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ドジっ娘(死語)は嗜虐心と庇護欲を掻き立てる?

ここはプラトゥム邸、私はフロリス

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     😮

「お嬢さま? どうかなさいましたか?」

 ベッドから飛び出して、姿見に映る自分をガン見していると、リビングに繋がる扉ではなく、衣装部屋やメイドの控室の方から、声がした。

「え、えと、あの⋯⋯」

 私の様子に何かを感じたのか「失礼します」の一言で、侍女見習いのファニーが入ってくる。

「まだ、夜明けまで時間があります。もう少しお休みになった方がよろしいのでは?」

 エプロンドレスのポケットから、手巾を出して、私の額の汗を拭う。
 夜明けまで時間があるのに、あなた達はもう働いてるの?

「よくない夢でもご覧になりましたか? お着替えをしましょう。汗を拭きますから⋯⋯それとも、一度湯に浸かりますか?」

 ファニーの言葉を聴いてか、扉の向こうに控えていたメイド達がわらわらとお風呂を準備を始める。

 暖炉に火を入れてお湯を沸かし、ハーブティーを淹れて手渡される。

「飲めなくても、香りだけでも効果はありますから」

 鎮静・リラックス効果のあるハーブティーらしく、混乱はまだしているけれど、色々周りが見えてくるようになった。


 とにかく、落ち着いて、今の状況を整理してみよう──


 ラノベによくあるような、誰かの身体に私の精神が乗り移ったとか、俯瞰で同調しているとかの憑依系ではなさそう。
 ちゃんと、フロリス・プラトゥム伯爵令嬢としての十三年と二ヶ月の記憶はある。まぁ、物心つくまでの数年はノーカウントするべきかもしれないけど。

 また、聖女召喚や神様による異世界転移かと言われると、そういったものでも無さそうだ。
 姿は確実に、日本人じゃない。
 神様とかと、伯爵令嬢に転生させてあげますねとか、チート能力や祝福を授けますよなんてやりとりも記憶ない。

 どちらかというと、普通に生まれ変わって、熱や夢に魘されて、環境やこれまでの状況と見知ったゲームの内容との類似点やデジャビュ感にハッとなって、前世を思い出した系?

 でも、私の知る恥ずかしいタイトルのスマホゲームとは相違点も少なくない。

 現実(?)の私は フロリス 、学校に通っていないし、ルシーファ殿下は飛び級をしていて私と同級生にはなり得ない。

 グラディオーレ様は、あんなにハキハキとものを言うお蝶夫人のような美人ご令嬢ではない。おっとりとした癒し系で性格も愛らしい可愛い系美少女だ。
 同じく学校に通っていない分、やや世間知らず的な深窓の令嬢でもある。

 学校に通っていないから、田舎者を理由に虐められてもいないし、誰とも恋愛ストーリーは始まっていない。

 私の知識では、だけど。

 私の前世の記憶とやらが正しければ、ここは『暁の王子と宵の公子─煌びやかな校舎で恋をする─』というスマホのアプリとよく似た世界なんじゃないかと思うのだけど。
 思い当たるとは言っても、実は、そのゲームに詳しくない。クリアも出来てないし。

 とにかく、ただで先に進むアイテムの配布が一日5枚しかなくて、話が5話づつしか進まない。それ以上進めたければ、課金アイテムを使うしかない。
 5話と言っても、漫画やアニメの1話くらい進むのならともかく、ワンシーンで1話くらいなのだ。
 選択肢があると、その先に進むのにまた、1話分進行アイテムを使ってしまう。
 親密度を上げるアイテムも、普通に進めていってたのでは集まらず、限りなくノーマルエンドに近くなってしまう。
 その状態でハッピーエンドを迎えるには、一人に絞ってフラグを立て続けないといけないらしい。

「たぶん、初心者がプロローグの後の分岐点で最初に選ぶ、タイトル通り『暁の王子と宵の公子』編の、ルシーファ殿下かアーベントシュティアン=ヴェスペリ公爵令息さまを攻略するルートよね? きっと」



 
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