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第127話 クレイグ・バラミス侯爵令息の処遇 後編
しおりを挟む貴族らしく表情は変わらないものの、満足げな雰囲気を醸し出す辺境伯。
その様子を盗み見たランスフォード公爵は、
(成る程、これが狙いか……)
と、得心した。
領主には、自分の領地に独自の法を定められる特権がある。
ヴァレンチノ辺境伯領に連れ込んでさえしまえばいいのだ。
――クレイブを裁ける権利を手に入れられるのだから……。
つまり辺境伯は初めから、自分の領土に連れていくチャンスを窺っていたのだろう。
主家の娘であるルイーザを裏切り捨てたクレイブ。
不誠実な元婚約者の彼が、騒動の処罰を受けるため領地内に入ればどうなるか……。
そんなもの、火を見るより明らかだ。
ルイーザは領軍の猛者たちにとって、心から愛する大切なお嬢様であるだけではなく、共に戦う盟友である。
――きっと、彼の仕打ちを許さないはず。
サリーナと出会ってからは露骨に優先順位が変わり、ルイーザを粗雑にあしらったことも更なる怒り招いた。
クレイブにとって辺境伯領での日々は、きっと針のむしろに座るような辛さを味わうはずだ。
(何よりの罰になるだろう)
そう思うランスフォード公爵なのだった。
さすがに国内で王家に次ぐ、二番目の戦力を持つ地を治める領主である。
(全く……一筋縄ではいかない男だ。頼もしくはあるがな……)
今回の調査結果次第では、辺境伯の領土が広がる可能性が出てきている。
隣接しているデーヴィス侯爵の領地のことだ。
彼こそが、隣国派閥を牛耳っていた親玉。
長年、のらりくらりと捜査の手を逃れてきたが、ついに処罰が下る日が来た。
彼の領地は隣国の国境線とも接している、国防の要の場所でもあり、扱いが難しい。
(領主の処刑はまぬかれないとして……爵位降格だけではすまないかもしれない。最悪、領地没収になってもおかしくない……)
残された領地を王家が召し上げてもいい。
しかし、丸ごと抱え込んでは国内の反感を招く可能性もある。
即戦力になりそうで、戦力にも余裕がある有能な貴族となると候補は限られてくる。
ヴァレンチノ辺境伯は、候補の筆頭なのだ。
(さて、どうなることか……)
頭の痛い問題だったが、決着迄には時間を要するだろう。
ランスフォード公爵が深く考え込んでいる間に、議題はロウ伯爵家に移った。
「ロウ伯爵家はどうされますか?」
「そうだな……」
問われた王は、顎に手を当てて考える。
アンジュリーナの実家であるロウ伯爵家は、文官として有名なのだがある問題を抱えていた。
ジョナス・ハーバー伯爵令息との婚姻は、それを解決する糸口になるはずだったのだが……。
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