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第83話 成竜
しおりを挟む確かにこのままだと、アンドレアの記憶には、自分の竜体は可愛い幼竜の姿で固定されてしまうだろう。恋人には、可愛いよりも格好いいと言われたい彼としては避けたい事態である。
ちゃっかりと両親に誘導されてしまっていることに気づいていない彼は、若干、ソワソワしながら己の愛する半身に問うた。
「……見たい? アンドレア」
「ええ。それは、グランディール様さえよろしければ、是非、拝見したいですけれど……よろしいんですの?」
「うん、いいよ……君がそう望むなら。だから絶対、母上のよりいいっ言わせて見せる。君の記憶を上書きをしてあげるからね?」
金色の瞳の奥に激情を隠しながら、そう宣言した。
「え……あの、よろしくお願いします?」
「うん!」
なぜ彼が、こうまで自分の母親と張り合うようなことを言うのか、アンドレアにはいまいちよく分かっていなかったが、竜の姿を見れるのは大歓迎だったので、分からないままも頷いたのだった。
さて、この国に、ラグナディーンの御子達がいることは秘密だ。しかし竜体は巨大なので、外で変化すれば見つかってしまうだろう。
用心して室内ですることにして、外の湖と繋がっている水の部屋……この神殿内でアンドレアが初めてラグナディーンに会った場所……まで移動してきた。
「じゃあ、アンドレア。よく、見ていて」
「はい、グランディール様」
耳元で囁いてから彼女を離し、部屋の中央まで進んで立ち止まった。
アンドレア達は、部屋の端ギリギリまで下がったところから、人型から竜へと変わるのを見守ることに……。
一度、その場ですうっと深呼吸をしてから目を閉じた。
魔力が揺らぎ、集中している彼の姿が一際大きくなったように見える。
次の瞬間……。
彼のいる地点からパァッと魔力が弾け飛び、そして……。
現れたのは、大きな水色の竜だった。
「あ、れって……」
「うむ。グランディールの成人した姿じゃ。早熟じゃと思うておったが、これはまた立派になったものじゃ」
『ああ、いいね。あれが半身を得て力を増した竜の、真の姿だ……』
青から薄い紫色に輝く水晶のような鱗に、大きな金の瞳。背には一対の美しい翼があり、アンドレアが見つめていることに気がつくと、一度、大きく広げて見せてくれた。
残念ながら室内では羽ばたけないので、その皮膜は既に折り畳まれている。
そして、竜体になってもその額には、アンドレアと揃いの神紋がくっきりと現れていた。確かな絆を感じて嬉しくなる。
幼竜の頃の可愛らしさは跡形もなく消えているが、神々しいまでに優美で完成された姿に暫し見惚れた。なんて美しいんだろう。この若い竜が自分の半身なのだ。
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