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第5話 本物の聖女

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 公爵家でのアナスタシアの待遇は凄かった。

「こちらのお部屋をご自由にお使い下さい」

 そう言って通されたのはお屋敷の貴賓室。
貴族や豪族が泊まる時に使われるのだろう。

「本当に、ここを私1人で使っていいんですか?」
「はい、旦那様からここに通すよう、申しつかっております。何かご不便なことがありましたら、私かメイドにお申し付けください。では、ごゆるりと」

 従者は粛々と一礼する。
広い部屋に天蓋付きのベッド。
調度品はどれも高価な物だと察しが付く。

「あの、ロイン様の様子はどうですか?」

 アナスタシアは執事に尋ねる。

「今は寝室でお休みになっております。先ほどよりは落ち着いているようですよ」
「そうですか。よかったです」

 それを聞いてアナスタシアは少し安心した。

「出過ぎたことを申し上げるようですが、ロイン様の呪いの発作は最近になって頻度が上がっているように感じます。聖女、アナスタシア様。どうかロイン様をお救い下さい」

 綺麗に執事は頭を下げる。

「はい、全力を尽くします」
「ありがとうございます。夕食はお部屋までお持ちします。お寛ぎ下さい」

 そう言って、従者は部屋を後にして行った。
ここまで広い部屋に1人というのもなんだか落ち着かないものである。

 教会に居た頃は、狭い部屋に閉じ込められていた。
外の景色を見るという余裕すら無かった。

 聖女だからと教会によって行動を制限されていたのである。

「まさか、こうなるとは思いませんでしたね」

 ほんの数時間前まで、アナスタシアは教会の聖女だった。
それがいきなり追放されて気づいたら路頭に迷い掛けていた。

 そんな時に現れたのがロイン様だった。
人生、何があるかわからないとはよく言ったもんだと思う。

 捨てる神あれば拾う神ありだ。

 しばらくして、部屋をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」
「失礼。アナスタシアさん、少しいいかな?」

 公爵が王宮から戻ってきたようである。

「はい、大丈夫ですよ」
「感応増幅師だが、すぐに動けるそうだ。明日ということで話を通したのだが、問題無かったかな?」
「問題ありません。ロイン様の状況を考えたら早い方がいいでしょう」

 今のロインの状況を考えると、あまり悠長な事は言っていられない。
感応増幅師によって、聖力を上昇させても解呪できるという保証があるわけでは無いのだ。

「ありがとう。明日の午後には感応増幅師が来てくれることになっている。それまで、ゆっくりしていてくれ」
「わかりました。そうさせて頂きます」

 自分の聖力を温存して回復させるには、睡眠が一番効率がいい。

「では、また明日よろしく頼む」
「はい、お願いします」

 公爵は部屋を後にする。

 夕食を取ったアナスタシアは、天蓋付きのベッドに横になって目を閉じる。
そして、そのまま意識を手放した。
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