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20 白い来訪者2
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結局別のお店へ移動して、神殿長から夕食までご馳走になってしまった。
美形二人に囲まれて、料理はおいしかったはずなのに味が思い出せない。
3人で乗り込んだ馬車で寮の入り口につくと、人だかりと、白いーー神殿服の集団がいた。
「ですから、こちらの寮内を確認させていただきたいだけですーー!」
「いえいえ……学園の方からご連絡させていただきましたでしょう? 全生徒の部屋を改めるなんて困ります! 留守中の者もいるのです」
「こう言っている間にも、御身にもしものことがあったらーー」
「何をしているんですか? ウッドリィ」
馬車から降り私をエスコートしつつ、神殿長が声を張った。
ウッドリィと呼ばれ振り返った神殿服の男性は、周りを掻き分けて駆け寄ってくる。
「カミーユ様! 心配しておりました!!」
「何をしているのか、と聞いています。ウッドリィ神官」
再び頭から布をかぶっている神殿長は、表情はわからなくとも声で咎めているとわかる。
「それはこちらのセリフです! 講義の後ティータイムとはお伺いしておりましたが……夜になっても神殿にお戻りにならないではないですか! 何かあったのかと学園の捜索を終え、寮内を探す所でした! ……そちらの方々とご一緒だったのですね」
ウッドリィ神官と呼ばれた若草色の頭の青年も、神殿長の言葉に一度怯んだものの、キッとこちらを睨んできた。
学園には伝えてあると仰っていたけど、夕食は突発的な行動だったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。
「ウッドリィ、いつも申しておりますように、私は子供ではないのです。一人で行動することもありますし自分の身は守れます。また、我々は神殿以外での個の権力を有しません。私個人のために、学園の皆様にご迷惑をおかけしてはなりません」
「神殿長様は生きる奇跡です! 神よりその名を賜った、尊いお方です……! 個の権力どうこうなど……いえ、申し訳ございません、カミーユ神殿長様……」
いつも中性的で温和な印象を受ける声色が、ワントーン低くなると、神官も叱られた犬の様にしゅんと項垂れた。
「それと、こちらはこの国のポムエット公爵家ご息女のテレシア様と従者のレオンです。二人とも私の友人です。その様な視線を送ってはなりません」
「神殿長様は幼い私が空腹でないかと配慮し、予定が済んだ後も晩餐をご一緒してくださったのですよ。どうぞ、神殿の皆様、神殿長をお叱りにならないでください」
そう自分の年齢を強調した。
「申し訳ありません、テレシア様。彼は私のストーカーの様なもので……どこへ行ってもついてくるし行き先も、私の食べた物すら全て把握していないと気が済まないような輩ですよ」
ストーカーの概念あった!!! そしてその内容にドン引きである。重度のストーカーを手元に置いているとなると、夕刻、窓の外の女性たちに手を振ったような優しい対応にも納得がいく。
赤裸々に語られて、ウッドリィ神官は顔を真っ赤にして俯いたが、否定をしない。
「寮の皆様にもご迷惑をおかけしました。私を思うあまり行きすぎた神官を、どうぞ悪く思わないでください」
「いえ……神殿長様が無事お戻りになられて、良かったですね。神官様」
寮の管理人も内容に驚いたのか、引き攣った顔をしながら笑顔で返した。
「それではテレシア様、レオン様、本日は有意義な時間をありがとうございました。またお会いしましょう」
「行きますよ、ウッドリィ、皆さん」
そう、穏やかな声で挨拶をすると、カミーユ神殿長とウッドリィ、他の神官たちは神殿へと帰っていった。去り際に、ウッドリィ神官がキッと再びこちらを睨みながら……。
「……部屋に戻ろっか、レオン……」
「はい。権力を持ったストーカーとは恐ろしいものですね、テレシア様」
寮の管理人にも謝罪をしながら、そんな感想を残して、集まっていた生徒も含め部屋へと戻っていった。
「神殿長とお茶会ですの!?」
部屋に戻る廊下で背後からキャロリーヌの声がして振り返った。
「キャ、キャロリーヌ様!?」
驚いておかしな声を出してしまう。フリルが喋ったのかと思ったら、フリフリのナイトキャップに、上から下までフリフリの、寝巻きと思われる服を着たキャロリーヌがそこにいた。
しかもなんだか、クッキーのような、あま~い、いい香りがする。
「キャロリーヌ様のお部屋もこの階だったんですね」
驚いてドキドキとする心臓を宥めながら、なんとか通常の声を出すことに成功した。
「ええ、共用のキッチンで、ダニエルがお菓子を焼いて戻るところですの」
お夜食ですの、と口に手をあててコロコロと笑う。
「どうりで、良い香りがすると思いました」
実際は香ばしい匂いに、なんのお菓子かとっても気になる! 気になるが、“どんなお菓子か“と問うと“それが欲しい”と聞こえてしまうのが貴族だ。迂闊なことは言えない。
「廊下から噂する声がしましたの。テレシア様が神殿長様とのお茶会から戻られた……と。すごいですのね! どうやったら、あのご高名な神殿長様とお茶をご一緒できるのでしょう」
キャロリーヌは、うっとりとした様子でそう話した。
すると共用キッチンの方から、ダニエルがお皿にパイの様なものを乗せて歩いてきた。
こちらに気がつくと尻尾を大きくゆったりと揺らしながら、
「おや、公女様、レオンくん、こんばんは」
と言ってぺこりとお辞儀をした。
「「こんばんは、ダニエルさん」」
当たり障りのない声色を発した私と反して、ツンケンした挨拶をしたレオンの声が重なる。
レオンをチラリと見て、目線で“コラ”と訴えると“ふんっ”とそっぽをむかれてしまった。
「ははっ、レオンくんには嫌われてしまったようですね。キャロリーヌ様、早く戻りませんとバナヌのパイが冷めてしまいます」
「そうですわね。テレシア様、また明日の講義でお会いしましょう」
スッと表情を切り替えると、フリルに埋もれた令嬢は獣人の従者と共に部屋へ戻っていった。
すれ違いざま、またあの“バナナとスイカ”の様な香りがする。
ーーバナヌって言う果物なのかなーー
甘く濃厚な南国の香りの中に、みずみずしくも青臭い様な匂いがした……。
翌日、朝から質問攻めにあっていた。最も、ソフィアとエリアス、キャロリーヌを筆頭に、他の人達は流れ聞く様な形だがーー。
「神殿長様とはどうやったらお茶会できますの!?」
「神殿長様はお幾つなんですか?」
「神殿長様とはどんなお話をされましたか?」
「「「神殿長様は、とても見目麗しいと噂がありますがお顔を見たことは!!?」」」
神殿長の質問ばかりされながら、最後には3人の声が揃ったところで、ソフィアとエリアス、キャロリーヌが顔を見合わせて挨拶を交わす。
「あはは……」
なんて答えよう、苦笑するしかなかった。
「公女という立場もあり、魔力測定の後カミーユ神殿長様とたまたまお茶をする機会があっただけですよ。年齢は存じません。光属性について少々お話をしました。見た目についてお話しするのは……不敬かと思いますので、お目にかかる機会があると良いですね」
当たり障りがないように返事をすると、さすが公女様とか、僕も公子ですがその様な機会はいただけませんとか、羨ましい……といった反応が返された。本当のことを言うわけにもいかないしね。
「神殿長様は、綺麗な白髪の男性らしいぞーーですよ」
サラッと、テオが神殿長の素顔について語り皆彼に注目した。
「どう言うことですかテオ! わたし、テオが神殿長様と親しいなんて聞いていませんよ!」
ソフィアがすごい剣幕で詰め寄るが、当のテオは飄々と答える。
「父上からお話を伺ったことがある……ます。あります。高貴な女性かと見紛う程、艶やかに輝く髪、眉目秀麗なお方だと聞きました」
遠くで聞き耳を立てていた子供達もキャキャと噂し始めた。言って良かったのかなぁ……わ、私言ってないもんね!
「テオ様……神殿長様のお姿についてお話しされるのはあまりよろしくないかもしれません……昨日の様に伯爵様に告げ口されてしまうかも……」
わざとらしく大きくため息をついて片頬に手を当ててみせると、テオはハッとして
「聞かなかったことに!」
そう、前後左右にお願いした。
今日の魔法科は、学園入学のお披露目に向けて“オーブ”を打ち上げ花火の用に散らす練習をしていた。
入学式がないことを不思議に思っていたが、この国では入学から一週間後に開かれる“お披露目”がそれに該当するらしい。オーブがきちんと使えないと、お話にならないと言うわけだ。
美形二人に囲まれて、料理はおいしかったはずなのに味が思い出せない。
3人で乗り込んだ馬車で寮の入り口につくと、人だかりと、白いーー神殿服の集団がいた。
「ですから、こちらの寮内を確認させていただきたいだけですーー!」
「いえいえ……学園の方からご連絡させていただきましたでしょう? 全生徒の部屋を改めるなんて困ります! 留守中の者もいるのです」
「こう言っている間にも、御身にもしものことがあったらーー」
「何をしているんですか? ウッドリィ」
馬車から降り私をエスコートしつつ、神殿長が声を張った。
ウッドリィと呼ばれ振り返った神殿服の男性は、周りを掻き分けて駆け寄ってくる。
「カミーユ様! 心配しておりました!!」
「何をしているのか、と聞いています。ウッドリィ神官」
再び頭から布をかぶっている神殿長は、表情はわからなくとも声で咎めているとわかる。
「それはこちらのセリフです! 講義の後ティータイムとはお伺いしておりましたが……夜になっても神殿にお戻りにならないではないですか! 何かあったのかと学園の捜索を終え、寮内を探す所でした! ……そちらの方々とご一緒だったのですね」
ウッドリィ神官と呼ばれた若草色の頭の青年も、神殿長の言葉に一度怯んだものの、キッとこちらを睨んできた。
学園には伝えてあると仰っていたけど、夕食は突発的な行動だったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。
「ウッドリィ、いつも申しておりますように、私は子供ではないのです。一人で行動することもありますし自分の身は守れます。また、我々は神殿以外での個の権力を有しません。私個人のために、学園の皆様にご迷惑をおかけしてはなりません」
「神殿長様は生きる奇跡です! 神よりその名を賜った、尊いお方です……! 個の権力どうこうなど……いえ、申し訳ございません、カミーユ神殿長様……」
いつも中性的で温和な印象を受ける声色が、ワントーン低くなると、神官も叱られた犬の様にしゅんと項垂れた。
「それと、こちらはこの国のポムエット公爵家ご息女のテレシア様と従者のレオンです。二人とも私の友人です。その様な視線を送ってはなりません」
「神殿長様は幼い私が空腹でないかと配慮し、予定が済んだ後も晩餐をご一緒してくださったのですよ。どうぞ、神殿の皆様、神殿長をお叱りにならないでください」
そう自分の年齢を強調した。
「申し訳ありません、テレシア様。彼は私のストーカーの様なもので……どこへ行ってもついてくるし行き先も、私の食べた物すら全て把握していないと気が済まないような輩ですよ」
ストーカーの概念あった!!! そしてその内容にドン引きである。重度のストーカーを手元に置いているとなると、夕刻、窓の外の女性たちに手を振ったような優しい対応にも納得がいく。
赤裸々に語られて、ウッドリィ神官は顔を真っ赤にして俯いたが、否定をしない。
「寮の皆様にもご迷惑をおかけしました。私を思うあまり行きすぎた神官を、どうぞ悪く思わないでください」
「いえ……神殿長様が無事お戻りになられて、良かったですね。神官様」
寮の管理人も内容に驚いたのか、引き攣った顔をしながら笑顔で返した。
「それではテレシア様、レオン様、本日は有意義な時間をありがとうございました。またお会いしましょう」
「行きますよ、ウッドリィ、皆さん」
そう、穏やかな声で挨拶をすると、カミーユ神殿長とウッドリィ、他の神官たちは神殿へと帰っていった。去り際に、ウッドリィ神官がキッと再びこちらを睨みながら……。
「……部屋に戻ろっか、レオン……」
「はい。権力を持ったストーカーとは恐ろしいものですね、テレシア様」
寮の管理人にも謝罪をしながら、そんな感想を残して、集まっていた生徒も含め部屋へと戻っていった。
「神殿長とお茶会ですの!?」
部屋に戻る廊下で背後からキャロリーヌの声がして振り返った。
「キャ、キャロリーヌ様!?」
驚いておかしな声を出してしまう。フリルが喋ったのかと思ったら、フリフリのナイトキャップに、上から下までフリフリの、寝巻きと思われる服を着たキャロリーヌがそこにいた。
しかもなんだか、クッキーのような、あま~い、いい香りがする。
「キャロリーヌ様のお部屋もこの階だったんですね」
驚いてドキドキとする心臓を宥めながら、なんとか通常の声を出すことに成功した。
「ええ、共用のキッチンで、ダニエルがお菓子を焼いて戻るところですの」
お夜食ですの、と口に手をあててコロコロと笑う。
「どうりで、良い香りがすると思いました」
実際は香ばしい匂いに、なんのお菓子かとっても気になる! 気になるが、“どんなお菓子か“と問うと“それが欲しい”と聞こえてしまうのが貴族だ。迂闊なことは言えない。
「廊下から噂する声がしましたの。テレシア様が神殿長様とのお茶会から戻られた……と。すごいですのね! どうやったら、あのご高名な神殿長様とお茶をご一緒できるのでしょう」
キャロリーヌは、うっとりとした様子でそう話した。
すると共用キッチンの方から、ダニエルがお皿にパイの様なものを乗せて歩いてきた。
こちらに気がつくと尻尾を大きくゆったりと揺らしながら、
「おや、公女様、レオンくん、こんばんは」
と言ってぺこりとお辞儀をした。
「「こんばんは、ダニエルさん」」
当たり障りのない声色を発した私と反して、ツンケンした挨拶をしたレオンの声が重なる。
レオンをチラリと見て、目線で“コラ”と訴えると“ふんっ”とそっぽをむかれてしまった。
「ははっ、レオンくんには嫌われてしまったようですね。キャロリーヌ様、早く戻りませんとバナヌのパイが冷めてしまいます」
「そうですわね。テレシア様、また明日の講義でお会いしましょう」
スッと表情を切り替えると、フリルに埋もれた令嬢は獣人の従者と共に部屋へ戻っていった。
すれ違いざま、またあの“バナナとスイカ”の様な香りがする。
ーーバナヌって言う果物なのかなーー
甘く濃厚な南国の香りの中に、みずみずしくも青臭い様な匂いがした……。
翌日、朝から質問攻めにあっていた。最も、ソフィアとエリアス、キャロリーヌを筆頭に、他の人達は流れ聞く様な形だがーー。
「神殿長様とはどうやったらお茶会できますの!?」
「神殿長様はお幾つなんですか?」
「神殿長様とはどんなお話をされましたか?」
「「「神殿長様は、とても見目麗しいと噂がありますがお顔を見たことは!!?」」」
神殿長の質問ばかりされながら、最後には3人の声が揃ったところで、ソフィアとエリアス、キャロリーヌが顔を見合わせて挨拶を交わす。
「あはは……」
なんて答えよう、苦笑するしかなかった。
「公女という立場もあり、魔力測定の後カミーユ神殿長様とたまたまお茶をする機会があっただけですよ。年齢は存じません。光属性について少々お話をしました。見た目についてお話しするのは……不敬かと思いますので、お目にかかる機会があると良いですね」
当たり障りがないように返事をすると、さすが公女様とか、僕も公子ですがその様な機会はいただけませんとか、羨ましい……といった反応が返された。本当のことを言うわけにもいかないしね。
「神殿長様は、綺麗な白髪の男性らしいぞーーですよ」
サラッと、テオが神殿長の素顔について語り皆彼に注目した。
「どう言うことですかテオ! わたし、テオが神殿長様と親しいなんて聞いていませんよ!」
ソフィアがすごい剣幕で詰め寄るが、当のテオは飄々と答える。
「父上からお話を伺ったことがある……ます。あります。高貴な女性かと見紛う程、艶やかに輝く髪、眉目秀麗なお方だと聞きました」
遠くで聞き耳を立てていた子供達もキャキャと噂し始めた。言って良かったのかなぁ……わ、私言ってないもんね!
「テオ様……神殿長様のお姿についてお話しされるのはあまりよろしくないかもしれません……昨日の様に伯爵様に告げ口されてしまうかも……」
わざとらしく大きくため息をついて片頬に手を当ててみせると、テオはハッとして
「聞かなかったことに!」
そう、前後左右にお願いした。
今日の魔法科は、学園入学のお披露目に向けて“オーブ”を打ち上げ花火の用に散らす練習をしていた。
入学式がないことを不思議に思っていたが、この国では入学から一週間後に開かれる“お披露目”がそれに該当するらしい。オーブがきちんと使えないと、お話にならないと言うわけだ。
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