上 下
4 / 19

第4話 聖騎士団長

しおりを挟む
 アリーセは馬車に戻る。

「行きましょうか」
「大丈夫でしたか?」
「はい、問題ありません。全て解決させて来ました」
「あなたは、一体……」

 セルバンは驚いた表情を浮かべている。

「まあ、そのうち分かるかもしれませんよ」
「そうですね。詮索はやめましょう」

 セルバンは御者台に座ると、馬に鞭を入れる。
馬車は再びゆっくりと進み始める。

 そこから、王都までは特に問題は起こらなかった。
セルバンが、魔獣や盗賊が少ないルートを選んでくれたのである。

「お疲れさまでございました。王都に到着致しました」
「ありがとうございます」

 アリーセは馬車を降りて、王都の地に降り立った。
辺りは、少しつづ暗くなりじめていた。

「聖騎士団長様のお屋敷は……」

 カルトからもらった王都の地図を頼りに、移動する。

「ここですね……」

 聖騎士団長の屋敷はすごく大きかった。
確か、爵位も持っていると聞いていたのでそれなりの貴族なのだろう。

「お嬢さん、何か御用ですか?」

 屋敷を見上げていると、警備の兵に声をかけられる。

「あの、こちらのダイン様にお会いするために参りました、アリーセと申します」

 アリーセは鞄の中からカルトに書いてもらった紹介状を出すと、兵に見せた。

「確認いたしますので、少々お待ちください」

 警備兵がそう言って、しばらくしてから燕尾服を身に纏った初老くらいの男性が現れた。

「アリーセ様ですね。お待ちしておりました。大体のことはカルトから聞いています。どうぞこちらに」

 門をくぐって屋敷の中に入る。

「私、エステール家の家令を務めております。ストーグと申します」
「よろしくお願いします。あの、カルトとは知り合いなんですか?」
「ええ、以前同じ屋敷に仕えていたことがあります」
「そう、なんですね」

 カルトは色んな屋敷を渡り歩いてきたと言っていた。
だから、経験だけはあると。

「こちらで、お待ちください。ダイン様もう少しで来られますので」
「わかりました」

 お屋敷の応接間に通された。
アリーセはソファーに座ると、なんとなく部屋の中を眺める。

 豪華な調度品が並べられ、このソファーもテーブルも高価なものだと伺える。
しばらく、そのまま待っていると、再び応接間の扉が開かれた。

「お待たせしてしまって申し訳ない」

 美しい銀髪は短く切り揃えられ、前髪は少し重たくなっている。
中性的な顔立ちだが、しっかりと肉体は鍛えられているのが窺える。

 アリーセは立ち上がる。

「ダイン・エステールだ」
「アリーセと申します」
「どうぞ、座ってください」
「失礼致します」

 アリーセは再び、ソファーに浅く腰を下ろす。

「遠い所、お疲れだろう。事情は聞いている。大変だったのだな」
「お気遣い、感謝します」
「ところで、一つ聞きたいのだが、アリーセと言ったな?」
「はい、そうです」

 ダイン様はアリーセの名前を確認する。

「私の部下が賊の襲撃にあって、大怪我をした。しかし、そこに現れた謎の治癒師によって完全に回復したという報告を受けた。その者は名をアリーセと言ったそうだ。もしかして、君が……?」
「はい、その通りです。私が治癒の精霊術を使いました」
「精霊術だと!? 魔術ではなく?」

 精霊術は珍しいものだ。
魔術で治癒するのがこの世界の定石である。

「私は、精霊の力を直接借りることが出来るらしくて」
「それは、すごい力だぞ。とにかく、お礼を言わせてくれ。部下の命を救ってくれてありがとう」

 そう言って、ダインは頭を下げた。

「頭を上げてください。目の前に消えかかっている命があったら全力で助ける。それが、治癒の力を授かった者の使命だと思っていますから」
「貴女は、強いです……」

 ダインがそう言ったのが僅かに聞こえた。

「今日はゆっくり休んで下さい。どうか、自分の家だと思って」
「ありがとうございます。お世話になります」

 こうして、アリーセの新しい人生が幕を開けるのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな
ファンタジー
 ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。  そして、王太子殿下の婚約者でもあった。  だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。 「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」  父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。  

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】妹にあげるわ。

たろ
恋愛
なんでも欲しがる妹。だったら要らないからあげるわ。 婚約者だったケリーと妹のキャサリンが我が家で逢瀬をしていた時、妹の紅茶の味がおかしかった。 それだけでわたしが殺そうとしたと両親に責められた。 いやいやわたし出かけていたから!知らないわ。 それに婚約は半年前に解消しているのよ!書類すら見ていないのね?お父様。 なんでも欲しがる妹。可愛い妹が大切な両親。 浮気症のケリーなんて喜んで妹にあげるわ。ついでにわたしのドレスも宝石もどうぞ。 家を追い出されて意気揚々と一人で暮らし始めたアリスティア。 もともと家を出る計画を立てていたので、ここから幸せに………と思ったらまた妹がやってきて、今度はアリスティアの今の生活を欲しがった。 だったら、この生活もあげるわ。 だけどね、キャサリン……わたしの本当に愛する人たちだけはあげられないの。 キャサリン達に痛い目に遭わせて……アリスティアは幸せになります!

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

処理中です...