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第一章 辺境の町

第38話 異世界の料理、とは……

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 いやはや、王道のメシマズ展開を危惧して『料理』スキル取ったけどあっという間に無駄スキルになってしまった……。
『解体』スキルとどっちにするかすごく迷ったんだよね、あの時。ちょっと残念! だけどおいしいものが毎日食べられるのはとっても幸せだからよしとしよう!

 その料理上手な女将さんは夕食時に予約しておけば、宿泊客に昼食のお弁当を作ってくれるらしい。
 今日のは、パンの実を茹でて潰してマッシュポテト風にしたやつを肉で巻いて、仕上げに葉っぱで包んだだけの簡単なものだったそうだけど、聞いてるだけで美味しそうなんですけどっ。

 お値段なんと銅貨2枚、とってもお安い! 二百円ぐらいってことですよ!
 けど、今の私には、それすらない……。そのちょっとも持ってないんだよ、無一文だよ……か、悲しい。

 う、うううっ、明日こそは食べてやる!



――さて、なんでこんな事をダラダラ喋っているかと言うとですね、あれなんですよ、とっても残念なお知らせがあるからなんですよ……。 

 先ほど大絶賛させて頂いた具だくさんの美味しいスープ。

 あれ、メインの食材は、なんとスモール・ワームという魔物だったんですよ……。

 ……昼間、ギルドで聞いた、でっかいイモムシの、たっぷり入ったスープ。

 もう、た、食べっちゃった……おぇ。

 嘘でしょ!? 吐きそうなんですけど!

 昆虫食とか本当勘弁して……いや厳密には魔物だから昆虫ではないかもだけどそういう問題じゃなくってね!?


 思わず口を押さえて涙ぐんでしまったのは許してほしい……。

「泣くほど懐かしかったのかい。故郷の味だもんねぇ。そんなに泣いて。よし分かった。おばちゃんに任せときな! また作ってやるよ、何なら持ち込みしてくれてもいいから!」

 これがエルフの郷土料理とか信じたくない~。エルフの好物が昆虫食だったなんて衝撃的過ぎる……。
 確かに栄養豊富だし食材としてとっても優秀なのは分かるよ、不本意だけどとっても美味しかったしねっ。でも食わず嫌いと言われようが苦手なものは苦手なんだよ~。一度、集落とか訪ねてみたかったんだけどもう行かない……。

「あんた、冒険始めたばっかりなんだろ? だったらスモール・ワームの強制討伐依頼受けるときにさ、余分に採ってきてくれたら直接買い取ってまた作ってあげる!」

 私が衝撃の真実を知って呆然としている間に、女将さんはなんかいい感じに勝手に勘違いしてくれていってる。いい人。
 でも今はその勘違いがとっても辛いよおばちゃん……。



 それから止める間もなく私を元気付けようとして、スモール・ワームの上手な素材の活かし方なんかを内緒だよって言いながらこっそり教えてくれたんだ……。

 熱を加えるとトロトロに溶けていくらしく、コクと旨味をひき出すにはこの時の火加減が特に難しいらしい。

 と言うことはつまり、あの濃厚なスープの正体って、と、溶け出した、奴の肉体とか体液とかその他もろもろの全部まるごとってわけで……おぇ。

 生々しくてやっぱり泣きそうになった。

 もういいよわかったよおばちゃん十分だよ、気持ちだけはとっても嬉しいよ……。



 なんか訂正する気力もなくなって、もうただひたすら曖昧に頷いておいた。

 最後まで素材が何かは知らずにいたかったよ、切実に!

 あんなに美味しかったのに、最高の一品だったのに、詐欺だ~!




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