34 / 128
第34話 壊れてしまった関係
しおりを挟む――婚約者を放置し、他の女性に浮気した上に冤罪を被せようとなさる方に未練なんて無い筈だった。
でもアンドレアの胸には今、ロバート王子に対する罪悪感と後悔が綯い交ぜになって押し寄せてきている。
もっと殿下の心に寄り添っていれば、こんな結末は迎えなかったかもしれない。そんな思いが消えてくれないのだ。
ユーミリアと出会う前にはもう、二人の関係は儀礼的なものになっていた。
アンドレアの忠告をうっとうしがり、中々話し合いに応じてもらえなくなっていたことからも、どこまで精神を操る作用をもつ可能性が高い、複合魔法への対策が取れたかは分からないけれど……。
もう少しだけ、あと少し待てば殿下も正気に戻られるかもしれない……と様子を伺っている内に、ズルズルと今日まで来てしまったのだ。
――そうして。
たった半年で取り返しのつかない程、二人の距離は開いてしまった。
側妃である母君が、王妃の一族が蔓延る王城で苦労していたのを見続けていたこともあり、出会ったばかりで幼さの残る殿下は将来、弱い立場の人を守りたいという夢を持っていた。
それを実現させるためにも、将来を共に歩む予定のアンドレアに力を貸して欲しいと言ってくれたのだ。
決意を込めた真剣な眼差しで見つめられ、婚約者から必要とされていることを実感できてとても嬉しかった記憶がある。
未来の国王となる弟を影から支えるためにも、出来る限りの準備をしておこうと言っては、今よりずっとよく勉学に励んでいた凛々しい姿も思い出せる。
今思えば、殿下の想いに応えようとして高みを目指し、自分は勿論のこと殿下にも厳しく接し過ぎてしまったのかもしれない。
彼の掲げる理想に向かって必死に走り続けていたため、彼女の心にも余裕がなく、細やかな配慮をすることができなかった。
次々と変わる側近候補の子息達よりはずっと長く一緒にいたのにと、無念な思いが募る。
――王城の中は貴族社会の縮図だ。
見た目は豪奢で美しく、煌びやかに見えていても貴族社会の実情はそんな生易しいものではない。
笑顔の裏に隠された思わせぶりな態度、婉曲的な言葉に隠された辛辣な刺、腹の探り合い、貶しあいが慢性しており、常に気が抜けない。
早くに母を亡くし、愛はあっても忙しくて滅多に会えない父親しか味方がいないという場所で、小さな王子はどれだけ傷つき、隠れて涙したことだろう。
両親を筆頭に二人の兄達からも惜しみなく愛情を注がれ、可愛がられて育ったアンドレアには、その心の闇の全てを推し測ることは難しかった。
側妃の子で第一王子と言う微妙な立場のロバート王子は、そうした汚い大人の世界に物心がつく前から嫌が応にも巻き込まれ、アンドレアと出会った時には孤独な戦いを続けていたのだ。
殿下のお心に寄り添おうと努力したが、彼が徐々に子供らしい純粋さを失い、心が擦り切れて弱っていくのを止めることは出来なかった。
――そうして今夜遂に、しっかりと繋いでいた筈の手を完全に、離してしまうのだ。
13
お気に入りに追加
5,769
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい
たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。
王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。
しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
冷血公爵は悪役令嬢を溺愛する
青峰輝楽
恋愛
侯爵令嬢アリアンナは、父侯爵を謀反の罪で処刑され、親友に王太子の婚約者の座を奪われて、追放される事になる。厳寒の雪山にひとりで放り出され、吹雪のなかで意識を失いかけた時、凍てつくような銀の髪の男が現れて言った。「俺のものになるなら助けてやろう」
その言葉にアリアンナは――。(小説家になろうでも掲載しています)
ヒロインは辞退したいと思います。
三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。
「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」
前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】呪われた年下王子の婚約者~王子にはメイドって思われているみたいです~
かのん
恋愛
第一王子の婚約者であった公爵令嬢ローズ。しかし、第一王子が真実の愛とやらに目覚めた為に婚約解消となる。だがしかし、問題はここからであった。
ローズは六歳年下の十歳の第二王子の婚約者となってしまう。しかもその第二王子は何者かの手によって呪いを受けておりさぁ大変。
第二王子はローズをメイドと勘違いし物語はさらにややこしい事に。
ローズと年下殿下は恋愛関係になれるのか。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる