トゥーマウス

大好き丸

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第十一話 ウロボロス

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 そこは地下鉄だった。
 避難の終了した地下は静かなもので暗さも相まって恐怖を駆り立てる。暗くジメジメした地下鉄の奥、入り組んだその場所で円陣を組んで儀式をしていた。
 誰にも見つからまいとする意志をひしひしと感じるこの場所に、あらかじめ知っていたように迷わず入ってくる人影が一つ。それはウロボロスの仲間でも現在活躍中のアークでもなく悪魔と共生する最悪の男リョウ。通称トゥーマウス。
 闇の中で蠢く影が男を狙って伸びる。リョウをグルッと取り囲み牽制するが、意に返す事無くズンズン歩いて先に進む。

『そこで止まれ』

 影は堪らず声を出す。何人もの声が重なって聴こえる。悪魔は召喚の際に使用した魂の記憶でこの世界の言語を操り、知識を駆使して人に取り入る。
 さらに暗闇の怪物は新たに人を取り込む事で知識や記憶を追加で得る事が出来る。ただ欠点として人を取り込みすぎると記憶と知識が混在しすぎて何が正しいのか、何が間違っているのかがあいまいになり最後には思考するだけの黒い物質になるので、最初に召喚の際に使用した魂の記憶を入れて最高でも七、八人くらいが限度だろう。召喚した者に与するこの悪魔は扱いやすいので悪魔崇拝者に好まれている。

「うっさいわね!鬱陶しいから下がりなさい下等悪魔!!」

 プンプンと蒸気が出そうな感じで怒鳴りつける。ウロボロスの連中は扱いやすいからと何があっても対応できるように大量に召喚していた。その為消滅させたり、または食い殺した数もそれなりになった。アークの連中もうんざりするほど滅したに違いない。
 それでもまだここで取り囲むほどいるのだから、新たに人を仕入れる度、追加召喚していたことがはっきりと分かる。本当に迷惑な連中だ。

「……退かねぇならここで全員灰にしちまうぞ?」

 リョウは睨みを利かせながら構わず歩く。その瞬間影は自らの体を針のむしろに変化させ、リョウに向かって発射する。この攻撃方法もワンパターンだ。一番効率のいい方法を選んで仕掛けているのだろうが馬鹿の一つ覚えともいえる。

 ジャギィッ

 硬質な針同士が擦れて嫌な音を出している。本来そこにいるはずの死体はなく、刺さるはずだった肉も存在しない。リョウが一瞬の内に消えた。怪物たちは焦った。ネズミ一匹逃がさない程囲ったはずだったが一部欠けている。というのも仲間の一体が修復不可能なほど炭化し、消滅していくのを目視した。

『馬鹿な!!何をした!!』

 怪物たちは自分の後ろを見たりしながら敵を探すが見当たらない。

「……お前らは思考共有は出来ないのか……はぁ、何でこんなのを重宝するんだ……何度も説明してやる程俺は優しくないんでな……一気に決めるぜ?」

 地下に声が響く。しかし見つからない。相手は身長180cmで肩幅も広く、屈強な体格をしている。そんな体躯が影も形もない。焦る怪物たち。

『ギャアアア!!』

 ボジュゥ……

 一匹。

『グアアアァ!!』

 ボジュゥ……

 また一匹。着実に消されていく。それも異様な速さで。姿も見えず気付いたら消されるなんて自分たちの獲物の追い込み方にそっくりである。それに気づきリョウの手が間近に迫った時、怪物は恐怖から断末魔を上げた。全滅を確認した後ニット帽の口が尋ねた。

「でもなんで相手はあんたを簡単に見失うのよ?」

「……何度も説明しただろ……相手の視界から消えるには緩急が重要なんだってな……相手の思ってもみない方向に移動して視界の外に回り込むだろ?その後は地道に視界に入らない様に努力すれば完全に見失うって寸法だ……」

 原理は分かる。確かにリョウの言う通り、左右どちらか一方にしか動けない状態で突如股下をくぐられるようなことがあれば驚き戸惑うだろう。意識外の行動をとられると見失うのも頷ける。それを為せるかどうかは別にしても。

「……こればっかりはやられる側にならねぇと分からんぜ?」

「……ふーん」

 この反応だ。分かったのか分からないのか言わない。これはまたいつか聞くだろうなと思いつつ先を急ぐ。
 少し歩くと人々の慌てふためく声が聞こえた。リョウはニヤリと不敵に笑うと獲物を見つけた猛獣のように一気に走る。

 バガンッ

 鋼鉄の扉をけ破るとさらに地下に続く階段の先の広間にフードを被ったウロボロスの会員たちが儀式をしているのが見えた。蝋燭に火を灯し、何かの魔方陣の様な紋章を囲っている。酸欠になりそうなこの場所の中心に十個の壺が置かれている。
 魂の壺。
 本来悪魔はこの世界に顕現する事は出来ない。媒介となるものがあって初めて召喚可能となる。最悪自分たちを使う事も厭わないが、悪魔と人間にも相性が存在する為、完璧な素体でないと数秒と持たず崩壊してしまう。媒介にする人間を用意できないときに使用されるのがこの壺というわけだ。

「!?……トゥーマウス!!」

「……ご苦労な事だな……千年経とうが何も変わらない。一度も繁栄した事がない癖に未だに神の敵であり続ける……お前らの底知れぬ敵愾心には心底呆れるぜ……」

「黙れ!!貴様なんぞ最近生まれたばかりの赤子ではないか!!我らの悲願、今宵成就させる!!」

 この中の中心人物と思われる男が両腕を振るって天に掲げる。

「いでよ!”黒翼の暗殺者|(グラシャラボラス)”!!」
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