50 / 128
第50話 誓い
しおりを挟む大神殿は国中に散らばる神殿の最高機関ではあるが、祈りの場であるとともに守護聖獣である神竜様の住まう御座所でもある。
まずは、隣接する孤児院の子供達へと荷馬車いっぱいに詰め込んできた支援物資を渡し、久しぶりの訪問に喜ぶ彼らと暫し交流した後、本殿に向かった。
あらかじめ連絡を入れていたので、出迎えの神官達から熱い歓待を受けた。彼らにしても待ちに待った瞬間なのである。
満面の笑みを浮かべた大神官に付き添われ、近況を話し合いながら、長い廊下を歩いて奥へと進む。
神殿側はもちろん今回の婚約破棄の顛末を知っており、アンドレアは気遣われはしたが、歓迎ムードが隠しきれていない。
聖女としての類稀なる才能を持つ彼女が王子妃になるなど、才能の無駄遣いだと憤慨していた神殿側にとって、今回の件は渡りに船だったのだから……。
奥宮を通り抜け外に出ると、透明度の高い大きな湖が見えてきた。いつ来てみても、かわらずに美しい光景である。
神殿側としては、王家の意向で建前上の聖女候補とされていたアンドレアを、一刻も早く正式な聖女としてしまおうと決めたらしく、またまた王家からの横槍が入っては敵わないとばかりに、早々に儀式を済ませようと決めたらしい。
無駄な寄り道もなく、善は急げとばかりに一直線にこの場所まで連れてこられてしまった。
「もう無いかと思うが念には念をいれんとっ。 あの王家のことじゃし、また邪魔をされてはいかんからなぁ。のう、アンドレアよ」
「まあ、大神官様ったら!」
「フッフォフォッ」
お茶目に片目をつぶっておどけて見せた老人は、早速、その湖の真ん中にある島に立つ大理石で造られた神竜の神殿へと向かうようにと促した。
どうやらここからは、アンドレア一人で行くことになるようだ。
湖に浮かべられた、簡素な造りの小舟に乗り込み、この場所までついて来てくれた専属侍女二人から、神竜様への貢ぎ物が入った袋を受け取ると、一緒に小舟へと乗せた。
――その途端、何もしていないのに、いきなり滑るように水面を走り出した。どうやら魔法が掛けられているらしい。
驚きのあまり思わず声を上げそうになったのを、縁を掴んで必死に飲み込む。
守護聖獣である水竜の神竜様が住まわれる美しい湖の上を、日の光を反射して煌めく飛沫を上げながら飛ぶように走って行く。
ようやく周りを見る余裕ができた頃にはもう、島に着いていた。
……大きい。
目の前には、神竜様が竜体のままでも入れるという大きさの白亜の神殿。
岸辺から見上げていた時には感じなかったが、間近に見るとその巨大さに圧倒される。この神殿の中で正式に聖女としての誓いを立てるのだ。
神竜の神殿の扉は、聖女の資格がないと開けられず、中に入ることが出来ないと聞いている。
多分大丈夫だとは分かっていても、大神殿に来た途端、いきなり正式な聖女となるための儀式をすることになったアンドレアは少し緊張していた。
11
お気に入りに追加
5,769
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい
たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。
王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。
しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
冷血公爵は悪役令嬢を溺愛する
青峰輝楽
恋愛
侯爵令嬢アリアンナは、父侯爵を謀反の罪で処刑され、親友に王太子の婚約者の座を奪われて、追放される事になる。厳寒の雪山にひとりで放り出され、吹雪のなかで意識を失いかけた時、凍てつくような銀の髪の男が現れて言った。「俺のものになるなら助けてやろう」
その言葉にアリアンナは――。(小説家になろうでも掲載しています)
ヒロインは辞退したいと思います。
三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。
「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」
前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】呪われた年下王子の婚約者~王子にはメイドって思われているみたいです~
かのん
恋愛
第一王子の婚約者であった公爵令嬢ローズ。しかし、第一王子が真実の愛とやらに目覚めた為に婚約解消となる。だがしかし、問題はここからであった。
ローズは六歳年下の十歳の第二王子の婚約者となってしまう。しかもその第二王子は何者かの手によって呪いを受けておりさぁ大変。
第二王子はローズをメイドと勘違いし物語はさらにややこしい事に。
ローズと年下殿下は恋愛関係になれるのか。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる