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一章 第二話

1.お休みからおはようまで

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 軍事戦闘記録
 事件名  バブルラクン討伐戦

 概要
 ノイミタイ廃砦を拠点として周囲の農村に強盗、略奪等多大な被害を与えていた盗賊団バブルラクンの討伐のためアトスキム王国から討伐隊が派遣された事件及びその際に勃発した戦闘。

 ノイミタイ廃砦は、王都南方の郊外に位置するシギアリューオー山という小高い山の頂上に建つ山城であり、かつては索敵を兼ねた前線の要地として使用されていた前大戦時代の遺産である。
 魚の月○日、討伐隊はチャヌ村近郊、砦の北側カウイ川の河原に布陣。
 翌日△日、明朝に作戦開始。その砦を拠点として活動していたバブルラクンの頭領イッサム・ハイスターによる徹底した防衛戦術に、戦いは序盤から膠着状態の様相を呈していた。
 事実上、砦を中心に山域全体がバブルラクンの占領下と化していた状態での攻城戦は、バブルラクン側の執拗な夜襲も相まって、討伐隊側に疲弊をもたらしていた。
 開戦から十日目、魚の月□日。討伐隊側に補給物資と共に、指揮官クインス・アフトリカ大尉の直属の上司であるケイウス・オーガディ上騎士大佐(当時)率いる部隊が応援として参戦。オーガディ大佐は火計を用いた三方からの挟撃作戦を提案、実行に移す。
 翌日×日に作戦決行、砦を付近での衝突の結果、指揮を上司に預けたアフトリカ大尉を中心とする前線部隊の奮戦の末、砦内でハイスターを討ち取り戦闘は終結した。
  百名余りいたといわれているバブルラクン構成員の内、ハイスター含む六十八名の死亡が確認され、十五名が捕縛された。戦闘の混乱に乗じて十数名が逃亡したとされている。
 後日、この戦功が評価されオーガディ大佐は准将に昇格。
 一方で、指揮を交代後、前線で目覚ましい活躍を見せたアフトリカ大尉にも一佐への昇格が認められたが、本人はこれを辞退。代わりに白翼勲章と特別賞与が与えられた。

 アトスキム王国騎士団記録書庫内 
 軍事戦闘記録「バブルラクン討伐戦」より抜粋





 銀色の星の光が瞬く新月の夜ーー。
 流星が夜空から零れ落ちたか、風に波打つ黒い草原を切り裂くように一筋の閃光が南へ向けて走っていた。

 ギアードはアクシア殿に拠点設置の話を取り付けた後、真っ直ぐエニム村の調査拠点に向けウマを走らせた。分隊の編成と準備や日誌の作成、遺族への手紙を書いたり、やることがいっぱいだ。   
 でも、大尉についての情報があったのは収穫だった。旅人の証言だから最初は半分疑っていたけれど、王国騎士の証でもある盾と、長い黒髪の女性騎士というのを聞く限り、大尉本人である可能性はかなり高いと思う。明日はあのイナトという旅人に詳しく話を聞かないと。
 もし話の通りなら、さっき彼にも言った通り大尉は賊に襲われたぐらいでやられる人ではない。きっと生きている。必要なのは、今も基地を目指し移動しているであろう大尉を速やかに見つけて保護することだ。

 そうと決まればといったように、鳥の翼が刻まれた銀色の盾を背負った青年騎士は、星明りの中を一直線に駆け抜けた。



 エニム村調査班幕営地――。
 カウイ川の川原と畑の間の草原。
 普段は川で仕事をする人々の行き交いや、子供が無邪気に駆け回っている場所に、今は兵士用の天幕がいくつも建てられている。
 ギアードはその中を通り抜け、エニム村の外れにある小さな講堂の横にウマを繋ぎ、中に入っていく。
 講堂の中は装備や物資の倉庫のようになっていて、奥に指令部として簡単な机の上に書類等が置かれている。

「あっ、ギアード少尉。どうでした?」

 部屋に入るなり話しかけてきたのは、後輩で部下のシン・エイディン ・アクアス。所属は違うが縁あって話す事が多い。お調子者で短気なところがあるが真っ直ぐで、若いが騎士としての能力と才は優秀な男だ。今も僕がヨアン村に行っている間、拠点の管理を任せていた。

「ああ。許可貰えたよ。早速だけど今から準備でき次第、すぐにヨアン村に向かってくれ」

 机の上の書類なんかを簡単にまとめながら、アクアスに指示を出す。

「えっ今から!?」
「うん。分隊長は君に任せる。班は……今日控えだった十一から十五班。それと北側担当の二班と君の九班で」
「わざわざ夜中に行かなくても……」

 ははっ。予想してたけど露骨に嫌そうな顔するなぁ。

「ヨアン村で襲撃時の大尉の目撃情報があった」
「マジっすか!?  先生は無事なんですか!?」
「それはまだわからない。けど、盾を持った女性騎士が盗賊3人と戦ってたのを見たって言ってた。けど大尉なら僕は無事だと思う。明日の朝に一度村長のお宅に挨拶に行って、それから詳しく話を聞くことになってるから、今夜中に準備しておいて」
「……わかりました。それで、目撃者は?」
「今日山を降りてきたっていう旅人だよ」
「めちゃくちゃ怪しいじゃないっすか。盗賊の仲間かもしれませんよ」
「僕もはじめはそう思ったけど、どうやら違うみたいだ。現場を見てかなりトラウマになってるみたいだったからね」
「はあ」
「それに彼は、今夜からあのミキアート・アクシアの家に泊まるみたいだから、仮に賊でも何も出来ないと思うよ」
「ミキアート・アクシアって、あの『白鬣はくりょう』の?    ホントにこんな田舎で村長やってたんすね~」

 アクアスは腕を組んで頷いている。いやいや。

「アクアス。感心してないで早く行ってくれる?」
「あっすいません」

 アクアスは頭を掻いて誤魔化すと、部屋の隅に置いていた手荷物を背負う。

「明日の朝は僕もそっちに行くから、それまでにちゃんと準備しておいて」
「了解!」

 アクアスは立てた親指を僕に向け、部屋から出ていった。

 ……ほんとに大丈夫かなぁ。



 朝。といってもまだ日は出ていない内に、イナトの目は覚めてしまった。
 旅行先とか枕が変わると寝れない人いるよね。そういうことです。
 なんとなく寝覚めは良かったので、疲れから熟睡は出来たような気はするものの、マットレスもない板のベッドに寝ていたので体が固い。とりあえず、農家の朝は早いから今のうちに起きてても良いだろう。朝食の支度の手伝いはしなきゃならないし。
 軽く体をほぐして、服を着替える。
 実は昨日、洗濯物の節約のため、山から着ていた服そのまま寝てしまっていた。結構汚れているから出来たら今日洗濯してしまおう。

 部屋を出て、まだ暗い廊下を壁伝いに歩き、昨日晩御飯を食べたリビングに入る。
 多分火は使うから、炉に火を着けるくらいしとけば粋だろうが、サクラさん達がいつ起きてくるかもわからないし、燃料も無駄にはできないだろうからやめておこう。薪や火口の置いてある場所もわからないし。
 外の井戸で顔でも洗ってこようか。――うん。ドアに立派な錠前が付いている。誰かが起きて来るまで待とう。着席。
 
 本当に出来ることが無いので食卓の椅子に座って待つ。
 椅子に座るとやっぱりまだ寝足りないのか、居眠りしそうになってしまう。でも、もしサクラさんが来たときに馴染み無い人間が自分の家の食卓で寝ていたらビックリするだろうから起きておかないと。食卓に肘を着き半分寝ているような状態で待つことにした。

 しばらくして、廊下の方からペタペタという足音が近付いて来るのに気がついた。見ると廊下の奥がほんのり明るい。誰かが蝋燭でも持って歩いてきているのだろう。こんな時の待ち受け方がわからないので、とりあえずただ座って待つ。

「ふあぁ」

 あくびをしながら燭台を持ったサクラさんが登場した。かわいい。

「ぅん?  ……………あっ、あぁイナトさんかぁ。ごめんなさぃ。この時間に他に人がいる事なんて無かったから……」

 状況は把握できたようだが言葉に歯切れがない。まだ眠いのだろう。殆ど目が空いてない状態で返事が返ってきている。

「こちらこそ、驚かせてごめんなさい。お世話になるんで何か手伝わせてもらおうかと。どうぞ使ってやってください」と、寝起きの気分に障らないよう静かめに応えた。

「じゃあ、鍋に水を汲んできてもらえますかぁ」

 サクラさんは燭台を机の上に置き、椅子に座って船をこいでいる。

「わかりました。この鍋でいいですか」
「ふぁい」との返事。かわいい。
「すみません玄関の鍵を開けてもらえます?」
「ふぁい」

 サクラさんは椅子から静かに立ち上がると、ペタペタと玄関に歩いていく。目はまだ半分眠っている。そのままそっと錠前を開けると、また静かに食卓の椅子に戻っていった。
 何だこの生き物。かわいい。

 玄関を出ると、西の空から日が出かかっていた。歩いて広場の真ん中の井戸に向かう。早朝の風はまだまだ冷たい。学生時代の登山行動を思い出すなぁとしみじみ考える程、すっかり自分の目は覚めていた。
 時代劇で出てくるような釣瓶式の井戸で水を汲む。ついでにサッと顔を洗い、服で顔を拭う。水はかなり冷たいがそのお陰で非常にさっぱりした。

 ふと周りを見る。すると家の中から窓を開けていたり、ぼんやりと明かりが見えたり村の人達も動き始めたようだ。
 帰る途中、何人か朝の支度の準備で来たであろう村の人達に挨拶した。向こうも愛想よく挨拶を返してくれたので、どうやら邪険にはされていないようだ。

 時間にすると5分くらい出ていただろうか、家に帰るとサクラさんはまだ椅子に座ってウトウトしていた。さすがにそろそろ寝坊になる頃だろうと、少し強めの語勢でサクラさんに話しかける。

「サクラさん。薪と火口はどこですか?」
「ん?  んんっ…………ああっ!  ごめんなさい!  私どうしても朝は弱くって。薪はそっちの下です!  火口も一緒です!」

 サクラさんは他の支度かパタパタと早足で歩いていった。
 自分は炉の上に薪を組み、火口を置き燭台の蝋燭で火を着ける。
 火の調整をしていると、サクラさんが戻ってきた。少しの野菜とチーズ、木の容器に穀物とパンを持っていた。

「ごめんなさい!  御飯の材料持ってきました!」

 それからは慣れた手つきで朝食を作っていく。今日はチーズ粥のような料理を作るみたいだ。自分もそれを見ながら指示を貰い、朝食の準備の段取りを覚えていった。
 料理関しては、調味料や香辛料はやはり少ないが、食べ物の種類と特性を覚えれば現世の応用が効きそうだ。

 途中で村長も起きてきて、挨拶を済ますと一度外に出ていって朝食ができる頃には帰って来た。サクラさんによると日課で畑の様子などを見てきているらしい。
 準備が整い、3人で食事を始める。食べながら村長が今日の予定について話してきた。

「今日は朝から昨日の若いのが挨拶に来ると言うとったの」
「ええ」
「それがいつ終わるかは解らんが、終わったら部屋を掃除して、その後は村を案内して回ろう。仕事をするにも要るじゃろうしの」
「すみません、余計な時間をかけてしまって」
「なぁに、事情が事情じゃ。むしろ正直に言うたことで貢献しとる。誰も責めたりせんよ」
「ありがとうございます」
「さぁて、飯も終わったら今日も1日働くかの!」

 朝食を食べ終え、片付けを済ますと各々今日の支度を始める。僕の支度は特にないので、とりあえず部屋に風を通しに窓と扉を開けに行っていた。今日もいい天気だ。
 掃除の段取りを考える為に改めて部屋を眺める。サクラさんが定期的に掃除しているのか、多少ホコリはたまっているものの、殆ど綺麗である。これならそこまで時間はかからないだろう。住まわせて貰う分自分の事は早く終わらせて、村の仕事を覚えないと――。

 コン!  コン!

 下の階から固い音が響いた。
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