気にされず。俺は何というかその……人付き合いが苦手で……どうも勘違いが多いんですよ。可哀そうな奴に当たったと思って、許してください」
菊地はその態度に掴んだ手を圧迫する。
「痛てててっ……ちょっ!なに?!」
「そうして滝澤さんに近付き、狼藉を働こうとしたわけか?」
「ろ……ってあんたいつの人だよ!痛いんで手を放してくれないか?!」
時代劇のような物言いに、困惑しつつも手を振りほどこうとする。
「まぁ菊池、その辺にしといてください」
「いえ、東グループの御令嬢、詩織様に迷惑をかけた罪はこの程度ではすみません!腕の一本や二本は……」
東グループ。滝澤 剛蔵会長が取りまとめる最大手企業グループ。食品、自動車、医療、銀行等。海外にも支社があり、ネット販売と通信事業にも手を出している。このグループだけで完結していると言われている。
この学園はその会長の出身校であり、OBと言う事で学校運営も賄っている。そんな高校だからこそ一つの義務教育程度に通っているのだろう。
小市民の春田にとっては迷惑な話だ。箔付けに名門校にでも通ってくれればいいのに。滝澤の空気がスッと変わる。
「……菊池」
さっきまでのにやけ面が消えて、菊池を冷たい目で見る。タレ目だというのに鋭利な刃物のようだ。菊池は先程までのキリッとした目が嘘のように怯えた目に代わり、春田から手を離した。滝澤の後ろに隠れるように移動する。まるでよく躾けられた犬だ。
「菊池が失礼いたしました。私の事となるとこの子はすぐ暴走して……」
滝澤は頭を下げて、飼い犬の無礼を詫びる。
「いや、そもそも俺の勘違いのせいでこうなったんだし、謝るのはこっちだ。ごめん」
頭を下げて謝るが「ごめん」という言葉に菊池は脊髄反射の様に瞬時に苛立ちの顔を見せる。
「春田……さん。でしたね。下の名前をお伺いしても?」
「あ、聖なると書いて也と書く、聖也です。”さん”とか別に良いですよ。春田って呼び捨てにしてもらえば……」
「春田 聖也、春田 聖也、春田 聖也……」と3回とブツブツつぶやいて、一回頷くと、笑顔に戻る。
「わたくしは滝澤 詩織と申します。以後、お見知りおきを」
にこりと笑って春田を見る。
「はい!本当に失礼しました!それでは、また機会があれば!」
と言って走って逃げる。
「よろしかったのでしょうか?詩織様……。あのような下賤な輩……」
「口が悪いわ、菊池。そんな事より、彼の詳細な情報が欲しいから、情報を集めなさい」
「なっ!」菊池は驚きのあまり声が出てしまう。
「問題でも?」
「いえ……差し支えなければ、理由をお聞きしても?」
滝澤は春田が走り去った方角を眺めて、ふっと笑う。
「興味が……出ましたからね」
しかし先の件もあり、一限繰り上げで全生徒は今日に限っては早めの下校を促された。
既に町でヤシャが暴れた一件はニュースになっていて、今日は部活もせず、まっすぐ帰るよう校内放送がかかる。
春田には理想的な事だった。
「お前ら、寄り道するんじゃないぞ!」
黒峰は腕を組んで威圧しながら下校する生徒を見る。春田は、はやる気持ちを抑えて、いつも通り教室から出て行く。
とりあえず学校から出られたら走って帰る。それ位で考えながらも、足は急いて動く。早足で校門に着くと、ポイ子が待っていた。
「……お待ちしておりました」
ぺこりと頭を下げて春田を迎えた。「なっ!!」家に帰ったはず。何でまた学生服に身を包んでここにいるのか?ヤシャをマンションに送った後、また来たにしては早すぎるんじゃないだろうか?
「?どうかいたしましたか?」
「どうもこうもないだろう……まぁ、話は後だ。とっとと帰ろうか」
と言って、ポイ子の肩に手を置く。その手を横からガシッと掴まれた。「!?」突然の事に驚いて掴んだ奴を見る。そこに立っていたのは、こちらも女子高生。
茶っ気の髪を肩口で切りそろえ、清潔感を醸し出す。細く、キリッとした目と太い眉が個性的な顔。身長は少し低めだが、体幹がしっかりとした武道を習っている感じがある。教師の黒峰ほどではないが、喧嘩が強そうだと一目で分かる。
シャツのボタンをきっちり上まで留めて、真面目な印象を見せるが、スカートは短めに折り込み、黒のスパッツが太股を被うのが見える。
いつでも戦えるよう準備万端といったところだろう。
「馴れ馴れしい奴め……何者だ貴様!!」
不思議な話だ。ポイ子は既にこの学園で友達を作ったのか?自分には友達の「と」の字もないのに…。
「……春田っていうんだ。あんたは?」
「私は菊池。滝澤さんの警護をしている」
(たきざわ?)聞き覚えの無い名前を聞き、困惑が隠せない。
「……誰?」
「は?ふざけているのか?この方の事だ。ま、まさか貴様……知らないのか?」
そこまで聞けば事態は把握できる。とどのつまりは人違いだ。何時から勘違いをしていたのか、ポイ子だと信じてやまなかったこの女性は、実は、滝澤という元からこの学校で共に勉学に努める生徒だったと言う事。
「なるほど……菊池さんに滝澤さん……ね。あの……今更こういうのもどうかと思うのですが……どうか気を悪くされないでいただきたい。人違いでした。大変失礼しました」
ぺこりと頭を下げて、素直に謝る。
「わたくしと同じ方がこの学園に?ぜひ会ってみたいものですね」
「ああ、お気にされず。俺は何というかその……人付き合いが苦手で……どうも勘違いが多いんですよ。可哀そうな奴に当たったと思って、許してください」
菊地はその態度に掴んだ手を圧迫する。
「痛てててっ……ちょっ!なに?!」
「そうして滝澤さんに近付き、狼藉を働こうとしたわけか?」
「ろ……ってあんたいつの人だよ!痛いんで手を放してくれないか?!」
時代劇のような物言いに、困惑しつつも手を振りほどこうとする。
「まぁ菊池、その辺にしといてください」
「いえ、東グループの御令嬢、詩織様に迷惑をかけた罪はこの程度ではすみません!腕の一本や二本は……」
東グループ。滝澤 剛蔵会長が取りまとめる最大手企業グループ。食品、自動車、医療、銀行等。海外にも支社があり、ネット販売と通信事業にも手を出している。このグループだけで完結していると言われている。
この学園はその会長の出身校であり、OBと言う事で学校運営も賄っている。そんな高校だからこそ一つの義務教育程度に通っているのだろう。
小市民の春田にとっては迷惑な話だ。箔付けに名門校にでも通ってくれればいいのに。滝澤の空気がスッと変わる。
「……菊池」
さっきまでのにやけ面が消えて、菊池を冷たい目で見る。タレ目だというのに鋭利な刃物のようだ。菊池は先程までのキリッとした目が嘘のように怯えた目に代わり、春田から手を離した。滝澤の後ろに隠れるように移動する。まるでよく躾けられた犬だ。
「菊池が失礼いたしました。私の事となるとこの子はすぐ暴走して……」
滝澤は頭を下げて、飼い犬の無礼を詫びる。
「いや、そもそも俺の勘違いのせいでこうなったんだし、謝るのはこっちだ。ごめん」
頭を下げて謝るが「ごめん」という言葉に菊池は脊髄反射の様に瞬時に苛立ちの顔を見せる。
「春田……さん。でしたね。下の名前をお伺いしても?」
「あ、聖なると書いて也と書く、聖也です。”さん”とか別に良いですよ。春田って呼び捨てにしてもらえば……」
「春田 聖也、春田 聖也、春田 聖也……」と3回とブツブツつぶやいて、一回頷くと、笑顔に戻る。
「わたくしは滝澤 詩織と申します。以後、お見知りおきを」
にこりと笑って春田を見る。
「はい!本当に失礼しました!それでは、また機会があれば!」
と言って走って逃げる。
「よろしかったのでしょうか?詩織様……。あのような下賤な輩……」
「口が悪いわ、菊池。そんな事より、彼の詳細な情報が欲しいから、情報を集めなさい」
「なっ!」菊池は驚きのあまり声が出てしまう。
「問題でも?」
「いえ……差し支えなければ、理由をお聞きしても?」
滝澤は春田が走り去った方角を眺めて、ふっと笑う。
「興味が……出ましたからね」
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