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第34話 壊れてしまった関係
しおりを挟む――婚約者を放置し、他の女性に浮気した上に冤罪を被せようとなさる方に未練なんて無い筈だった。
でもアンドレアの胸には今、ロバート王子に対する罪悪感と後悔が綯い交ぜになって押し寄せてきている。
もっと殿下の心に寄り添っていれば、こんな結末は迎えなかったかもしれない。そんな思いが消えてくれないのだ。
ユーミリアと出会う前にはもう、二人の関係は儀礼的なものになっていた。
アンドレアの忠告をうっとうしがり、中々話し合いに応じてもらえなくなっていたことからも、どこまで精神を操る作用をもつ可能性が高い、複合魔法への対策が取れたかは分からないけれど……。
もう少しだけ、あと少し待てば殿下も正気に戻られるかもしれない……と様子を伺っている内に、ズルズルと今日まで来てしまったのだ。
――そうして。
たった半年で取り返しのつかない程、二人の距離は開いてしまった。
側妃である母君が、王妃の一族が蔓延る王城で苦労していたのを見続けていたこともあり、出会ったばかりで幼さの残る殿下は将来、弱い立場の人を守りたいという夢を持っていた。
それを実現させるためにも、将来を共に歩む予定のアンドレアに力を貸して欲しいと言ってくれたのだ。
決意を込めた真剣な眼差しで見つめられ、婚約者から必要とされていることを実感できてとても嬉しかった記憶がある。
未来の国王となる弟を影から支えるためにも、出来る限りの準備をしておこうと言っては、今よりずっとよく勉学に励んでいた凛々しい姿も思い出せる。
今思えば、殿下の想いに応えようとして高みを目指し、自分は勿論のこと殿下にも厳しく接し過ぎてしまったのかもしれない。
彼の掲げる理想に向かって必死に走り続けていたため、彼女の心にも余裕がなく、細やかな配慮をすることができなかった。
次々と変わる側近候補の子息達よりはずっと長く一緒にいたのにと、無念な思いが募る。
――王城の中は貴族社会の縮図だ。
見た目は豪奢で美しく、煌びやかに見えていても貴族社会の実情はそんな生易しいものではない。
笑顔の裏に隠された思わせぶりな態度、婉曲的な言葉に隠された辛辣な刺、腹の探り合い、貶しあいが慢性しており、常に気が抜けない。
早くに母を亡くし、愛はあっても忙しくて滅多に会えない父親しか味方がいないという場所で、小さな王子はどれだけ傷つき、隠れて涙したことだろう。
両親を筆頭に二人の兄達からも惜しみなく愛情を注がれ、可愛がられて育ったアンドレアには、その心の闇の全てを推し測ることは難しかった。
側妃の子で第一王子と言う微妙な立場のロバート王子は、そうした汚い大人の世界に物心がつく前から嫌が応にも巻き込まれ、アンドレアと出会った時には孤独な戦いを続けていたのだ。
殿下のお心に寄り添おうと努力したが、彼が徐々に子供らしい純粋さを失い、心が擦り切れて弱っていくのを止めることは出来なかった。
――そうして今夜遂に、しっかりと繋いでいた筈の手を完全に、離してしまうのだ。
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