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第117話 思い通りにはいかない

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「君もよく、耐えてくれた。すまなかったね」

 そして、改めてシルヴィアーナの方へと向き合い、謝ってくれる。


「そんな叔父様……謝罪は不要ですわ。わたくし達が対応出来る範囲を、越えておりましたもの」


 第一王子婚約者とは言え、まだ一介の貴族令嬢でしかない彼女には、黙ってみていることしか出来なかったといっていい。


「そうか。だが君が……君達が理性的で助かったよ」


 そう言って、満足そうに微笑んだ。

 それから、こう続けた。陛下は今回の件、君達の献身に感謝し、決して悪いようにはしないとおっしゃっている、と。


「先に伝えておいてくれと頼まれてね」

「……畏れ多いことですわ」


 公爵を通して王の意向を告げられたシルヴィアーナ達は、軽く頭を下げる。


「ああ、楽にしてくれていい。しかし、覚えておいて欲しいことがあるんだ」

「……まぁ、なんでしょうか?」


 公爵の声のトーンが変わったことに、感情が揺れてしまう。

 知らず識らずの内に、それぞれが固唾をのんで次の言葉を待った。


「……君達の希望通りにいかないこともある、と言うことをね」

「……っ!?」

「まぁ……そう、なんですの」


 やはり、か。

 現実は、優しくない。

 生まれた時から貴族令嬢としての教育を受けてきたからこそわかる……そううまく事が運ばないだろうと。覚悟していたつもりだ。

 だが王弟であるランスフォード公爵の口から直接聞かされるのは、堪えるものがあった。



「……それは、やはり四人全員の婚約破棄は難しい、と言うことでしょうか?」

「そうだね……だが、君達の働きに報いたいと思っているのは本当だよ? 信じて欲しい」


 澄んだ瞳にじっと見つめられた公爵は、言いにくそうだった。

 それでも令嬢達にとって望ましくない結果であろうと、隠すことなく伝えてくれる。

 ゆっくりと柔らかい口調で話す姿からは、シルヴィアーナ達への気遣いも感じられ、何処に感情を持っていけばいいのかと、やるせなさに複雑な気持ちになるのだった。



「今の、三大大国の関係を考えるとね。すんなりとはいかないだろう。薄氷の上に成り立っていると言っていい状態だからね」

「……」


 国王も公爵も情報を元に、自国の有利となるよう私心を捨て動いていても一旦落ちた国力を改善し、成長させることは厳しい。


 帝国の介入を許すことになったあの、大規模なスタンピードさえなければ、この国はこれほど難しい立場に置かれなかったのかもしれない。


 しかし、あの魔物の氾濫は先王の命を奪い、王国を弱体化させた。

 その爪痕は今も残っているのだ。

 あの時、王家の血統魔法持ちが先王以外にもいたお陰で、何とか踏みとどまる事ができたといっていい。


 今後も定期的に発生するであろう魔物の大発生を見据えて、ハワード王国を列強から守るためにも王家の血を残すことを第一に考えなければならない。


 そして、婚姻による貴族派閥の結束と国力増加のチャンスは、どんなことより優先される。

 そう、説明された。




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