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第42話 捕物
しおりを挟む騎士達の一団がその部屋の前に到着し、近づいていくと、何やら扉越しにも揉めている男女の声が聞こえてくる。
先に駆けつけていた者に話を聞くと、どうやら連行しようとする警備兵に驚き、振り切って逃げたらしいドリー男爵令嬢を庇って成り行きでこの部屋に隠れたはいいものの、どの勢力が自分達を捕まえようとしているのかが分からず、混乱状態に陥っているらしい。
――何をやっているんだ……。
この方達には隠れている最中だという自覚がないのだろうか……その場にいた皆が、呆れにも似たそんな思いを共有した瞬間だった。
とりあえず扉越しに説得を試みるも応じなかったため、上官に許可を取った上で扉を壊して中に押し入ることにした。
「きゃぁぁぁっ!?」
なだれ込んできた騎士達を見て悲鳴を上げた彼女を、その場にいた青年貴族たちがとっさにその背に庇った。
「さあ、第一王子殿下。ドリー男爵令嬢をこちらに渡していただきましょう。彼女には捕縛命令が出ております」
「そ、そんなの嘘よっ!? ロバート様ぁ~、わ、私……怖いわっ。助けてください!」
ヒシッと第一王子にしがみつき、 はらはらと涙を零しながら悲痛な声で訴える。
「ま、待てっ。お前達、捕縛対象をキャメロン公爵令嬢と間違っているのではないか!?」
「そうです! 彼女は何もしていませんし、むしろあの傲慢な公爵令嬢に、散々な目にあわされた被害者なんですよ!? むしろ保護対象ではないのですかっ」
「そうだそうだっ」
興奮して騒いでいる彼らの言い分を、一応は聞いている振りをして、その間に隙を突いて女性騎士達がドリー男爵令嬢をさっさと確保した。
「いやぁ~!?」
「あっ!?」
「ちょっ!?」
「ユーミリア!?」
ごちゃごちゃと騒がしく主張していた彼らも、ユーミリアが捕縛されたことに気づいたようだ。
「待てよっ。何故ユーミリア嬢だけ俺たちから引き離すんだ! 何処へ連れていく気だ!?」
「国王陛下のご命令です、従っていただきましょう」
「痛っ! うぅぅっ……離してよっ。ロバート様ぁ~、この女の人酷いんですぅ。思い切り掴まれて、腕が折れそうなの……」
「……っ! ユーミリアっ。おいっ、彼女は私の婚約者で王子妃になる令嬢なんだ。お前たちが乱暴に扱っていい女性ではないよっ」
「か弱い女性一人に寄ってたかってなんてことをっ。彼女を離してください!」
「……連れて行け」
「ああっ、ロバートさまぁ、助けてください!」
泣きわめくドリー男爵令嬢に女性騎士に命じて、魔力封じの魔道具を装着させて素早く部屋から連れ出した。
「ユーミリア!」
「おい貴様っ、殿下のご指示に逆らうのか!?」
「……陛下のご命令だと申し上げたはずです。……それでも、庇われますか?」
逆らえば貴方達もただではすみませんよという意味を込めて言った。
「……っ! い、いや、悪かった。だが、彼女に乱暴しないでくれ。繊細でか弱い女性なんだ」
「……皆様が大人しくこちらの指示に従ってくださるなら、善処しましょう」
「わ、分かった。皆もいいな?」
「は、はい」
「私も殿下に従います」
――こうしてあっけないほど簡単に、逃走していたドリー男爵令嬢達を取り押さえることに成功したのだった……。
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