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ドジっ娘(死語)は嗜虐心と庇護欲を掻き立てる?
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お兄さまに小脇に抱えられてエントランスへ入っていく。
お母さまがお迎えに出て来たので、床にそっと降ろされる。
ワックスの効いた寄せ木の床が、少しだけコツンと鳴った。お兄さまの靴の裏は、すり減りにくいように硬く加工してあるので、私達女性の絹の沓と違って、硬い音がするのだ。
「フォオリウム、見ましたわよ?」
「すみません、ちょっと、妹と客人が仲の良いのを見て、苛々してしまいました」
肩を竦めて、客人応接用の小さめのサロンの方へ向き直り、私をエスコートしようとする。
「お兄さま?」
「お前に来客がある」
改めて来客があると言うからには、アーベントシュティアン様ではない誰かなのだろう。
そんな予定、あったっけ?
「フォオリウム? やきもちを妬くのはいいのだけれど、外出から戻ったところなのだから、フロリスに身仕度を調える時間をあげて?」
「⋯⋯申し訳ありません、心の余裕がなくて、失念しておりました」
「あなたらしくないわね?」
先に行ってお客様の相手をしているから、お前はお客様を迎えるに相応しく身なりを整えてきなさいと、お兄さまはサロンへ向かった。
そんな私達のやりとりを見ていたアーベントシュティアン様は、にっこり微笑んだお母さまに歓迎され、お兄さまが向かったサロンへ案内されていた。
お兄さま、アーベントシュティアン様と私、共通のお客さま?
リンデン先生は自室で明日の準備をすると言って戻って行くので、慌てて今日の付き添いの礼を述べる。
私の侍女のルスティカも、私の荷物を抱えながら、お客様を長くお待たせする訳にはいきません!と、身仕度を整えるべく私の部屋へと促してくる。
湯浴みする時間はないので、髪を梳き艶を出して結い直し、ドレスを外出用より落ち着いた、普段着よりは改まったものに着替える。
装飾品は、髪留めと編み込んだリボンだけに留める。
誰だか訊かなかったけれど、お兄さまの様子から言って、知らない人やあまり交流のない方、お父さまのお仕事や王宮の関係の人でもなさそうなので、肩の力も抜き、緊張を解くよう小さく深呼吸してから、サロンの扉をノックする。
お兄さまの応えに、ルスティカがそっと扉を開いた。
まず、お兄さまとお母さまの金髪と対称的な艶のある黒髪──アーベントシュティアン様の頭が目に入る。
ソファの背凭れ部分に隠れて、お兄さまとアーベントシュティアン様の表情は見えない。
お茶を飲むお母さまは、淑女らしく控え目ながら満面の笑みだった。
でも、お母さまもお兄さまも、お客様であるアーベントシュティアン様も上座には座っていない。三人とも、テーブルを挟んで向かい合った三人がけに対面して座っている。
お父さまやお祖父さまなら、お客様とは言わないだろう。
この三人より目上で上座に座る、私やお兄さま達と共通のお客さま? 誰?
メイド達がお茶を配ったりするために一脚しか置いてない下座の一人がけソファは空っぽ。
上座の、ふたりでも座れるふかふかソファにゆったり沈むように座って寛いでいたのは⋯⋯
「え? どうして、ここに居るの?」
上座の大きめのソファに鎮座していたのは──
ピンクゴールドでサラサラの少し長めの髪と、白磁のお肌で淡いピンクのつやつやほっぺに、お化粧している訳でもないのに鮮やかな薄紅の唇は魅力的で、煌めくミントガーネットの瞳は宝石のよう。
真っ白の、袖がゆったり広くて袖口や襟に華奢なレースを配った優美なシルクのシャツとスラックスが似合う美少年。
私が、半年前のお茶会で色白さんと呼んでいた、ルシーファ=アウローラ殿下だった。
お兄さまに小脇に抱えられてエントランスへ入っていく。
お母さまがお迎えに出て来たので、床にそっと降ろされる。
ワックスの効いた寄せ木の床が、少しだけコツンと鳴った。お兄さまの靴の裏は、すり減りにくいように硬く加工してあるので、私達女性の絹の沓と違って、硬い音がするのだ。
「フォオリウム、見ましたわよ?」
「すみません、ちょっと、妹と客人が仲の良いのを見て、苛々してしまいました」
肩を竦めて、客人応接用の小さめのサロンの方へ向き直り、私をエスコートしようとする。
「お兄さま?」
「お前に来客がある」
改めて来客があると言うからには、アーベントシュティアン様ではない誰かなのだろう。
そんな予定、あったっけ?
「フォオリウム? やきもちを妬くのはいいのだけれど、外出から戻ったところなのだから、フロリスに身仕度を調える時間をあげて?」
「⋯⋯申し訳ありません、心の余裕がなくて、失念しておりました」
「あなたらしくないわね?」
先に行ってお客様の相手をしているから、お前はお客様を迎えるに相応しく身なりを整えてきなさいと、お兄さまはサロンへ向かった。
そんな私達のやりとりを見ていたアーベントシュティアン様は、にっこり微笑んだお母さまに歓迎され、お兄さまが向かったサロンへ案内されていた。
お兄さま、アーベントシュティアン様と私、共通のお客さま?
リンデン先生は自室で明日の準備をすると言って戻って行くので、慌てて今日の付き添いの礼を述べる。
私の侍女のルスティカも、私の荷物を抱えながら、お客様を長くお待たせする訳にはいきません!と、身仕度を整えるべく私の部屋へと促してくる。
湯浴みする時間はないので、髪を梳き艶を出して結い直し、ドレスを外出用より落ち着いた、普段着よりは改まったものに着替える。
装飾品は、髪留めと編み込んだリボンだけに留める。
誰だか訊かなかったけれど、お兄さまの様子から言って、知らない人やあまり交流のない方、お父さまのお仕事や王宮の関係の人でもなさそうなので、肩の力も抜き、緊張を解くよう小さく深呼吸してから、サロンの扉をノックする。
お兄さまの応えに、ルスティカがそっと扉を開いた。
まず、お兄さまとお母さまの金髪と対称的な艶のある黒髪──アーベントシュティアン様の頭が目に入る。
ソファの背凭れ部分に隠れて、お兄さまとアーベントシュティアン様の表情は見えない。
お茶を飲むお母さまは、淑女らしく控え目ながら満面の笑みだった。
でも、お母さまもお兄さまも、お客様であるアーベントシュティアン様も上座には座っていない。三人とも、テーブルを挟んで向かい合った三人がけに対面して座っている。
お父さまやお祖父さまなら、お客様とは言わないだろう。
この三人より目上で上座に座る、私やお兄さま達と共通のお客さま? 誰?
メイド達がお茶を配ったりするために一脚しか置いてない下座の一人がけソファは空っぽ。
上座の、ふたりでも座れるふかふかソファにゆったり沈むように座って寛いでいたのは⋯⋯
「え? どうして、ここに居るの?」
上座の大きめのソファに鎮座していたのは──
ピンクゴールドでサラサラの少し長めの髪と、白磁のお肌で淡いピンクのつやつやほっぺに、お化粧している訳でもないのに鮮やかな薄紅の唇は魅力的で、煌めくミントガーネットの瞳は宝石のよう。
真っ白の、袖がゆったり広くて袖口や襟に華奢なレースを配った優美なシルクのシャツとスラックスが似合う美少年。
私が、半年前のお茶会で色白さんと呼んでいた、ルシーファ=アウローラ殿下だった。
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