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第7話 突っ込みが追いつかない
しおりを挟む聞き終わった二人は揃って深いため息をついた。
実は昨夜、一緒に行った連中が慌てて帰ってきて仮面舞踏会での珍事を伝えてくれていたのだ。
驚きはしたものの、大体のことは把握済なので、あらましは知っていたし覚悟もできていた。
しかし、当事者である本人の口から聞くとまた違うものだ。
より破壊力がすごい。
少し目を離した隙に、雲の上の方々相手になんてことしているんだと言いたい。
「お前は……もうちょっとこう穏便な、貴族令嬢らしい振る舞いは出来なかったのかい? いつも外ではちゃんと猫を被りなさい、と言っているだろう?」
「うっ」
痛いところを突かれた彼女は言葉に詰まる。
父から残念な子をみる目で見られたが、兄はそれどころではないようだ。
「いや、そこなの父さん? もっと他にあるでしょっ。せっかく貴族に成り上がった我が家を速攻で潰すつもりなのか、とか!?」
「まあまあ、サヴィル」
父が宥めようとしたが逆効果だったらしく、まあまあじゃありませんっ、と更にヒートアップしてしまった。
「それにイリーナ様って言ったらあの才女で有名なルフィルオーネ公爵家のご令嬢しか考えられないし、そんなイリーナ様の婚約者って言ったらあのアホで有名なアレクシス第三王子殿下しかいないじゃないですかっ。リリィは思いっきりバカ呼ばわりして怒鳴りつけちゃったみたいだけどっ。大問題だよね!?」
「これ……儂があえて触れずにいたことを言うでない」
「いやいやそこは見過ごしちゃいけないとこでしょうが!」
兄の突っ込みが炸裂しているけど、今さらだと思う。
まあまあのポアロさんって言われる、ことなかれ主義の父に言ってものらりくらりとかわされるだけだ。
我が家は、商売も社交も何もかもが、母親でもっている家なんだから。
まぁ、彼女も彼女でやり過ぎる傾向があるので、そこを父が補っている感じか……案外、バランスのとれた良い夫婦なのかもしれない。
「はぁ。なに言っても暖簾に腕押し状態なんだから、父さんは……」
一通り押し問答を繰り広げてからガクリと肩を落とす兄を横目に、リリアナは全力で父の思惑に乗っかることにした。
でないと説教が長くなるからね!
「いや、貴族らしくは無理でしょ。私、礼法の先生にもまだまだですって言われてるんだし」
「そう、なのか?」
「そうなんですよ、父さん。貴族年鑑の暗記とダンスの習得以外は壊滅的なんですから!」
一瞬で立ち直ったらしい兄が、すかさず彼女の淑女教育の成果を暴露する。
微妙に話題を逸らされたことに気づいていないようだが、さすが普段からこの父と妹の相手をしているだけあって打たれ強いというべきなのか?
へこたれないのが彼の長所なのである。
「仕方ないじゃない。貴族令嬢になってまだ五年なんだもん」
「もう五年だろっ。それだけあれば十分過ぎるだろうがっ」
「私にとってはまだ五年で十分じゃなんですぅっ」
「リリアナ!」
「まあまあ二人共、そのくらいにしておきなさい」
「ですが父さんっ」
「ほら、お転婆なリリィに常におしとやかな貴族令嬢を求めるのもちょっとな……酷だし」
それに元気で明るく、ちょっぴりドジな娘の、ありのままの姿を好ましく思っている男爵は、淑女教育で彼女らしさが消え、美しい生き人形のようになってしまうのも嫌だったのだ。
よそ様にバレない程度に外面を整えてくれたらいい。
――そう、彼女の兄のように……。
と常々思っていたのだが何故かすぐ、同じように被った猫が妹の方だけ剥がれてしまうのが不思議だった。
「そうそう」
「そうそうじゃないっ。父さんもリリィを甘やかし過ぎなんですよ。そしてお前は反省が足りない!」
「は、はいっ。すみません!」
また怒られた。
でもこんな事でへこたれるリリアナではない。
にっこり笑って胸を張り、いかに上手く誤魔化せたかをアピールし出した。
さすがは兄妹、彼女も打たれ強いというか、へこたれなさでは負けていない。
「でもね、仮面で顔は見えていないし、運よく鬘も被っていたからバレていないはず。元々、あんな大事な場面で人違いをする方だしね。セーフだと思うの!」
「……はぁ。お前はまったく、能天気なもんだ」
僕は胃が痛い、と言って頭を抱える兄。
そこなら頭痛だろって思ったが、勿論口には出さない。
――たぶん、もっと怒らせそうな気がしたので……。
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