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11章 新たなる敵
138、灼熱の壁
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──ゴオオォッ
サラマンドラは激高し、ライトたちに向かって超高温の炎を吐き出した。
熱すぎて空気がじりじりと焼ける。水分が一瞬で蒸発するほどの炎。
跡形もなく消し炭になるであろう攻撃に対し、ライトとディロンは即座に回避行動を取る。正確には吐き出す予兆が見えた瞬間に前方に走り出し、左右に分かれてサラマンドラの炎を掻い潜りつつを挟み込む形で攻撃の隙を窺う。2人が有利な位置取りをすることを信じ、ウルラドリスは一人炎を飛び越えてサラマンドラに対しかかと落としでカウンターを決めた。
ガチンッ
女児のように小さな体のウルラドリスだが力は一線級。サラマンドラの上顎はかかと落としの勢いで下顎とぶつかり、鉱物同士がかち合ったような音を響かせる。
気絶は免れない一撃で目を回した敵の隙を狙ってのライトとディロンの挟撃。これでサラマンドラを追い詰めるだろうという信頼感からのウルラドリス渾身の捨て身攻撃だったが、この考えそのものが浅はかであったと思い知らされる。
「──痛っ!? 熱っ!?」
頑強さに自信があるはずのウルラドリスがサラマンドラのあまりの硬さに反動を食らう。さらに皮膚の厚さにも定評のあるウルラドリスが熱がり、右かかとに火傷痕が出来た。
サラマンドラの体は先ほどと比べてさらに温度を上げている。急激な体温の変化は感情の高ぶりが起因しているのだろう。
サラマンドラはギロリとウルラドリスを睨みつけ、その小さな体を握り潰そうと手を伸ばす。
──ブンッ
寸でのところでライトが助け出す。フローラを憑依させたライトはサラマンドラの知覚速度をゆうに超えている。
「ありがとうライト!助かったよっ!」
しかし──。
「ぐっ……!」
「え? ライト?!」
ウルラドリスを空中で抱きかかえて安全な位置まで避難する傍ら、サラマンドラが伸ばした手の熱がライトの皮膚を一部焼いた。
ただ一瞬通り過ぎただけだというのにだ。
凄まじい熱量を体から発するサラマンドラの足元の地面はぐつぐつと煮立つほどである。
「クソがっ!何なんだよあれはっ!? こんなんじゃ近づけねぇぞっ!!」
ディロンは空気が焼けるような感覚にサラマンドラから距離を取る。まるで小さな太陽が地上に降りて来たかのような光景に流石のディロンも危機感を感じ、一人は危ないと咄嗟にライトたちに合流した。
魔法が使えない者にとって近付けないことは負けも同じ。小細工や飛び道具の類を持ち合わせないディロンでは戦いにならない。苛つくことだが、無策に飛び込んでは死んでしまう。
かといって背中を見せるわけにはいかない。エクスルトの惨状が他でも行われる可能性が高いし、戦いを放棄して逃げるなど何よりも冒険者としてのプライドが許さない。
ライトもフローラの力を借りて人外の力を発揮しているとはいえ、サラマンドラの側を通っただけで火傷してしまった。接近戦は愚の骨頂。
「チッ……こうなったら俺が爪刃で攻撃するしかないな……」
『あれに聞くとは思えないがのぅ……?』
「一時退却だ。ただでさえ硬い体なのに近寄れもしないなら勝率なんて皆無。爪刃を繰り出して攪乱し、ウルラドリスが砂塵を上げて見失わせる」
「ざけんなっ!あんな奴に背中を見せろってのかよっ!?」
「尊厳は取り返せる。生きていればな」
「オメーこの野郎……」
「分かった!砂埃を上げれば良いんだね?」
「頼めるか?」
「任せてよっ!」
「チッ……しょうがねぇか」
想定以上の能力を保有するサラマンドラに一時退却を余儀なくされたライトたち。だがディロンやウルラドリスの声は思ったよりも大きくサラマンドラには丸聞こえだった。
「グハハッ!あれだけイキっておいてこの程度かっ!? 俺様との戦いを避けるのは賢い試みだが、そういうのはもっと静かに相談しあうもんだぜっ!!」
サラマンドラはさらに熱量を上げながら体を丸め始めた。そうしているのを見るとますますアルマジロを想起させるが、これからやろうとしていることはライトたちを絶望の淵に叩き落すサラマンドラの能力。
「──炎天下ォッ!!」
──カッ──
サラマンドラが体を大の字に力いっぱい開いた瞬間、火山ダンジョンのようなゴツゴツとした岩の壁がライトたちを囲んだ。
岩の壁からはドロドロとマグマが流れ出す。まるで最初から火山ダンジョンにやって来たような感覚に陥る。
「これはっ!固有結界かっ!?」
「グハハハッ!!俺様の支配空間にようこそっ!!ゆっくり死んでいけっ!!」
撤退の道を断たれたライトたち。ここでサラマンドラを倒さぬ限り生き残る術はない。
ディロンの目が据わる。もはや生き残る道を考えていないようなそんな目だ。
「っ!……ダメだディロン。捨て鉢になるな。何か策はある」
「捨て鉢ぃ? 誰がだよ。死ぬ気になれば何でも出来んだろうが……」
「そんな……ディロン……」
見た目には分からないが、4人の中で一番弱いのは間違いなくディロンである。ライトやウルラドリスに攻撃を任せ、囮として動き回るのがディロンが出来る最善手だ。
しかしほぼ死ぬ作戦を2人は容認しない。ウルラドリスはディロンの斧をぎゅっと握って離さなかった。
「ちょっ……おいっ。離せよラドっ!」
「ん~んっ!!」
「あぁ? 何をしている? グダグダやってないでとっとと掛かってこいっ!!」
「っるせーなぁっ!言われなくたって……ん?」
ディロンは目の前の光景に首を傾げた。
炎天下と呼ばれるサラマンドラの支配領域はマグマが噴き出す高温の世界。揺らめく陽炎がその熱の凄まじさを物語るが、その熱ゆえに煙の類は見当たらなかった。
しかしそこには急に蒸気が沸いたかのように湯気が立ち込め、周りが白く濁っていく。
先程まで上機嫌だったサラマンドラも見たこともない現象に首を傾げる。
「なんだぁ? これは?」
あまりのことに怒りにまみれていたはずのサラマンドラもきょとんとしている。
その反応にライトは今ここに発生している白い煙はサラマンドラと関係ないことを悟り、何がどうなっているのかを考え始めた。
支配領域の展開のさせ方や能力に対する自信から何度も使っているのが分かる。その能力をいつも通り使用するサラマンドラが驚くほど今まで無かった事象。となれば外なる要因が存在する。
「……まさかっ?!」
ライトが一つの可能性に行き着いた時、ライトたちの背後に何かが現れた。
──ズンッ
それは骨の竜。死んだはずの竜の屍が魔物化したアンデッドドラゴンと呼ばれる存在。異様だったのは額部分が切り抜かれ、座れるように改造していた。
そしてそこに座る女性は気怠そうにパイプ煙草を咥えていた。
「あ~らあら~? 妾の庭が荒らされていると思ったらぁ……一体何の騒ぎなのぉ?」
「……屍竜王ウルウティアっ!!」
ライトは驚愕の眼差しでウルウティアを見つめた。
サラマンドラは激高し、ライトたちに向かって超高温の炎を吐き出した。
熱すぎて空気がじりじりと焼ける。水分が一瞬で蒸発するほどの炎。
跡形もなく消し炭になるであろう攻撃に対し、ライトとディロンは即座に回避行動を取る。正確には吐き出す予兆が見えた瞬間に前方に走り出し、左右に分かれてサラマンドラの炎を掻い潜りつつを挟み込む形で攻撃の隙を窺う。2人が有利な位置取りをすることを信じ、ウルラドリスは一人炎を飛び越えてサラマンドラに対しかかと落としでカウンターを決めた。
ガチンッ
女児のように小さな体のウルラドリスだが力は一線級。サラマンドラの上顎はかかと落としの勢いで下顎とぶつかり、鉱物同士がかち合ったような音を響かせる。
気絶は免れない一撃で目を回した敵の隙を狙ってのライトとディロンの挟撃。これでサラマンドラを追い詰めるだろうという信頼感からのウルラドリス渾身の捨て身攻撃だったが、この考えそのものが浅はかであったと思い知らされる。
「──痛っ!? 熱っ!?」
頑強さに自信があるはずのウルラドリスがサラマンドラのあまりの硬さに反動を食らう。さらに皮膚の厚さにも定評のあるウルラドリスが熱がり、右かかとに火傷痕が出来た。
サラマンドラの体は先ほどと比べてさらに温度を上げている。急激な体温の変化は感情の高ぶりが起因しているのだろう。
サラマンドラはギロリとウルラドリスを睨みつけ、その小さな体を握り潰そうと手を伸ばす。
──ブンッ
寸でのところでライトが助け出す。フローラを憑依させたライトはサラマンドラの知覚速度をゆうに超えている。
「ありがとうライト!助かったよっ!」
しかし──。
「ぐっ……!」
「え? ライト?!」
ウルラドリスを空中で抱きかかえて安全な位置まで避難する傍ら、サラマンドラが伸ばした手の熱がライトの皮膚を一部焼いた。
ただ一瞬通り過ぎただけだというのにだ。
凄まじい熱量を体から発するサラマンドラの足元の地面はぐつぐつと煮立つほどである。
「クソがっ!何なんだよあれはっ!? こんなんじゃ近づけねぇぞっ!!」
ディロンは空気が焼けるような感覚にサラマンドラから距離を取る。まるで小さな太陽が地上に降りて来たかのような光景に流石のディロンも危機感を感じ、一人は危ないと咄嗟にライトたちに合流した。
魔法が使えない者にとって近付けないことは負けも同じ。小細工や飛び道具の類を持ち合わせないディロンでは戦いにならない。苛つくことだが、無策に飛び込んでは死んでしまう。
かといって背中を見せるわけにはいかない。エクスルトの惨状が他でも行われる可能性が高いし、戦いを放棄して逃げるなど何よりも冒険者としてのプライドが許さない。
ライトもフローラの力を借りて人外の力を発揮しているとはいえ、サラマンドラの側を通っただけで火傷してしまった。接近戦は愚の骨頂。
「チッ……こうなったら俺が爪刃で攻撃するしかないな……」
『あれに聞くとは思えないがのぅ……?』
「一時退却だ。ただでさえ硬い体なのに近寄れもしないなら勝率なんて皆無。爪刃を繰り出して攪乱し、ウルラドリスが砂塵を上げて見失わせる」
「ざけんなっ!あんな奴に背中を見せろってのかよっ!?」
「尊厳は取り返せる。生きていればな」
「オメーこの野郎……」
「分かった!砂埃を上げれば良いんだね?」
「頼めるか?」
「任せてよっ!」
「チッ……しょうがねぇか」
想定以上の能力を保有するサラマンドラに一時退却を余儀なくされたライトたち。だがディロンやウルラドリスの声は思ったよりも大きくサラマンドラには丸聞こえだった。
「グハハッ!あれだけイキっておいてこの程度かっ!? 俺様との戦いを避けるのは賢い試みだが、そういうのはもっと静かに相談しあうもんだぜっ!!」
サラマンドラはさらに熱量を上げながら体を丸め始めた。そうしているのを見るとますますアルマジロを想起させるが、これからやろうとしていることはライトたちを絶望の淵に叩き落すサラマンドラの能力。
「──炎天下ォッ!!」
──カッ──
サラマンドラが体を大の字に力いっぱい開いた瞬間、火山ダンジョンのようなゴツゴツとした岩の壁がライトたちを囲んだ。
岩の壁からはドロドロとマグマが流れ出す。まるで最初から火山ダンジョンにやって来たような感覚に陥る。
「これはっ!固有結界かっ!?」
「グハハハッ!!俺様の支配空間にようこそっ!!ゆっくり死んでいけっ!!」
撤退の道を断たれたライトたち。ここでサラマンドラを倒さぬ限り生き残る術はない。
ディロンの目が据わる。もはや生き残る道を考えていないようなそんな目だ。
「っ!……ダメだディロン。捨て鉢になるな。何か策はある」
「捨て鉢ぃ? 誰がだよ。死ぬ気になれば何でも出来んだろうが……」
「そんな……ディロン……」
見た目には分からないが、4人の中で一番弱いのは間違いなくディロンである。ライトやウルラドリスに攻撃を任せ、囮として動き回るのがディロンが出来る最善手だ。
しかしほぼ死ぬ作戦を2人は容認しない。ウルラドリスはディロンの斧をぎゅっと握って離さなかった。
「ちょっ……おいっ。離せよラドっ!」
「ん~んっ!!」
「あぁ? 何をしている? グダグダやってないでとっとと掛かってこいっ!!」
「っるせーなぁっ!言われなくたって……ん?」
ディロンは目の前の光景に首を傾げた。
炎天下と呼ばれるサラマンドラの支配領域はマグマが噴き出す高温の世界。揺らめく陽炎がその熱の凄まじさを物語るが、その熱ゆえに煙の類は見当たらなかった。
しかしそこには急に蒸気が沸いたかのように湯気が立ち込め、周りが白く濁っていく。
先程まで上機嫌だったサラマンドラも見たこともない現象に首を傾げる。
「なんだぁ? これは?」
あまりのことに怒りにまみれていたはずのサラマンドラもきょとんとしている。
その反応にライトは今ここに発生している白い煙はサラマンドラと関係ないことを悟り、何がどうなっているのかを考え始めた。
支配領域の展開のさせ方や能力に対する自信から何度も使っているのが分かる。その能力をいつも通り使用するサラマンドラが驚くほど今まで無かった事象。となれば外なる要因が存在する。
「……まさかっ?!」
ライトが一つの可能性に行き着いた時、ライトたちの背後に何かが現れた。
──ズンッ
それは骨の竜。死んだはずの竜の屍が魔物化したアンデッドドラゴンと呼ばれる存在。異様だったのは額部分が切り抜かれ、座れるように改造していた。
そしてそこに座る女性は気怠そうにパイプ煙草を咥えていた。
「あ~らあら~? 妾の庭が荒らされていると思ったらぁ……一体何の騒ぎなのぉ?」
「……屍竜王ウルウティアっ!!」
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