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第75話 父親
しおりを挟む「もう、なんて可愛い仕草をするのっ。そんなの私以外に見せちゃダメだよ……」
そう言って、容赦なくギュウギュウと抱きしめられた。
「あぅ。グ、グランディール様。あの、苦しいです」
「私も君が可愛すぎて胸が苦しいよ」
彼の腕をペチペチ叩いて少し離れてくれるようにとお願いしてみたのだが、拘束は緩まず、逆に拗ねたように耳元でそう、熱く囁かれた。
アンドレアも彼と一緒に居られるのは嫌ではないというか、むしろ嬉しいので、強くは拒めない。
それに、ピタリと密着しているこの体勢だと、お互いの体温と鼓動が次第にじんわりと溶け合ってきて、心地よさに一瞬、また我を忘れそうになる……。
『あの~、しゃべってもいいかなっ』
隙あらば二人世界持ち込もうとする息子に焦れて、声をかけたのだが……。
「今はダメ」
すげなく断られた。
「グランディール様!? あの、すみません」
そのやり取りに、また正気に戻ったアンドレアが慌てて謝る。最早、どの意味でドキドキしているのか分からなくなりそうだが、色々と心臓に悪いことには変わりはない。
『はははっ。いいよいいよ、そんなに畏まらなくたって。半身に巡りあったんだ竜は皆、こうなるのは分かっているからね。気にしないで』
「は、はいっ、ご配慮、ありがとうございます」
『うん。ほら、グランディール。そんなに仕舞い込んでないで。君の大事な人の顔くらい、父さんに見せて?』
「嫌です。見せたら減ります」
『いやいや、減るってなに!? ちょっと見るだけだからっ、大丈夫だから、ね!?』
「承服致しかねます」
取り付く暇もないグランディールの言葉を聞き、彼は妻に泣きついた。
『……ラグナ、久しぶりに会う息子が冷たいっ』
「ホホホッ、まあ、ここは譲ってやるのじゃな。落ち着いたらゆっくりと会えばよい、時間はたっぷりある」
さすが母親貫禄というか、孵化したばかりの息子の連れない態度にも動じない。
「それに、そなた様も、実体できちんと嫁御にお会いしたかろう?」
『うん、まあ……それはそうだけどさ』
「……実体?」
なんだかまた、不思議な言葉を聞いたような……本来の姿である竜体のことを指す言葉ではないようだが……?
「そうじゃ。よく見てみやれ。我が半身の体は、うっすらとぼやけておろう?」
「え?」
そう言われて、ジッと彼の人を見てみると……。
「あ、本当ですわ。焦点がぶれているような……」
「うむ。それは、この場所に実体がないからじゃ」
「……まあ、そんな。そうなんですの」
確かに陽炎のような揺らめきが感じられたが、この方の纏う雰囲気から種族までは分からないものの多分、人外なのは間違いないであろう。
その身が発光している状態が通常なのかと思ってみていたのだが、どうやら違ったらしい。
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