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第69話 彼女を呼ぶ声

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 ――それは、アンドレアが守護聖獣と正式に契約を交わし、聖女となってから三日目のこと……。

 その日は何故か、朝起きた時から落ち着かなかった。

 胸の辺りがポッと火がともったかのように温かく感じて嬉しかったり、かと思えば何かが欠けているような気がして不安に襲われたりと、常になくざわついていたのだ。

 思い当たる理由もなく、そんな自分に戸惑う。貴族令嬢として育てられたアンドレアは、長年の王子妃教育も相まって感情の抑制には長けていたはずなのに、コントロールが効かなくなっている。


「……この気持ちは一体、何なのかしら。何故、こんなにも胸がドキドキするの?」


 時間が経つにつれ、次第にその相反するような感覚と、自分以外の何かに呼びかけられているような気配を強く感じ、益々混乱してきた。



 それでも何とか書類で溢れかえる神竜の執務室で、忙しく手を動かしていたのだが、胸に溢れる感情の昂りに居ても立っても居られなくなってきた、その時……。


『……』


「え?」


 必死に何かを渇望するような……魂を揺さぶるようなが、響く。

 近くにいたラグナディーンや水の精霊達には聞こえなかったようで、揃って不思議そうに首を傾げられたけれども……それは確かに聞こえたのだ。


『……キテ』


「……っ!? 今の声?」

「どうした?」

「あの、今、何かに『来て』と、呼ばれたような……?」

「はて? 妾には何も聞こえなんだが……その声は確かにそう言うておったかの?」

「は、はい。か細い声でしたが。ハッキリとそこだけ聞き取れましたわ」

「そなたにだけ聞こえる声、か」

「……あっ!?」

 言われてみればそれは、耳から音として捉えられるようなものではなかった。

 傍に来て欲しいと切望するような呼びかけが、直接頭の中に響いて来るような……そんな伝わり方だったのだろう。

 不思議な現象に先程より強く、胸がドキドキしてくる。思わず胸に手を添えて、落ち着こうとぎゅっと押さえた。


『コッチニ、キテ……』


「……あっ、また同じ声が響きましたわ……『コッチニ、キテ』と」

「ふむ。成る程のう……では、行かねばならぬ」

 その言葉を疑うことなく信じ、納得したように頷く神竜。彼女にはもう、その声が誰のものか見当がついているようだった。

 アンドレアにはさっぱり分かず、戸惑う。二度も聞こえたのだ……勘違いと言う事もないと思うが、やはりこれは自分を呼んでいると思っていいのだろうか。心当たりはないが。

「え……ど、どこにですの?」

「繭のある場所へ」

「……まさかっ!?」

「ホホホッ、そのまさかじゃ。妾も驚いたわ」

 呼んでいたのは、幼竜だったと言うのか!?

「覚醒が近いのであろう」

 そう言って立ち上がると、控えていた水の精霊達に自分とアンドレアを幼竜達の元まで運ぶようにと指示を出す。




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