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本編

第20話「緑の着ぐるみとヤンデレ鬼ごっこ」

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浮かれていた。転生して以来のモテキ到来にわたしの脳内がお花畑になっていたことは認めよう。
保健室帰りのわりに足取りは軽く、スキップまでしそうな勢いの軽やかさだったことだろう。上気した頬を手で包めば、ニマニマする口までは隠せない。見るからに、わたしは上機嫌であった。

美形と美形がわたしを取り合っている……っ!!

駄目よユーリア!着ぐるみーズ達のいざこざを忘れたの?!逆ハーは何も産まないどころか破滅を呼ぶわ!自重なさい!

頭ではわかっていても浮かれてしまってどうしようもなかった。

だってだって、
この世界に生まれ変わって初めてのモテ期よ?!チャンス到来なのよ!?
モノにしなくてどうするのよ!!一生独身なんてこの世界の貴族には悲劇なのよ!!このまま卒業まで相手が見つからなくて領地に帰ったら…待っているのはお父様による見合い三昧!
それもいいけど美形がやってくる確立はどれほどだろうか。

せっかく真のイケメンが平凡に変換されるこの世界、

結婚するならイケメンを……!!

唯一無二の野望を胸に

「世界の悪意には負けない……っ!絶対によ…!!」

と。

わたしは天に向かって高々と拳をふりあげたのだった。


「何に負けないって?もしかして―――ルルのことかな?」










ああああああ、神様仏様ごめんなさい。平凡なくせして調子のってましたすみません。わたしが悪かったのです許してください後生ですから!!

「君が、ルドフォン伯爵家のユーリア先輩、だね?」

確信してるなら聞かないでくださいわずかな可能性に賭けて否定したくなります!

「どこを見てるの?」

逃げ道です!

「その顔…どうやら自覚はあるみたいだね」

自覚?なんの自覚でしょうか今から殺される自覚でしょうかそれとも食べられちゃう自覚でしょうかそんな自覚はしなくてすむ方向でお願いします!

浮かれていたわたしの眼前に突如として現れた緑のヤンデレ着ぐるみ。浮かれすぎて目の前に来るまで気づけなかったわたしの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!赤着ぐるみの時より気づくの遅れるなんてなんという失態!この間なんてうっかり着ぐるみと友情成立させちゃったのに何の進歩もしてないじゃないかわたしの馬鹿!

「聞きたいことがあるんだけど…いいよね?」

「~~~……っ嫌です!!!」

「…は?え……ちょ?!待て!!」

うぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ嫌ですお断りです待ちませんんんんんーーーー!!

急遽始まった、わたしと緑着ぐるみの恐怖の鬼ごっこ。
わたしは顔面蒼白必死の形相で決死の逃亡を図った。迫り来る死からなんとしても逃げたいがための選択である。もう粗相とか淑女としてとかそんなことに構っている余裕はありません!
逃げる、なんとしてもから逃げる!走ってあれから身を隠すのよ!一瞬の隙でいかに距離をとるかが勝負…!負けない!逃げ切ってみせる!なんとしても!
お転婆と言われた脚力であれから―――

「僕が逃がすと思ってるの?馬鹿?」

ひぃぃぃいいいいい!!
きたぁぁぁぁぁあ!!

あれはヤバい!ヤンデレはやばい!本気でわたし殺される大ピンチ…!!
調子にのってルル嬢を笑った報いが今ここに…!!

「は い 、 捕 ま え た 。君、信じられないくらい足が遅いね。それで走ってるつもりなの?」

「…っひ」

鬼ごっこはあっという間に終了した。緑の着ぐるみに腕を掴まれるという完全なるわたしの敗北によって。

「それとも、捕まえてほしくてわざとなの?――その顔だと違うみたいだね。」

違います誤解ですだからこの手を離して!
全力で顔を振りその遠心力で溢れる涙が空に散る。赤着ぐるみとはまた別の意味でこの着ぐるみは怖い。外見は可愛い美少年系の着ぐるみではあるが如何せん、ヤンデレである。わたしの中ではこの着ぐるみはヤンデレで確定しているのだ。ヤンデレな着ぐるみってなにそれ超怖い!

ぎり…っと。
掴まれた腕に力がこめられた。

折られる……!!

「ねえ、この間とずいぶん態度が違うんじゃない?職員会議ではずいぶんと……強気だったっていうのにさあ?」

何故にばれてるのぉぉぉぉぉぉぉおおお??!!

「何でばれたかって?僕の情報収集力を舐めないでくれる?証言に立ったのが誰かくらい、簡単に調べはつくんだよ」

やっぱりやめとけばよかった!!
着ぐるみに同情なんてしたわたしが馬鹿だったのよ!殿下達にも当たり前みたいにばれてるしカミュ先生一体どういうことなんですか?!証言者の保護はどうした!!

「あぁ、そうか。ばれないと思ったからあんな態度がとれたんだ?愚かだね、先輩?」

着ぐるみの先輩になった覚えはない!

「ねぇ……」

緑の着ぐるみがわたしを掴んだままの手を見下ろし眉を寄せた。
もちろんわたしは泣いているし全身ガタガタと震えているのに一向に離す様子はない。おかまいなしだ。さすがヤンデレ。ルル嬢以外はどうでもいいという思考なのだろう。

掴んだままのわたしの手を上げて
制服の袖をもう片方の手で捲り上げた――

「なんで先輩、鳥肌たってるの?失礼じゃない?」

だってあなた着ぐるみじゃないですか!!それもヤバい方の!

「これでも僕、モテる方なんだけどな。ねえ、なんで?」

「っっ嫌いだから!!!」

「………は?」

はっ!間違えた!

「ちが…っ怖いからです!!」

あなた達が!

心の底から!!

「―――――怖い…?」

緑着ぐるみミラ様の声が地を這う。可愛らしい少年のボーイソプラノはどこいった!

わたしは涙目ながらもミラ様を睨みつける。
恐怖のあまりプッツンしてたのだと思う。

「へぇ……、君、ただのしたたかな女かと思ってたけど…」

ミラ様がわたしを離さないままに口元を歪め笑った。

「てっきり、ルルに成り代わるつもりかと思ったんだけど…すでに殿下達をたらしこんでさ。」

笑う。
緑の着ぐるみが笑う。

その笑い方は絶対15歳の笑い方でも着ぐるみの笑い方でもありません。
着ぐるみとは本来、子供達に夢と希望を与える優しさに満ちたファンタジーの象徴なのです!

「怖い?この、僕が…?嫌い?そんなこと……初めて言われたよ。」



お父様、お母様。
先立つ不孝をお許しください。

やっぱりわたし、ここで人生が終了するようです。
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