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素直な心 その2

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 なんでそんなに、甘い笑顔で言うんだろう。
 ドギマギしながら料理をつつく。
 え?
 何聞こう?
 いざ何が聞きたいかと言われると、彼女とか好きな人はとか、何故か咄嗟にそんなことばかり浮かんできて、何か違う言葉を掴みとる。

「ご両親は? いつから一人で住んでるの?」

 瞳が大きく見開かれた後、思案するように揺れる。

「親は、一緒に住んでないって言ったけど……正確には亡くなったんだ。だからあの家は俺の家になって……それからは、一人で住んでるよ」

「あ……」

「もう何年も前だし、祖父母は元気で時々様子を見にきてくれる。だから気にしないで」

「でも……ごめん」

 廉くんのこと何もしらない。

 そう思って、なんてことを突然聞いてしまったんだろう。

「気にしないで。……ただ、桜が、短い間でも一緒にいて、食事を作ってくれてすごく嬉しかった。朝食の香りで目が覚めるなんて、何年振りかわからなかったから」

「今までの彼女、とかは?」

 ふるふると首を振る。

「家で料理するような、深い付き合いしてきてないや」

 ははは、と渇いた声で、困ったような顔で笑う。
 今まで何人くらいと付き合ったのとか、最後に恋人いたのはいつかと聞けばこちらの事はゲームでのチャットから把握されていたり、好きな色は、血液型は、そんな定番のことを聞いて行った。と、遠くを見るようにしていた視線がピタリと止まる。

「あ!週末、祭りあるって。桜、一緒に行かない?」
「お祭り?」

 そういえばそろそろ、毎年駅前で開催されるお祭りの季節だった気がする。
 檸檬くんの視線を辿って振り返れば、カフェのレジにポスターが貼られている。

「行くーー!」






「桜、今日はご機嫌だね?」

 会社の廊下を歩いているだけなのに、お疲れーと挨拶を交わしながら翠ちゃんにそう声をかけられる。

「え? そ、そうかな?」
「なんか良い事でもあった?」

 周りをキョロキョロ見回し、翠ちゃんの耳にこそっと話す。

『週末、檸檬くんとお祭り行くことになったんだ』
『おぉーー! 当然、浴衣でしょ!?』

 報告楽しみにしてる、っとぽんぽん肩を叩いて、翠ちゃんは去っていった。
 浴衣かぁーーーー。




 あっという間に週末がやってきた。
 お昼から開催されるお祭りに、まだ明るい16時合流で待ち合わせた。
 だ、大丈夫かな。
 首の後ろを軽く撫でる。久々にこんな格好したし、髪はフルアップにしてきた。き、気合い入り過ぎてると思われないかな。

「やっばいあの人かっこよ」
「尊いーーっ」

 声のする方を向くと、檸檬くんが歩いてきてーー

「桜ーー」

 紺色の袖から前腕が覗く。

「お待たせ!」
「わ、私も今きたところーーれ、廉くん、浴衣似合うねーー」

 そう、檸檬くんは男性用の浴衣姿で現れた。髪型もいつものように顔を隠すようにはしておらず、伊達メガネもなし、雪駄せったまで履いている。

「ありがとう。そういう桜こそーー。浴衣姿、かわいい」

「! あ、ありがとう……」

 そう、結局私も浴衣を着てきた。
 最後に着たのなんて何年前だろう。
 わざわざ新調までしてしまったが、着てきて良かった。
「行こっか。ーー混んでるから、手」

 そう言って差し出された、少し骨ばったスラリとした指にそっと手を添えた。
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