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本編
第11話「悪役令嬢青着ぐるみの懇願」
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カッとなってやった。
後悔している。
自分でも止められない熱い想いに突き動かされて考えるより先に叫んでしまったあの時。
生徒達の視線が集中した瞬間にもう後悔していた。
やってしまった…!
今更勘違いでしたなどど言えるはずもなく。
救世主が現れた!と感激する悪役令嬢の青着ぐるみにロックオンされたわたしは
「お話を聞かせてくださいませ」
と大きな両手でがしりと手を包み込まれ内心大絶叫しながらドナドナされた。
女の子の着ぐるみでも着ぐるみはやっぱり怖かった。空気を読んで叫んでその手を払いのけることを根性で耐えた自分は、偉いと思う。
「怯えていらっしゃいますからここはわたくしだけでお話を聞きますわ」
というエイレーン様の余計な気遣いによって普通の人間のお友達の皆様は退散してしまい、
放課後の教室で悪役令嬢青着ぐるみと2人きりである。カムバックお友達の皆様!そんな気遣いは無用どころか逆効果です!!
「まずは、お名前をお伺いしても?」
「…ルドフォン伯爵が長女、ユーリアです」
「ユーリア様…」
見るからに心を痛め疲れた様子のエイレーン様に、あからさまな怯えを見せるのは躊躇われ、引き続きふんばって平静を装うわたしを
「ありがとうございます、ユーリア様。大丈夫ですわ、証言したからといってあなたが不利な立場になることがないようあなたのことはこのわたくしが必ず守りますから!!だからどうか、安心してくださいませ。」
エイレーン様は証言することによってわたしが困った事態になることを恐れているのだと受け取ってくれたようだ。そんなふうに太鼓判を押してくれた。
エイレーン様っていい人なんだ…。
怖いのは怖いけど、エイレーン様に対する心象はよくなった。
ただ、できればもうちょっと。
離れてほしいけど言えない。
「それで…」
エイレーン様はさすが女の子の着ぐるみ。殿下達よりも背は低いし若干ではあるけれど華奢な作りだ。髪の毛と思わしき毛糸もよくよく見れば毛糸ではないのかもしれない。それよりずっと細くて繊細なものでできておりさらさらと綺麗な輝きを放っている。
ただ、わたしより大きいし顔のパーツが色々と人間とは大きくかけ離れていることは一緒だ。これがこの世界における美しさとわかってはいても受け入れられないわたしには怖い。
「現場を見ていた、と?」
「……はい」
わたしを気遣う優しげな表情から一変、真剣な表情になると
怖くて身体がびくりとしてしまう。
「あの子爵令嬢が自分で飛び降りるのをご覧になっていたのね?」
「はい…」
I can Fly!とか言いそうな勢いで飛んでました。今思ったけど違法薬物に手を出してたりしていないか検査してみた方がいいかもしれません。
「どこからどこまでを見ていたの?」
「……言い争う声が聞こえて…階段の上から覗き込んだら…お2人がいらっしゃって…子爵令嬢が飛び降りるほんの少し前です」
「…あの時は授業中でしたわ。何故あなたはそこに?」
う……
「それは………気に、なって……」
「気になる?」
エイレーン様の眉間に皺が寄る。自分に有利な目撃者の登場に喜ぶだけじゃなくちゃんと嘘ではないか見極めようとするところはすごい。嘘だったと露見した時のことを心配しているのかもしれない。
「はい…子爵令嬢が…その……エイレーン様を探しているという噂を、聞いて……申し訳ありません、野次馬根性でした」
どう言えばいいのかわからなくて
結局正直に打ち明けることにした。
「そうですの……」
エイレーン様に怒った様子はない。よかった。
「仕方ありませんわね。わたくし達は日頃から皆様に注目されてますから…」
「はい……」
「もう一度確認させてくださいな。ユーリア様は子爵令嬢が自分から飛び降りたのを確かに見たのですね?わたくしが突き落としたのではないと、はっきり断言できますか?」
「はい、できます。わたくしは階段の上からでしたが…エイレーン様と子爵令嬢の間に距離があったことも、エイレーン様の両手も両足も子爵令嬢に向かっていないことははっきり見えていました。」
「両足?」
「すみません、蹴ってもいなかったという意味です」
「淑女が蹴るのはさすがにありえませんわよ?」
「そうですね、すみません」
エイレーン様は困ったように笑った。仕方のない子ね、といわんばかりの優しくて慈愛に満ちた笑顔だった。多分。着ぐるみの顔だから断言はできないけど。
「子爵令嬢がそのあとわたくしに言ったことは?」
「聞こえました。殿下達は自分の方を信じてくれると。」
「……ええ、確かにあなたはあの場を見ていたようね。」
「申し訳ありません。」
その後は違うことを考えていて2人がどうやって解散したのか見てなかったんだけど。
エイレーン様が突き落としたんじゃないことだけは断言できる。
「では、ミラ様も見ていたというのは気づいてましたか?わたくしはあなたのこともミラ様のことも気づいていなかったのですけれど」
「それは…」
もう一度、思い出してみる。
2体の着ぐるみにばかり視線がいって周囲に注意を向けれていなかったことは間違いない。でも、わたしが見ていた階段は3階の最上部でそれより上はない。だからミラ様がわたしのさらに上から見ていたというのはありえない。同じ3階にいたというのも考えられない。わたしに気づかれずに階段下の出来事を見ることは不可能だ。エイレーン様とルル嬢が言い争っていたのは2階だし、ルル嬢は1階に向かって自らジャンプした。緑の着ぐるみはどこにいたの?2階か、1階にいた……?
わたしはゆるゆると首をふった。
「わたくしもわかりません。ミラ様がいたなんてちっとも気づきませんでした。どこにいらっしゃったのかも…検討もつきません。」
あんなに目立つのに。
「そう……」
「でも見ていたならミラ様はその時駆けつけなかったのですか?わたくしは…すみません、怖くてできなかったのですが」
着ぐるみ同士なら怖くないはずなのに。
ルル嬢の味方ならすぐに助けに駆けつけてもいいのに。
「そうなんですの。だからわたくしは不審に思っているのですわ。あの時、最後までミラ様は姿を見せませんでした。なのに後になって、あの場にいて見ていたというのです。」
「おかしいですよね…」
ヤンデレならルル嬢のために嘘の証言をしてるってこともありえるかも。
「…っっひぃぃ!ええええエイレーン様??!!」
途端、がっつりエイレーン様に両手を握られた。
裏返った声の奇声が出る。
「ユーリア様、今のことを職員会議で証言してくださいますわね?!」
「?!しょ、職員会議、ですか…?!」
わたしの両手を握ったまま、エイレーン様が大きく頷いた。フローラルな香りが鼻腔をくすぐる。さすが公爵家の着ぐるみ…!
「ええ、職員会議です。今回のこと、生徒だけで解決する問題ではありませんでしょう?殿下が先生方に相談して、職員会議でそれぞれの言い分を聞くことになりましたの。その時に、おそらくあちらは証人としてミラ様が出てくるでしょう。わたくしだけでは冤罪の証明はできませんわ。ユーリア様、職員会議でわたくしの無罪を証言してくださいませ!!」
大事になってるよ!!
「お願いしますユーリア様!わたくしを助けてくださいませ!!わたくしにはあなたしかいないのですっっ!」
「う……職員、会、議…」
そ、そそそそそれって
「子爵令嬢のルル嬢も公爵令息のミラ様も?」
計3体の着ぐるみのいる中に入れと?
「殿下方もいらっしゃいますわ。」
「ででで殿下達もですか??!!」
それって合計何体の着ぐるみが集合するんですか?!
全員?全着ぐるみが集合するってことじゃないの?!着ぐるみオールスターズってこと?!
「爵位のことなら心配することはありませんわ。ここは学院、爵位や身分を振りかざすことは禁止されています。だからこそあの子爵令嬢も、わたくしに喧嘩を売っていても無事なのですから。」
それって学院を出たら抹消されるってことですかね?!
「もしものことがあってもわたくしが父に頼んでユーリア様をお守りします。」
それも心配ですけどわたしが心配してるのは着ぐるみーズ…!
「ユーリア様……」
大きすぎる瞳をこれでもかとさらに大きくさせて。
きらきらと輝いているのは涙、なのでしょうか。着ぐるみから水分が……
「と………」
「と?」
わたしの手を握ったまま、
エイレーン様が首をかしげて聞き返した。
「と……………匿名希望で!!!それから衝立の用意を希望します!わたしの身体がすっぽり隠れるようなやつ!!変声器もあったらそれも!!!!!」
後悔している。
自分でも止められない熱い想いに突き動かされて考えるより先に叫んでしまったあの時。
生徒達の視線が集中した瞬間にもう後悔していた。
やってしまった…!
今更勘違いでしたなどど言えるはずもなく。
救世主が現れた!と感激する悪役令嬢の青着ぐるみにロックオンされたわたしは
「お話を聞かせてくださいませ」
と大きな両手でがしりと手を包み込まれ内心大絶叫しながらドナドナされた。
女の子の着ぐるみでも着ぐるみはやっぱり怖かった。空気を読んで叫んでその手を払いのけることを根性で耐えた自分は、偉いと思う。
「怯えていらっしゃいますからここはわたくしだけでお話を聞きますわ」
というエイレーン様の余計な気遣いによって普通の人間のお友達の皆様は退散してしまい、
放課後の教室で悪役令嬢青着ぐるみと2人きりである。カムバックお友達の皆様!そんな気遣いは無用どころか逆効果です!!
「まずは、お名前をお伺いしても?」
「…ルドフォン伯爵が長女、ユーリアです」
「ユーリア様…」
見るからに心を痛め疲れた様子のエイレーン様に、あからさまな怯えを見せるのは躊躇われ、引き続きふんばって平静を装うわたしを
「ありがとうございます、ユーリア様。大丈夫ですわ、証言したからといってあなたが不利な立場になることがないようあなたのことはこのわたくしが必ず守りますから!!だからどうか、安心してくださいませ。」
エイレーン様は証言することによってわたしが困った事態になることを恐れているのだと受け取ってくれたようだ。そんなふうに太鼓判を押してくれた。
エイレーン様っていい人なんだ…。
怖いのは怖いけど、エイレーン様に対する心象はよくなった。
ただ、できればもうちょっと。
離れてほしいけど言えない。
「それで…」
エイレーン様はさすが女の子の着ぐるみ。殿下達よりも背は低いし若干ではあるけれど華奢な作りだ。髪の毛と思わしき毛糸もよくよく見れば毛糸ではないのかもしれない。それよりずっと細くて繊細なものでできておりさらさらと綺麗な輝きを放っている。
ただ、わたしより大きいし顔のパーツが色々と人間とは大きくかけ離れていることは一緒だ。これがこの世界における美しさとわかってはいても受け入れられないわたしには怖い。
「現場を見ていた、と?」
「……はい」
わたしを気遣う優しげな表情から一変、真剣な表情になると
怖くて身体がびくりとしてしまう。
「あの子爵令嬢が自分で飛び降りるのをご覧になっていたのね?」
「はい…」
I can Fly!とか言いそうな勢いで飛んでました。今思ったけど違法薬物に手を出してたりしていないか検査してみた方がいいかもしれません。
「どこからどこまでを見ていたの?」
「……言い争う声が聞こえて…階段の上から覗き込んだら…お2人がいらっしゃって…子爵令嬢が飛び降りるほんの少し前です」
「…あの時は授業中でしたわ。何故あなたはそこに?」
う……
「それは………気に、なって……」
「気になる?」
エイレーン様の眉間に皺が寄る。自分に有利な目撃者の登場に喜ぶだけじゃなくちゃんと嘘ではないか見極めようとするところはすごい。嘘だったと露見した時のことを心配しているのかもしれない。
「はい…子爵令嬢が…その……エイレーン様を探しているという噂を、聞いて……申し訳ありません、野次馬根性でした」
どう言えばいいのかわからなくて
結局正直に打ち明けることにした。
「そうですの……」
エイレーン様に怒った様子はない。よかった。
「仕方ありませんわね。わたくし達は日頃から皆様に注目されてますから…」
「はい……」
「もう一度確認させてくださいな。ユーリア様は子爵令嬢が自分から飛び降りたのを確かに見たのですね?わたくしが突き落としたのではないと、はっきり断言できますか?」
「はい、できます。わたくしは階段の上からでしたが…エイレーン様と子爵令嬢の間に距離があったことも、エイレーン様の両手も両足も子爵令嬢に向かっていないことははっきり見えていました。」
「両足?」
「すみません、蹴ってもいなかったという意味です」
「淑女が蹴るのはさすがにありえませんわよ?」
「そうですね、すみません」
エイレーン様は困ったように笑った。仕方のない子ね、といわんばかりの優しくて慈愛に満ちた笑顔だった。多分。着ぐるみの顔だから断言はできないけど。
「子爵令嬢がそのあとわたくしに言ったことは?」
「聞こえました。殿下達は自分の方を信じてくれると。」
「……ええ、確かにあなたはあの場を見ていたようね。」
「申し訳ありません。」
その後は違うことを考えていて2人がどうやって解散したのか見てなかったんだけど。
エイレーン様が突き落としたんじゃないことだけは断言できる。
「では、ミラ様も見ていたというのは気づいてましたか?わたくしはあなたのこともミラ様のことも気づいていなかったのですけれど」
「それは…」
もう一度、思い出してみる。
2体の着ぐるみにばかり視線がいって周囲に注意を向けれていなかったことは間違いない。でも、わたしが見ていた階段は3階の最上部でそれより上はない。だからミラ様がわたしのさらに上から見ていたというのはありえない。同じ3階にいたというのも考えられない。わたしに気づかれずに階段下の出来事を見ることは不可能だ。エイレーン様とルル嬢が言い争っていたのは2階だし、ルル嬢は1階に向かって自らジャンプした。緑の着ぐるみはどこにいたの?2階か、1階にいた……?
わたしはゆるゆると首をふった。
「わたくしもわかりません。ミラ様がいたなんてちっとも気づきませんでした。どこにいらっしゃったのかも…検討もつきません。」
あんなに目立つのに。
「そう……」
「でも見ていたならミラ様はその時駆けつけなかったのですか?わたくしは…すみません、怖くてできなかったのですが」
着ぐるみ同士なら怖くないはずなのに。
ルル嬢の味方ならすぐに助けに駆けつけてもいいのに。
「そうなんですの。だからわたくしは不審に思っているのですわ。あの時、最後までミラ様は姿を見せませんでした。なのに後になって、あの場にいて見ていたというのです。」
「おかしいですよね…」
ヤンデレならルル嬢のために嘘の証言をしてるってこともありえるかも。
「…っっひぃぃ!ええええエイレーン様??!!」
途端、がっつりエイレーン様に両手を握られた。
裏返った声の奇声が出る。
「ユーリア様、今のことを職員会議で証言してくださいますわね?!」
「?!しょ、職員会議、ですか…?!」
わたしの両手を握ったまま、エイレーン様が大きく頷いた。フローラルな香りが鼻腔をくすぐる。さすが公爵家の着ぐるみ…!
「ええ、職員会議です。今回のこと、生徒だけで解決する問題ではありませんでしょう?殿下が先生方に相談して、職員会議でそれぞれの言い分を聞くことになりましたの。その時に、おそらくあちらは証人としてミラ様が出てくるでしょう。わたくしだけでは冤罪の証明はできませんわ。ユーリア様、職員会議でわたくしの無罪を証言してくださいませ!!」
大事になってるよ!!
「お願いしますユーリア様!わたくしを助けてくださいませ!!わたくしにはあなたしかいないのですっっ!」
「う……職員、会、議…」
そ、そそそそそれって
「子爵令嬢のルル嬢も公爵令息のミラ様も?」
計3体の着ぐるみのいる中に入れと?
「殿下方もいらっしゃいますわ。」
「ででで殿下達もですか??!!」
それって合計何体の着ぐるみが集合するんですか?!
全員?全着ぐるみが集合するってことじゃないの?!着ぐるみオールスターズってこと?!
「爵位のことなら心配することはありませんわ。ここは学院、爵位や身分を振りかざすことは禁止されています。だからこそあの子爵令嬢も、わたくしに喧嘩を売っていても無事なのですから。」
それって学院を出たら抹消されるってことですかね?!
「もしものことがあってもわたくしが父に頼んでユーリア様をお守りします。」
それも心配ですけどわたしが心配してるのは着ぐるみーズ…!
「ユーリア様……」
大きすぎる瞳をこれでもかとさらに大きくさせて。
きらきらと輝いているのは涙、なのでしょうか。着ぐるみから水分が……
「と………」
「と?」
わたしの手を握ったまま、
エイレーン様が首をかしげて聞き返した。
「と……………匿名希望で!!!それから衝立の用意を希望します!わたしの身体がすっぽり隠れるようなやつ!!変声器もあったらそれも!!!!!」
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