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第二十一話 獅吼の剛王
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「グァッハッハッ!その身でよう戦った!誉めてやろう!!」
プルソンは高笑いをしながら攻撃を受けた腹筋をポリポリ掻いた。少し焦げ付いたくらいで言うほどダメージになっていない。
グラシャラボラスが打たれ弱かったために、プルソンの耐久力に目を細める。明らかに体のつくりが違う。
『……依り代の作成に成功したのか?』
簡単な依り代の作成ならどうと言う事は無い。実際にグラシャラボラスは魂の壺を媒介にこの世界に召喚されている。魂の壺は生贄と依り代を同時に用意できる便利なもので、ウロボロスの信者が悪魔を召喚する時に使用する。
但し、魂の壺は飽くまで代用品であって、天然の器には遠く及ばない。悪魔と依り代には相性が存在し、パズルのピースのように合致した物だけが本来の力を引き出せる。
何の目的で召喚されるかによって力の解釈は違ってくるものの、願いを叶えるためなら完璧な依り代を用意しなければならないのだ。これは悪魔と関わった個人、全ての組織が知る事実である。
ウロボロスの場合は悪魔の力を信じているので、それ以外の事には興味がない。強い悪魔を今すぐに召喚し、信者たちに「神の存在はまやかしで、自分達こそが本物である」と知らしめる為の道具としている。百聞は一見に如かずを体現する為に安易な方法に手を伸ばし、本物を演出してきたが故のいわば手抜き。
彼のグラシャラボラスが簡単に消滅に追いやられたのは正にそれが原因だ。目の前に立つ悪魔は強く、悪魔形態となったリョウに引けを取らないどころか上回っている。
ソロモン72柱、No.20”獅吼の剛王”。
二つ名の通り怪力だと思われるその巨腕はこの世界の常識をまるで無視する動きを見せ、歯向かうものを破壊するべく振るわれる。「リョウを殺せば自由」、「体をあげる」から察するに完璧な体を用意し、それを使用していると見るのが妥当だ。
チラリとリナを見る。調子付いてニヤニヤしている顔が目に入った。
『……こいつが俺に勝てると思っているのか?そいつはお門違いだぜリナ……』
「どこを見ている?お前の相手はこの俺だ!!」
プルソンはその巨躯から信じられないほどのスピードで一気に距離を詰める。身体能力は今まで対峙してきたどの悪魔より上だと思えた。右拳で叩き潰す様に腕が迫る。
ガンッ
リョウはその腕を両腕を交差させて全身で受け止める。踏ん張った足の方が無事に済まず、ガガガガッと掘り起こしながら後ろに下がっていく。地面が抉られる事を拒否し、攻撃の威力を殺すとリョウの小さな体でプルソンの腕が支えられた。
ググッと少し腕を持ち上げると、また左手で足を掴んできた。地面に埋まった足は簡単に引き抜かれ持ち上げられる。またしても地面に叩きつけられると思ったが、さっき攻撃した右手でリョウの左手を握った。左手と右足を掴まれたその状況を第三者視点から見ていたアークの隊員たちは「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
「引き千切るつもりだ……!」
隊長はバッとライフルを構える。それを見た隊員たちも「ハッ」と我に返ったようにそれぞれの飛び道具に手を伸ばした。それを目を動かす事で確認した隊長はプルソンの足に狙いを定める。
「足を狙え!トゥーマウスに当てるな!」
パァンッと先陣を切ってプルソンの膝付近に弾を当てる。聖なる力で強化された弾丸は難なくその足に弾痕を残した。それを見た隊員たちも続けて銃を撃つ。たくさんの破裂音が耳を叩き、プルソンの足は穴だらけになる。
「むぅ……鬱陶しい虫どもめ……!」
プルソンの腕がふさがっているのを良い事にやりたい放題だと苛立ちが募る。
「あーっ!いけないんだ!一人を大勢で叩くのはいじめだってお母さんに習わなかったの?」
リナはアークの対応に眉をしかめて咎める。隊長は奥歯を噛み締めながらも不敵にニヤリと笑って見せる。
「あんたに言われたくないわ……!」
その顔からは想像できない程強張った震える声で言葉を紡ぐ。この悪魔に殺された仲間たちを思えばリナの言い分には虫唾が走る。今すぐにリナに照準を合わせて出来れば眉間に撃ち込みたいが、丁度弾切れだ。すぐさまリロードを開始する隊長。
「お兄ちゃんとプルソンの戦いを邪魔するなんてお仕置きが必要だよ!」
リナは足元に魔方陣を展開させる。何かあると悟った隊長は装填後、即座にライフルの銃床を肩につけて無防備の彼女に狙いを定めたと同時に発射する。
狙いは寸分違わずリナに飛んでいく。しかし、展開された魔方陣の範囲内に入った途端に何らかの壁に阻まれた。パチュンッと目の前で消えた弾を確認したリナは「あっ」と一言漏らした後、隊長に信じられないといった顔で睨みつけた。
「酷い!!私を狙うなんて!!私が何をしたって言うの!?」
魔方陣からは黒く禍々しい波動が放出され、リナの怒りを体現している。
「はぁ?どの口が言うのよ!!」
いつもの隊長からは聞けない程の怒りが漏れ出てリナに向かって銃を乱射する。それに呼応した他の隊員も何名かはリナに照準を合わせて撃ち始める。プルソンを撃ちつつリナにも攻撃を加えるという、リョウをアタッカーとした遠距離での後方支援を展開する形となった。
「もう許さない!!あなた達もまとめて殺しちゃうんだから!!」
余裕の表情が消えて怒りで叫び散らすリナ。自分の理論や主張が通らず感情的になり、ヒステリックに叫んで何らかの攻撃をしよう手をかざした。その時、「グアッ!!」とプルソンが痛みを感じたような声を出して蹲った。「えっ!?」とリナは驚いた顔でプルソンを見る。まさかあんな豆鉄砲程度でダメージを与えたのかと思ったからだ。しかし違った。プルソンは狙われていた足とは違って右手を抑えて後ずさった。
手が離れたリョウはすぐ下に着地する。その口には大きな肉の塊を咥えていた。
「馬鹿な!?俺の指が!!」
右手を広げると親指の一部が欠けている。肉片はプルソンの指を噛み千切った時の物だ。そのままベロンと舌が伸びて肉を巻き取ると、ずるりと口内に入っていきゴクンと喉を鳴らして飲み下す。
『……その言葉……そっくりお前らに返すぜ……』
プルソンは高笑いをしながら攻撃を受けた腹筋をポリポリ掻いた。少し焦げ付いたくらいで言うほどダメージになっていない。
グラシャラボラスが打たれ弱かったために、プルソンの耐久力に目を細める。明らかに体のつくりが違う。
『……依り代の作成に成功したのか?』
簡単な依り代の作成ならどうと言う事は無い。実際にグラシャラボラスは魂の壺を媒介にこの世界に召喚されている。魂の壺は生贄と依り代を同時に用意できる便利なもので、ウロボロスの信者が悪魔を召喚する時に使用する。
但し、魂の壺は飽くまで代用品であって、天然の器には遠く及ばない。悪魔と依り代には相性が存在し、パズルのピースのように合致した物だけが本来の力を引き出せる。
何の目的で召喚されるかによって力の解釈は違ってくるものの、願いを叶えるためなら完璧な依り代を用意しなければならないのだ。これは悪魔と関わった個人、全ての組織が知る事実である。
ウロボロスの場合は悪魔の力を信じているので、それ以外の事には興味がない。強い悪魔を今すぐに召喚し、信者たちに「神の存在はまやかしで、自分達こそが本物である」と知らしめる為の道具としている。百聞は一見に如かずを体現する為に安易な方法に手を伸ばし、本物を演出してきたが故のいわば手抜き。
彼のグラシャラボラスが簡単に消滅に追いやられたのは正にそれが原因だ。目の前に立つ悪魔は強く、悪魔形態となったリョウに引けを取らないどころか上回っている。
ソロモン72柱、No.20”獅吼の剛王”。
二つ名の通り怪力だと思われるその巨腕はこの世界の常識をまるで無視する動きを見せ、歯向かうものを破壊するべく振るわれる。「リョウを殺せば自由」、「体をあげる」から察するに完璧な体を用意し、それを使用していると見るのが妥当だ。
チラリとリナを見る。調子付いてニヤニヤしている顔が目に入った。
『……こいつが俺に勝てると思っているのか?そいつはお門違いだぜリナ……』
「どこを見ている?お前の相手はこの俺だ!!」
プルソンはその巨躯から信じられないほどのスピードで一気に距離を詰める。身体能力は今まで対峙してきたどの悪魔より上だと思えた。右拳で叩き潰す様に腕が迫る。
ガンッ
リョウはその腕を両腕を交差させて全身で受け止める。踏ん張った足の方が無事に済まず、ガガガガッと掘り起こしながら後ろに下がっていく。地面が抉られる事を拒否し、攻撃の威力を殺すとリョウの小さな体でプルソンの腕が支えられた。
ググッと少し腕を持ち上げると、また左手で足を掴んできた。地面に埋まった足は簡単に引き抜かれ持ち上げられる。またしても地面に叩きつけられると思ったが、さっき攻撃した右手でリョウの左手を握った。左手と右足を掴まれたその状況を第三者視点から見ていたアークの隊員たちは「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
「引き千切るつもりだ……!」
隊長はバッとライフルを構える。それを見た隊員たちも「ハッ」と我に返ったようにそれぞれの飛び道具に手を伸ばした。それを目を動かす事で確認した隊長はプルソンの足に狙いを定める。
「足を狙え!トゥーマウスに当てるな!」
パァンッと先陣を切ってプルソンの膝付近に弾を当てる。聖なる力で強化された弾丸は難なくその足に弾痕を残した。それを見た隊員たちも続けて銃を撃つ。たくさんの破裂音が耳を叩き、プルソンの足は穴だらけになる。
「むぅ……鬱陶しい虫どもめ……!」
プルソンの腕がふさがっているのを良い事にやりたい放題だと苛立ちが募る。
「あーっ!いけないんだ!一人を大勢で叩くのはいじめだってお母さんに習わなかったの?」
リナはアークの対応に眉をしかめて咎める。隊長は奥歯を噛み締めながらも不敵にニヤリと笑って見せる。
「あんたに言われたくないわ……!」
その顔からは想像できない程強張った震える声で言葉を紡ぐ。この悪魔に殺された仲間たちを思えばリナの言い分には虫唾が走る。今すぐにリナに照準を合わせて出来れば眉間に撃ち込みたいが、丁度弾切れだ。すぐさまリロードを開始する隊長。
「お兄ちゃんとプルソンの戦いを邪魔するなんてお仕置きが必要だよ!」
リナは足元に魔方陣を展開させる。何かあると悟った隊長は装填後、即座にライフルの銃床を肩につけて無防備の彼女に狙いを定めたと同時に発射する。
狙いは寸分違わずリナに飛んでいく。しかし、展開された魔方陣の範囲内に入った途端に何らかの壁に阻まれた。パチュンッと目の前で消えた弾を確認したリナは「あっ」と一言漏らした後、隊長に信じられないといった顔で睨みつけた。
「酷い!!私を狙うなんて!!私が何をしたって言うの!?」
魔方陣からは黒く禍々しい波動が放出され、リナの怒りを体現している。
「はぁ?どの口が言うのよ!!」
いつもの隊長からは聞けない程の怒りが漏れ出てリナに向かって銃を乱射する。それに呼応した他の隊員も何名かはリナに照準を合わせて撃ち始める。プルソンを撃ちつつリナにも攻撃を加えるという、リョウをアタッカーとした遠距離での後方支援を展開する形となった。
「もう許さない!!あなた達もまとめて殺しちゃうんだから!!」
余裕の表情が消えて怒りで叫び散らすリナ。自分の理論や主張が通らず感情的になり、ヒステリックに叫んで何らかの攻撃をしよう手をかざした。その時、「グアッ!!」とプルソンが痛みを感じたような声を出して蹲った。「えっ!?」とリナは驚いた顔でプルソンを見る。まさかあんな豆鉄砲程度でダメージを与えたのかと思ったからだ。しかし違った。プルソンは狙われていた足とは違って右手を抑えて後ずさった。
手が離れたリョウはすぐ下に着地する。その口には大きな肉の塊を咥えていた。
「馬鹿な!?俺の指が!!」
右手を広げると親指の一部が欠けている。肉片はプルソンの指を噛み千切った時の物だ。そのままベロンと舌が伸びて肉を巻き取ると、ずるりと口内に入っていきゴクンと喉を鳴らして飲み下す。
『……その言葉……そっくりお前らに返すぜ……』
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