上 下
294 / 308
第一章 辺境の町

第198話 決心

しおりを挟む
 

「よかったな、ローザ」

 工房を出た途端、ソッと声をかけてくれたラグナード。

 たくさん魔法を使って体は疲れているけど、心残りがなくなって気持ちは晴れている。

「うん、ラグナードのおかげだよ。時間を作ってくれてありがとう」

 改めて言うのはちょっと恥ずかしいけれど、お礼の言葉はちゃんと口に出して伝えなきゃと頑張って告げたらニヤっと笑って、軽く頷いてくれた。イケメンってどんな表情をしても格好いいんですねっ。

「私、この町すごく好き。親方も夢見亭の女将さんも、エドさんやマールさんも、勿論シルエラさんも……皆、良い人ばっかりだ」

「……そう、だな。人族にもいい人がたくさんいる。だけど、それでも俺達が長寿種族な以上、最低限の用心はしとかないといけない」

 ラグナードが真剣な顔になって言う。

「本人が善良で全くその気はなくとも、狡猾な者の手に掛かればどうなるか……ローザだって、人族を嫌いになりたくないだろう?」

「……それは、親しくなった人でも信用し過ぎるなってこと?」

「ああ、そうだ。優しい彼らを憎まずに済むように、これからもいい隣人でいられるように、慎重に行動しよう……ここは人の町で、俺達の町じゃないんだから」

 あぁぁぁっ、彼のフサフサした素敵な耳と尻尾が垂れ気味ですね……すみません、私が心配かけちゃったせいで……。

「……うん、そうだよね。分かった」

 私って、今はエルフだもんね。元が人間だったせいか、忠告されていてもすぐ信用しちゃうんだよね……だから、ラグナードがこうして直接言葉にして忠告してくれたんだと思う。

 勿論、彼らが信用に値しないっていう訳ではないのはラグナードが言った通りで。

 ただ、関わる人が多くなればなるほど、悪意を持つ人との繋がりができる可能性も高くなるし、情報が漏れる危険性も上がる。意図せず、私たちにとって不利な情報を暴露してしまう事もあるだろう。

 日本で暮らしていたら、こんな問題に直面することはあまりなかったはず。でもこれが、この世界で生きていく日常になるんだよね。そうと思うと、ちょっと凹むなぁ……。

 ただ、ラグナードが言うように、自分達が標的にさらされる危険が常にあるってことを忘れちゃいけない。

 彼らを悪意に巻き込まないためにも、人族全体を憎まずにいられるようにするためにも、ちゃんと自衛しよう。

「気を付けます。でも私、またやらかすかもしれない。その時は教えてくれるとうれしい」

「フッ、仕方ないな。面倒みてやるよ」

「はい、お願いします!」

 無自覚に色々やらかしてて、自分で自分が信用できないからね。本当、すみません。

 苦笑しながらも引き受けてくれたラグナードに頭を下げながら、もう一度、気を引き締めようと決心したのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

「……あなた誰?」自殺を図った妻が目覚めた時、彼女は夫である僕を見てそう言った

Kouei
恋愛
大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った妻。 侍女の発見が早かったため一命を取り留めたが、 4日間意識不明の状態が続いた。 5日目に意識を取り戻し、安心したのもつかの間。 「……あなた誰?」 目覚めた妻は僕と過ごした三年間の記憶を全て忘れていた。 僕との事だけを…… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。 待ってましたッ! 喜んで! なんなら物理的な距離でも良いですよ? 乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。  あれ? どうしてこうなった?  頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。 ××× 取扱説明事項〜▲▲▲ 作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+ 皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。 9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ⁠(⁠*゚⁠ー゚⁠*⁠)⁠ノ

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

えっと、幼馴染が私の婚約者と朝チュンしました。ドン引きなんですけど……

百谷シカ
恋愛
カメロン侯爵家で開かれた舞踏会。 楽しい夜が明けて、うららかな朝、幼馴染モイラの部屋を訪ねたら…… 「えっ!?」 「え?」 「あ」 モイラのベッドに、私の婚約者レニー・ストックウィンが寝ていた。 ふたりとも裸で、衣服が散乱している酷い状態。 「どういう事なの!?」 楽しかった舞踏会も台無し。 しかも、モイラの部屋で泣き喚く私を、モイラとレニーが宥める始末。 「触らないで! 気持ち悪い!!」 その瞬間、私は幼馴染と婚約者を失ったのだと気づいた。 愛していたはずのふたりは、裏切り者だ。 私は部屋を飛び出した。 そして、少し頭を冷やそうと散歩に出て、美しい橋でたそがれていた時。 「待て待て待てぇッ!!」 人生を悲観し絶望のあまり人生の幕を引こうとしている……と勘違いされたらしい。 髪を振り乱し突進してくるのは、恋多き貴公子と噂の麗しいアスター伯爵だった。 「早まるな! オリヴィア・レンフィールド!!」 「!?」 私は、とりあえず猛ダッシュで逃げた。 だって、失恋したばかりの私には、刺激が強すぎる人だったから…… ♡内気な傷心令嬢とフェロモン伯爵の優しいラブストーリー♡

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...