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第32話 慢心
しおりを挟む「でもジェフリー兄様、複合魔法って確か、能力値や魔力量などが優れた術師でないと制御も発現も難しい、と。以前、そうお伺いしていたように記憶しておりますが……?」
「ああ、よく覚えていたね。それは一般的な知識なんだ。間違っていないよ。ただ稀に、魔術のセンスだけは高かったり、ついうっかりというか偶然にも創造できてしまうという、強運の持ち主もいるんだ」
「……成る程。確かに彼女、運は良さそうだ。平民から貴族に引き上げられた事といい、稀少な聖属性の持ち主である事といい、ね」
「そうですわね」
「うん。まあ、結果だけみれば力に溺れてしまった感はあるけれど……」
「ええ。慢心さえしなければ、彼女の人生はもっと幸あるものになっていたと私も思いますわ……」
常に殿方を複数侍らせては愛を囁かれ、少しねだれば高価な貢ぎ物をされる。
不作法を窘める貴族がいれば、相手を責め立て守ってくれる。
そんな生活を続けている内に、つけあがっていったに違いない。
自分がこの国で一番な存在になれると。公爵家など恐るるに足りぬ存在だと。
――この厳格な階級社会で、勘違いも甚はなはだしい。
ぬるま湯に浸かり過ぎて、引き際の判断を誤ったようね?
「ドリー男爵令嬢の場合は、聖魔法の他にも水魔法を使えると資料にあった。この二つは浄化系の魔力を持つ。何らかの作用で、洗脳魔法のようなものを作り上げたとしても不思議じゃない」
一般的に、聖魔法で出来る事と言えば回復や治癒、補助などが上げられる。
彼女が疑われているような、人心を煽動し操作するという洗脳に近いことが可能なのかは分かっていない。それは本来、闇魔法の領域だと言われているからだ。
聖魔法と闇魔法は同時に習得できないことから、彼女が闇魔法を使えるという可能性は消える。
というわけでユーミリアの場合、聖魔法以外の適性があったために聖属性そのものの純度は低いものの、そこを水魔法との複合魔法で補ったのではないか、ということらしい。
「はぁ。稀少な聖属性持ちで魔術のセンスもありそうな子だというのに……もったいないな」
「そうですわね、能力の無駄遣いですわ……」
「本当、残念な子だよねぇ。ただ、普通に生きるだけでも十分、幸せになれたというのに……」
――聖属性の素質を持つ者はいるが、どこの国でも中々数が増えなくて、困っているというのに……。
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