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第49話 愛すべき日常。

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 あれから、メレーヌは泣いていた。
御影さんからもらった『日常』に溶け込む事が出来たのは凄く嬉しかった。
しかし、あの時、また売られるかもしれないという絶望感は言葉には出来なかった。

『私はそういう運命なのかな』

そうまでも思った。
だから、ひたすらに御影の腕の中で泣いた。

御影は黙ってメレーヌを抱きしめ、頭を撫でた。


メレーヌは元はいい所のお嬢様で何ひとつ不自由なく生活していた。
しかし、父親のやっていた店は潰れ、父は失踪。
メレーヌとメレーヌの母には多額の借金だけがのしかかった。

「借りたもんは返す。常識だろ?」
「あと、一週間待ってください。必ず、必ず返しますから」

必死に頭を下げる母の姿は今でも目に焼き付いている。

「返さねぇなら、娘に体で払ってもらうぞ?」
「そ、それだけは勘弁してください」

しかし、母の願い叶わず、メレーヌは奴隷として売り飛ばされ、娼館で働かされた。

「君、可愛いね」
「何でこんな所で働いてるの?」

毎日同じように、好きでもない男性のお相手をする。

『もう、辞めたい……』

そう思っていたが、そんな生活が三年ほど続いた。
三年後、やっとの思いで借金を全額返済した。

『これで、辞められる』

メレーヌは奴隷からも娼婦からも解放された。

「これからどうしよう……」

解放されたはいいが、このままだと、生活も苦しくなる。
寮は引き払ったし、貯金も無い。
まさに、一文無しだった。

「あ、ギルドに行けば仕事紹介してもらえるかも」

一抹の期待を胸にメレーヌはギルドへと向かった。

「お仕事のお探しですね」

受付のお姉さんは境遇を話すと凄く親身になってくれた。

「普段なら紹介しないんですけど、ここなんてどうでしょう?」
「メイド喫茶セルヴァント?」
「そうです。最強賢者様の経営しているお店よ。御影さんも貴女ならきっと気にいると思うわ」

そう言ってお姉さんは御影さんのお屋敷までの地図と紹介状を書いてくれた。

「最強賢者様、怖い人なのかな」

そんな事を考えながら、トボトボとお屋敷までの道のりを歩いた。

「ここか……広い」

ベルを鳴らすと執事さんが出てきて、紹介状を見せると中に招き入れてくれた。

「こちらで少々お待ち下さい。旦那様を呼んで参ります」

そう言って執事さんが出て数分、扉が開いた。

「初めてまして。叢雲御影です。ノエラさんからの紹介かな?」

『これが最強賢者様?若くてイケメン……』

そんな事を心の中で思った。

「は、はい、受付のお姉さんから、御影さんなら雇ってくれるかもと言われて来ました」

娼館で働かされた事を話すと一瞬苦い顔をされたが、すぐに笑顔に戻った。

「君、採用!」
「え!?」

メレーヌは何を基準に自分が採用されたのかも分からなかった。

「君、可愛いから採用なの。異論は認めないよ」
「そんな理由でいいんですか?」

思わず笑ってしまった。

「やっぱり、女の子は笑ってないとね。可愛いは正義なんだよ」

御影さんは右手を差し出した。

「これからよろしくな。メレーヌ」
「はい、こちらこそ」

御影さんは雇ってくれるだけで無く、住む所提供してくれた。
杏さんやクラリスさんといった友達も出来た。

自分が日常に溶け込む事が凄く嬉しくて、メレーヌは御影に心から感謝した。

『一生、この方について行こう』

そう心に誓いながら。


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