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第74話 家族
しおりを挟むグランディールはスッと表情を消し、目を細めて声の主を流し見た。どうやら、半身となったアンドレアとの初めての逢瀬の邪魔をされて、若干、苛立っているらしい。
アンドレアの方はそれどころではないと言うか、夢みる世界から現実に一気に引き戻されて、我に返ったのだが……。
己の衝動的な行動を鑑みて、羞恥のあまり、真っ赤になって撃沈してしまった。
間近で、そんな可愛らしく身悶えている半身をみて、グランディールの荒ぶりそうになっていた気持ちの波が、収まっていく。
愛おしそうに見つめると、額の神紋に触れるだけのキスを落とした。その瞳は優しくて、本当に愛されているとわかるくらいに甘い。
またしても蕩けそうな雰囲気に戻ってしまい、居たたまれなくてオロオロと視線をさ迷わせていると、グッとその腕の中に抱き寄せられてしまう。視線が交わらないことが、気に入らなかったらしい。囲い混むように、腕の中にスッポリと包み込まれた。
ますます密着することになって、更に真っ赤になるアンドレア……。
そんな二人の攻防を面白そうに眺めるラグナディーンの隣には、いつの間にか背の高い一人の男性が立っていた。先程の聞こえてきた声は、この人のものだろうか。
こちらも、彼女と並んで立っていても遜色のない、見惚れるような美貌の持ち主である。
初めて見る顔だと思うが、どなたなのだろうかと彼女が考えている内に、グランディールが咎めるように言った。
「……母上、もう少しお待ちいただきたかったですね?」
「ホホホッ、そなたの気がすむまで待っておったら、日が暮れてしまうわ。それに、今日の日に必ず引き合わせると、アンドレアに約束しておったしの。こちらが先客じゃ」
「……約束?」
「うむ。では紹介しよう。こちらが私の半身で、グランディールの父親である」
『初めまして、可愛らしいお嬢さん。 息子の半身に、これほど早く会えるとは思わなかった。嬉しいよ』
にこやかに微笑みながら、そう言われた。クラクラするような美声に思わず聞き惚れてしまい、つい話を聞き逃しそうになってしまったが、今、とても重要なことを聞かされなかったか……確か……。
「……クランディール様の、お父様?」
『うん、そうだよ』
「……っ!!」
確かにラグナディーンから、孵化の瞬間には現れるので紹介するとは言われていた。
しかし、愛する人の父親との初めての出会いがこんなふやけた状態になっている時だとは……もう、本当にいたたまれない。
「も、申し訳ございませんっ。ご挨拶もせずに、私、とんだ無作法を……」
慌てて頭を下げ、カーテシーをしようとしたのだが、ガッチリと腕が絡み付いているので身動きできない。軽く小首を傾げるだけになってしまった。
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