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第57話 半身

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 水の膜は透明ではなく中の様子を窺い知ることはできなかったが、卵型の大きな繭がドクンドクンと脈打っているのが見て取れた。生命の波動を感じることができてホッとする。

 休眠という聞き慣れない竜族の習性には驚いたものの、ラグナディーンによると飲まず食わずの状態が続いても休眠期間中は大丈夫なのだという。

「この繭の中で成長して人型が定着すれば、羽化されて成竜となられるのですね……」

「そうじゃ。なに、もう半月過ぎたからのう、いつ目覚めてもおかしくはない時期になっておる」

「では、あと少しで一の君様達にお会いできるのですね」

 それを聞いたアンドレアが嬉しげに尋ねると、神竜は少し切なげに、子竜たちの入った繭を眺めながら言った。

「うむ、成竜になった我が子らに会えるのは喜ばしいことじゃ。しかしのう……今度はすぐ、伴侶探しの旅に出てしまうからの……」

「まあ……でも、すぐと言っても少しは時間はあるのでしょう?」

「いいや。羽化したその日のうちに巣立ってしまうのじゃ」

「そんなに早く……それではお別れする時間が無いに等しいではありませんか」

「……人間のそなたにはそう感じるであろうのう。じゃが、それが竜というものなのじゃ。それほど己の半身を求める気持ちが強いのよ。妾もそうであったからよく分かる」

 成る程、それが竜の本能と言われれば仕方がないのだが、別れがすぐそこまで来ていると知らされても、突然のこと過ぎて気持ちが追いつかない……。

「……寂しく、なりますわね」

「なに、また半身を連れて戻ってくるのじゃ。それまでの間、暫し待てばよいだけのことよ」



 生まれてから成竜になるまでの成長速度は人間より少し早いくらいでそう変わらないが、羽化すると人間でいうところの二十歳前後……これは竜族が一番強く力を発揮できる状態……に固定される。

 長い時を生きる竜族は、魂を半分だけ持って生まれてくると言われており、残り半分の魂を持つ己の半身を探すことがまず、竜生の目標になるのだという。
 相手は同族とは限らず短命な種族に生まれている可能性もあるらしく、成竜になったら一刻も早く伴侶探しに向かうことは竜族の常識だと教えられた。

 どうやってその半身が分かるのかと問えば、本能で分かることになっているのだとか。そして、自分の半身に出会うと、それぞれの額にお揃いの神紋が現れるので決して間違えることはなく、一生添い遂げるのだと話してくれた。


「まあ、なんて神秘的な……素敵ですわねぇ」

 運命の人が現れたとして婚約破棄されたアンドレアとしては、竜族の絶対に間違うことのないという伴侶の判別方法は羨ましい限りである。

「そのたった一人の相手が同じ時代に生まれてこない時もある。長く探し続ける羽目になる竜もいてのぉ、こればかりは運に任せるしかないのじゃ」

「そんなこともあるのですか。では御子様たちにもその可能性が……お相手が早く見つかるといいですわね」

「うむ。そうじゃな」




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