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第一章 辺境の町
第168話 サイレントキラー・プランツ
しおりを挟む『索敵』は彼に任せ、目の前に来るであろう敵に集中する。
この中途半端に待っている時間って言うのが落ち着かないんだよね……ドキドキするなぁもう。
樹木に潜まれて上から奇襲されることがないようにと、比較的頭上近くに枝がない場所を選び、垂れ下がって邪魔な蔓なども切り落としておいた。これなら、三人で動き回るだけの余裕はありそう。
ラグナードが後方に下がり、一番前にリノが出て来て半剣を構えて待つ。
私もいつ奴らが現れてもいいように、魔法を放つ準備をしてその斜め後ろに立った。
「……来たな」
『触覚強化』された耳が、囁くように呟かれた彼の言葉をしっかりと拾った。
「どの方向が先?」
「まずは右側」
とヒソヒソ話していたところで、気配が変わったと言うか、奥からこっちに向かってくる微かな音が聞こえてきた。まだ、乱立する木々に隠れて直接見ることは出来ないけど……もう近い。
「準備はいいか。今からお目当ての素材が群れをなして来るぞ」
「うん、大丈夫。まずは魔法で先制して止める」
「ふふっ、お出迎えの準備はバッチリです」
二人して了承を示し、右前方に注意を向けた。
サイレントキラー・プランツは、フォレスト・ファンガスと比べるとずっと足が速いと聞いている。
魔物化した足……元は根だった細く長い触手を、蛇が這うようにスルスルと動かしては、森の中を滑るように移動してくるらしい。
もう、視界に入るはず。
ラグナードに指示された方角へと、感覚を研ぎ澄ますイメージで『聴覚強化』と『視覚強化』スキルを使って探していると……。
う~ん?
あれ、今の……。
あ、見えた!
前方の巨木の陰、木々の隙間辺りで微かに草が動いたのが分かった。
よしよし、本体はステルス化していても向こうも移動中なら見破る事が出来る。これなら大丈夫そう。
とにかくまずは当てさえすればいいんだ。
損傷が大きいほど擬態も解け安いと教えて貰ったので、精度は気にしない。
魔草が少しでも早く可視化できるよう、どの部分でもいいから魔法で切ってしまおう。
草音を頼りにレベル2の風魔法を放つ。
『風刀』!
シュパっと軽い音を立てて、奴がいるであろう草薮付近に魔法が当たる。
巻き込まれた草も含め、刈り取られた魔草が宙を舞った。
うんうん、私も地味に成長してるね。前より確実に技の威力が増しているっ。
着弾した箇所を見ると、サイレントキラー・プランツの姿がちゃんと露わになっている。成功だ。
蠢いているのをよく見ると、どうやら二体いたらしい。動いている姿は、なんというか色彩が色彩だけにグロテスクだなぁ。それにさっきの個体より大きい……と言うか長い?
その細長い身体を使って、すぐに突っ込んでくる。
とはいえ、まだ数も少ないので心配する必要も無さそうだ。
抜き身の半剣を構えて待ち構えていたリノが、スッと横に動いて触手をかわした。
一歩ずれるだけの最少の動作で間合いを外すと、その隙に素早く横凪ぎに剣を振り払う。
更に触手の数が減り、根元まで近づき安くなった。後は次の一撃で、胴体と触手を切り離すだけ。
危なげない手つきで半剣を操り、止めを刺す。
魔物化した部分を切り離された二体は、パタリと動きを止めた。
こうしてサイレントキラー・プランツとの初戦は、二人の連携が上手く行き、危なげなく倒しきることが出来た。
その後も息つく間もなく、音や魔力に惹かれて次から次へと集まって来るサイレントキラー・プランツ達。
際限なく感じるけど、焦らないことを肝に銘じて一体ずつ着実に倒していった。
奴らの強さは想定内だからいいんだけど、何しろ体色変化の特性を武器に背景に溶け込み過ぎているので、初動が見つけにくく戦い辛い。
その上、仲間意識でもあるのか、あるいは北の森の中では協力しないと生き残れないほど弱いからなのか、たまに連携して襲いかかってくる個体もあって油断がならない。
――なんというか、この世界の植物って全体的に賢すぎないですかね? その内喋りだしそう……。
パッと見たその瞬間に動いてなければ、リノには全く区別がつかないし、魔物化したものは私の『索敵』レベルでは反応が鈍く接近を許しやすい。集団で来られると死角に入られそうで怖いんだよね。
全方向を常にじーっと見張っているという訳にもいかないし、ちょっとこれはヤバいかも?
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