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帰宅

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 ジーーーーーー。

「桜? 俺、顔に何かついてる?」

 ソファーでテレビをつけようとしていた檸檬くんの顔を、気付けば洗い物をしながら不躾に眺めてしまっていた。

「はっ!! ううん! 何でもないの!」
「口で“はっ“っていう人初めて見た」

 困ったように彼は笑う。
 食器を洗う手を慌てて動かす。
 あれーー? 好きってどんな気持ちだったっけ?


◇◇◇


 気がつけば、金曜日になっていた。残業で遅くなった会社の外では、雨が降っている。
「あ゛ーー。傘持って来てないや……」

 あれからゴールドさん、いや、将と会うこともなく、今週末で居候も終わり。
 最後にご飯くらい、ちゃんと作ってお礼したかったな。
 雨の空を見上げ、そんなことを考えながら立ち尽くす。


 突如、水溜りの跳ねる音が近づいてきた。

「桜ーー」

 そこには、傘を片手に走ってくる廉くんが。

「えっ!? なんで!?」
「帰ったら雨降ってきたから。桜、俺ん家来た時傘もって来なかったの思い出して。残業だったって連絡見たから、迎えに来た」

 帰ろう、と傘を差し出してきてはたりと気付く。

「しまった……。一本しか持ってこなかった」

 車で来ればよかった、とかぶつぶつと呟く。
 その姿に何だか嬉しくなる。

「ありがとう。帰ろう!」

 遠慮がちに傘に入って歩くと、濡れるからと引き寄せられる。
 わずかに肩に触れる体温に、ドキドキしながら、誤魔化すように無駄話をしながら帰る。
 彼の方が濡れていたことに、帰ってから気付いた。




 リビングに入ると、食べ物のいい匂いがする。
「わ、生姜焼き??」
「うん。作ってみた。って言っても市販のタレ、肉にかけて焼いただけだけど」

 サラダにトマト、お椀まである。

「ちょっと頑張ってみた! って…サラダも買ったやつだけどな。桜と、一緒に食事したいと思って」

 二人で食卓についた。

「ありがとう廉くん……。居候させてもらってるのにご飯の用意まで。明日は、最後にハンバーグでも作ろうかな!」
「お、ハンバーグまた食べたいと思ってた。ってか、明日帰るの?」

「うん。檸檬くん土日用事とかある……でしょ? なるべく、明日の朝帰ろうかと思ってたんだけど……ほ、ほら、車も全然動かしてなくて心配だし!」

「そっか……。寂しくなるな」

 そう、寂し気に呟くと、廉くんは黙ってしまった。



 次の日の朝、早くから起きてハンバーグをこねる。少し多めに作って、焼いて冷凍しておく。
 ポテトサラダも多めに作って、タッパーに入れておいた。他にも、つまめるものを作り置きしておく。

「あれ……はよっ。休みなのにめちゃくちゃ早いね……」

 そう言って目元を押さえながら檸檬くんが起きてきたのは、7時。平日なら起きている時間でも、休みとなると違うのだろう。

「おはよう。ハンバーグ、できてるよ」

 顔を洗ってなお、ぼーっとする檸檬くんが覚醒するのを待って、タッパー等説明していく。
 マスキングテープで大体の消費期限を書いて“この日までに食べ切ってね”と指示をする。

「すごっ。え? いつの間にこんな作ったの?魔法?」
「へへーん。一人暮らし社会人女子を舐めてもらっちゃ困りますね」

 自慢げにふんぞり帰った。休みの日に作り置きしておかないと、仕事して気力がない日、残業で遅くなった日、コンビニ飯になってしまうからこのくらいはルーティン内だ。

 一緒に朝食には少し重いハンバーグを、美味しい、美味しいと食べて、檸檬くんに送ってもらって家まで帰った。

「1週間お世話になりました」

 久しぶりの我が家、玄関ドアの前で深々と頭を下げる。
「いやいや、こちらこそ、久しぶりにまともな食生活送った気がする。ありがとう桜」

 また何かあったらいつでも連絡して、とあっさりと別れた。

「ハァーーーーーーーー」

 ドサリとベッドに横たわると、少し咳き込む。心なしか埃っぽい。
「まずは掃除からかな……」

 誰ともなしに呟くと、ピンポーンと突如チャイムが鳴る。
 檸檬くんかなーー?
 何か、忘れ物したっけ?

 そう思ってドアを開けた。
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