5 / 10
1
「見習い宣教師と最初の事件」4
しおりを挟む
"RAF(Royal AirForce)"という徽章が入った制帽の下に、整った顔と金色の髪が隠れていた。元来整った顔だちではあったが、同時に軍人らしい精悍さと、顔つきには厳しさを兼ね備えていた。
深く被った制帽からわずかに覗く目つきは、真面目そのもので、且つ鋭かった。
全員が迷彩服を着て、光学ディスプレイを搭載したヘルメットを装着している中、一人だけ高級将校の着る制服に、制帽を被った男が、ヘリの奥の一人がけの席に座っていた。
ギルベルト・セリアズ大尉である。
「各員、準備は良いか。状況を報告せよ。」
冷静な声がインカムを通じて、随伴するすべての航空機及び艦艇、そして大西洋全域の部隊と、作戦行動全体を統括・監督する統合作戦司令部へと届けられた。
「14時の方向!ロシア製潜水艦・ウラジーミル・ノボロフ級ミサイル原子力潜水艦と思われます。」
ソナー員の下士官が、海中から反射する音波をもとに、セリアズへ報告した。
「よし。降下開始。降下後、速やかにソノブイを投下。対潜戦闘開始。」
と、静かに、芯のある声で命じた。
余談だが、第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツのUボートに苦しめられた経験から、この国の海軍は、対潜哨戒と対潜戦闘には、特に力を入れている。
「はっ。王……大尉。」
"王子"と呼ばれている彼の乗る、アリスタウェストランド社製のHWA.8・スーパーラインズ対潜哨戒ヘリコプターが、時速約140ノットで上空5000フィートを航行していた。指揮及び航法システム、レーダーを強化したその機体の内部の、前方の右側の座席には操縦士が、左側には副操縦士が、そして後部には航法士官、ソナー員そして──1番奥の1人がけの座席に、セリアズが座り、指揮を執っていた。
機体の外の、太陽に照らされて輝く大西洋の水面とは真逆の暗闇の中で、レーダーに映るLEDのインジケーターだけが不気味に光っていた。
航法士官が更に高度を下げるように指示し、続いてソナー員がヘッドホンを押さえて帰って来る音波と警報音神経を尖らせていた。
灰色の躯体を持つ鋼鉄の鳥が5機、フォーメーション を組み、回転翼を音速に迫る勢いで回転させ、大西洋の上空を疾駆している。
グレート・ブリテンにとっての脅威となりうる、敵の潜水艦を索敵するためだった。
更に対潜哨戒部隊の前線指揮官であり、戦術航空士でもある彼には、探索だけではなく、上空からの雷撃によって発見次第ただちに撃破せよ、との命令と権限が統合作戦司令部より与えられていた。
「アルファ、ブラボー、1500フィートまで降下。速度は維持。風速を報告せよ。デルタ機は後方で待機。」
将来の高級将校らしく、対潜水艦部隊長として、的確な指示を飛ばして行った。
部隊全体の指揮官である彼は、それぞれの機の機長よりも先任であり、作戦行動についての指揮監督において命令権を優先されていた。
「大尉、西北西の風、およそ4ノットです。」
「よし。ソノブイを投下。」
大西洋の水面の奥深くの目標──敵国の潜水艦に向かい、上空からソノブイを投下した。
不測の事態に備え、アルファ、ブラボーと呼称された僚機が、セリアズの乗る隊長機のバックアップに回った。
先頭を飛ぶ"王子"の乗るHWA.8 スーパーラインズが、胴体側面の固定翼から筒状のソノブイを投下する。
白い流線形のそれは、1500フィートの上空から投下され、太陽を反射し碧く輝く水面に吸い込まれて行った。
潜水艦という脅威が無ければ、クルーザーでもチャーターし、どこかの島にでも上陸して、釣りやらサーフィンやら海水浴やらを楽しめば、素晴らしい休暇になることは間違いないような絶景であった。
セリアズはモニター上で着水を確認すると、
「位置は?」
とソナー員に尋ねた。
「予定通りです。問題ありません。」
「よし、各機に告ぐ。敵潜水艦"ウラジーミル・ノボロフ級"の索敵は継続。本機への位置の報告は遵守。繰り返す──」
そこへ、本部からの通信が入った。
「"王子"、もういいよ。戻りたまえ。アリスタウエストランド社の新型対潜ヘリコプターの性能は、大体こちらでも把握した。」
声の主は、統合軍参謀次長だった。
「……わかりました。」
「あとは、国防省装備局の連中が何とかするだろう。そろそろ降りて来い。──閣下達が、お待ちだぞ。」
深く被った制帽からわずかに覗く目つきは、真面目そのもので、且つ鋭かった。
全員が迷彩服を着て、光学ディスプレイを搭載したヘルメットを装着している中、一人だけ高級将校の着る制服に、制帽を被った男が、ヘリの奥の一人がけの席に座っていた。
ギルベルト・セリアズ大尉である。
「各員、準備は良いか。状況を報告せよ。」
冷静な声がインカムを通じて、随伴するすべての航空機及び艦艇、そして大西洋全域の部隊と、作戦行動全体を統括・監督する統合作戦司令部へと届けられた。
「14時の方向!ロシア製潜水艦・ウラジーミル・ノボロフ級ミサイル原子力潜水艦と思われます。」
ソナー員の下士官が、海中から反射する音波をもとに、セリアズへ報告した。
「よし。降下開始。降下後、速やかにソノブイを投下。対潜戦闘開始。」
と、静かに、芯のある声で命じた。
余談だが、第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツのUボートに苦しめられた経験から、この国の海軍は、対潜哨戒と対潜戦闘には、特に力を入れている。
「はっ。王……大尉。」
"王子"と呼ばれている彼の乗る、アリスタウェストランド社製のHWA.8・スーパーラインズ対潜哨戒ヘリコプターが、時速約140ノットで上空5000フィートを航行していた。指揮及び航法システム、レーダーを強化したその機体の内部の、前方の右側の座席には操縦士が、左側には副操縦士が、そして後部には航法士官、ソナー員そして──1番奥の1人がけの座席に、セリアズが座り、指揮を執っていた。
機体の外の、太陽に照らされて輝く大西洋の水面とは真逆の暗闇の中で、レーダーに映るLEDのインジケーターだけが不気味に光っていた。
航法士官が更に高度を下げるように指示し、続いてソナー員がヘッドホンを押さえて帰って来る音波と警報音神経を尖らせていた。
灰色の躯体を持つ鋼鉄の鳥が5機、フォーメーション を組み、回転翼を音速に迫る勢いで回転させ、大西洋の上空を疾駆している。
グレート・ブリテンにとっての脅威となりうる、敵の潜水艦を索敵するためだった。
更に対潜哨戒部隊の前線指揮官であり、戦術航空士でもある彼には、探索だけではなく、上空からの雷撃によって発見次第ただちに撃破せよ、との命令と権限が統合作戦司令部より与えられていた。
「アルファ、ブラボー、1500フィートまで降下。速度は維持。風速を報告せよ。デルタ機は後方で待機。」
将来の高級将校らしく、対潜水艦部隊長として、的確な指示を飛ばして行った。
部隊全体の指揮官である彼は、それぞれの機の機長よりも先任であり、作戦行動についての指揮監督において命令権を優先されていた。
「大尉、西北西の風、およそ4ノットです。」
「よし。ソノブイを投下。」
大西洋の水面の奥深くの目標──敵国の潜水艦に向かい、上空からソノブイを投下した。
不測の事態に備え、アルファ、ブラボーと呼称された僚機が、セリアズの乗る隊長機のバックアップに回った。
先頭を飛ぶ"王子"の乗るHWA.8 スーパーラインズが、胴体側面の固定翼から筒状のソノブイを投下する。
白い流線形のそれは、1500フィートの上空から投下され、太陽を反射し碧く輝く水面に吸い込まれて行った。
潜水艦という脅威が無ければ、クルーザーでもチャーターし、どこかの島にでも上陸して、釣りやらサーフィンやら海水浴やらを楽しめば、素晴らしい休暇になることは間違いないような絶景であった。
セリアズはモニター上で着水を確認すると、
「位置は?」
とソナー員に尋ねた。
「予定通りです。問題ありません。」
「よし、各機に告ぐ。敵潜水艦"ウラジーミル・ノボロフ級"の索敵は継続。本機への位置の報告は遵守。繰り返す──」
そこへ、本部からの通信が入った。
「"王子"、もういいよ。戻りたまえ。アリスタウエストランド社の新型対潜ヘリコプターの性能は、大体こちらでも把握した。」
声の主は、統合軍参謀次長だった。
「……わかりました。」
「あとは、国防省装備局の連中が何とかするだろう。そろそろ降りて来い。──閣下達が、お待ちだぞ。」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
京都式神様のおでん屋さん 弐
西門 檀
キャラ文芸
路地の奥にある『おでん料理 結(むすび)』ではイケメン二体(式神)と看板猫がお出迎えします。
今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。
平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。
※一巻は第六回キャラクター文芸賞、
奨励賞を受賞し、2024年2月15日に刊行されました。皆様のおかげです、ありがとうございます✨😊
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
職業、種付けおじさん
gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。
誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。
だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。
人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。
明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。
※小説家になろう、カクヨムでも連載中
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話
赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。
前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる