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第一章 辺境の町
第198話 決心
しおりを挟む「よかったな、ローザ」
工房を出た途端、ソッと声をかけてくれたラグナード。
たくさん魔法を使って体は疲れているけど、心残りがなくなって気持ちは晴れている。
「うん、ラグナードのおかげだよ。時間を作ってくれてありがとう」
改めて言うのはちょっと恥ずかしいけれど、お礼の言葉はちゃんと口に出して伝えなきゃと頑張って告げたらニヤっと笑って、軽く頷いてくれた。イケメンってどんな表情をしても格好いいんですねっ。
「私、この町すごく好き。親方も夢見亭の女将さんも、エドさんやマールさんも、勿論シルエラさんも……皆、良い人ばっかりだ」
「……そう、だな。人族にもいい人がたくさんいる。だけど、それでも俺達が長寿種族な以上、最低限の用心はしとかないといけない」
ラグナードが真剣な顔になって言う。
「本人が善良で全くその気はなくとも、狡猾な者の手に掛かればどうなるか……ローザだって、人族を嫌いになりたくないだろう?」
「……それは、親しくなった人でも信用し過ぎるなってこと?」
「ああ、そうだ。優しい彼らを憎まずに済むように、これからもいい隣人でいられるように、慎重に行動しよう……ここは人の町で、俺達の町じゃないんだから」
あぁぁぁっ、彼のフサフサした素敵な耳と尻尾が垂れ気味ですね……すみません、私が心配かけちゃったせいで……。
「……うん、そうだよね。分かった」
私って、今はエルフだもんね。元が人間だったせいか、忠告されていてもすぐ信用しちゃうんだよね……だから、ラグナードがこうして直接言葉にして忠告してくれたんだと思う。
勿論、彼らが信用に値しないっていう訳ではないのはラグナードが言った通りで。
ただ、関わる人が多くなればなるほど、悪意を持つ人との繋がりができる可能性も高くなるし、情報が漏れる危険性も上がる。意図せず、私たちにとって不利な情報を暴露してしまう事もあるだろう。
日本で暮らしていたら、こんな問題に直面することはあまりなかったはず。でもこれが、この世界で生きていく日常になるんだよね。そうと思うと、ちょっと凹むなぁ……。
ただ、ラグナードが言うように、自分達が標的にさらされる危険が常にあるってことを忘れちゃいけない。
彼らを悪意に巻き込まないためにも、人族全体を憎まずにいられるようにするためにも、ちゃんと自衛しよう。
「気を付けます。でも私、またやらかすかもしれない。その時は教えてくれるとうれしい」
「フッ、仕方ないな。面倒みてやるよ」
「はい、お願いします!」
無自覚に色々やらかしてて、自分で自分が信用できないからね。本当、すみません。
苦笑しながらも引き受けてくれたラグナードに頭を下げながら、もう一度、気を引き締めようと決心したのだった。
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