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第一章 辺境の町

第50話 パンの実

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 ――さてと。

 お金も入った事だし、とりあえず昼食を買おう!

 あのパンの実を売ってるおじさんの屋台、今日出てるかな? ギルドからも近いんだよね、あそこ。

 ……あ、いたいた、昨日と同じ場所だ。

 バタつきパンのいい匂いがするっ。

「おじさん、約束通り買いに来たよ!」

「おっ、あの時のねーちゃんか! いらっしゃい!」

 昨日はお金がなくて買えなかった、おじさんおすすめの美味しいパンの実二つと果実水のセットを買う。これで銅貨一枚。本当に安くて助かります。

 お昼は様子見がてら、東の草原で食べようと思っているので、果実水は手持ちの水袋に入れてもらった。

「ありがとよっ。また寄ってくれよな!」

「うんっ、またね」



 それから気になってた、もうひとつのパンの実……屋台の隣の街路樹に生ってるやつ。

 手を伸ばして食べ頃のを二、三個もいでみた。どんな味がするのか、一度食べ比べてみたかったんだよね。これも昼食にいただこう。



 領主様のご厚意で、この町にいる人なら住民以外にも平等に食べる権利のあるパンの実……。
 施しを受けた人には一つの義務が発生する。完熟した実が他にあった場合は教会に納めに行くというものである。
 こうして間接的に収穫のお手伝いをすることで、一方的な施しにならないところがいい。
 納められたパンの実は、収穫できない時期に備えて備蓄されるので、何時でも教会でその恩恵を受けられ飢えを防げる仕組みだ。
 これはエドさんが教えてくれたんだけど、新人冒険者の内はあまり稼げないので、一度はこの救済システムにお世話になる人が多いらしい。
 そして、その時のお礼と今後お世話になるであろう後輩の為にと、冒険中にパンの樹を見つけたら収穫して教会に納めるのが暗黙の了解となっているんだとか。
 勿論、全員がその趣旨に賛同している訳ではないし、実際は一部の余裕がある良心的な冒険者が自主的にやっているだけらしいけど。でもそれを聞いて人の優しさにちょっと感動したよね……いい話だなぁ。



 ――という訳なので、私もちょっと余分に採っておいて袋にしまった。後で必ず届けに行こう。

 パンの実だけだと物足りないので、近くの屋台で串焼肉も買う事にした。
 食欲を刺激するいい匂いがしていたんだ。ついつい塩とタレ、それぞれ一本ずつ買っちゃった。とっても美味しそうっ。

 結構、量があってずしりと重いけど食べきれるかなぁ?

 ……お腹が空いている時の買い物って危険だ。少し買いすぎちゃったかもしれない……。




 ――昼食はたっぷり確保したので早速、東門へ向かう。

 屋台が出ている広場からだと、割りと近くてすぐ門に着いたけど、こっちは北門と違い、結構混んでいる。

 町から出るときには身分証の提示は必要ないのでそのまま通れたけど、帰りは順番待ちしないと駄目かもね。




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